「…あれ、結局私に会いにきただけだったのか?」 突然だが、私のランサーとラスプーチン氏は仲が悪い。らしい。
「げ」
「これはこれは……結構な挨拶ですな」
慇懃無礼という装いで、ラスプーチンは恭しく頭を下げる。アルスターの大英雄であるランサーへの敬意ということらしい、少なくとも、形式上は。
「何か用があったの、ランサー」
「あー……そういうわけでもねぇが」
歯切れの悪いその様子を見るにつけ、この人の前では話したくないということか。
「じゃあ、ちょっと待っていて欲しい。微小な特異点が出現したんだけど、これに関してはラスプーチンに対応してもらう予定で……」
その打ち合わせをしたいから、と。全てを言い終える前にランサーの方からため息のようなものが聞こえた。おや、久しぶりに聞いた、しばらくはそんなこともなかったのに……。
(ああ、というか、しばらく二人きりになることもなかったからか)
そういえば、と思い返してみると、ここのところはラスプーチンと行動することが多かったように思う。理由は特になかったが……なんとなく、日々の職務の中で、その方が都合が良いことが多かったからだ。
「お邪魔でしたかな?」
ふ、と意味深な笑みを浮かべ、ラスプーチンがそう尋ねた。「そんなことは」と返しそうになった私と彼の前に、ランサーがずい、と入り込む。
「ま、早めに
返して貰えるとありがてぇな」
「ほう、マスターがサーヴァントを、というならわかるが、サーヴァントがマスターを所持品扱いとは……いささか躾が足りていないのではないか?」
見えないけれど散っている気がする、火花が。
それにしても何故ランサーはこれほど彼につっかかるのか。確かに苦手なタイプではあると思うが、そんなのラスプーチン一人に限ったことじゃない。他のサーヴァントよろしく、無理に関わらなければいいはずなのだ。
「おいマスター、あんまりこいつに入れ込むなよ、ろくなことにならねぇ」
「はて……まさかアイルランドの英雄と、顔見知りなはずもないのですが」
「俺だって知らねーよ、知らねぇが、お前の顔が気に入らん」
それは普通に悪口だよランサー。
「やれやれ、随分と過保護な犬を飼っているものだな」
「——テメェ……」
おっ、一触即発というところまで来た。
もうここまでくるとほぼ他人事だ。しかし、目の前でどんぱちされるのも非常に困る。で、あれば、どうせこのまま打ち合わせを続けるのも難しいだろうし、ラスプーチンには帰ってもらう他にない。
——それにしても、ランサーのこれは、もしかして……
「まぁ〜……そう、過保護なんだ、私のサーヴァントは。だからごめんなさい、今のところはここまでにしよう。……さっきの特異点の話は、後でダヴィンチちゃんたちもいるところで、改めて」
そういうと彼は肩をすくめながら「承知した」と頷いて、嫌にゆったりとした足取りで部屋を出た。その背中を見送って、充分に立ち去るだけの時間をとってから、私は口角が上がるのも隠さず彼に問う。
「嫉妬?」
「たわけ、心配っつーんだこれは」
「じゃあそれでいいや、どっちにしろちょっと嬉しい」
私は椅子に腰掛けたまま、側に立つ彼の顔を見上げた。少し不機嫌そうに、口をへの字にしたままの彼。その顔すらちょっと愛しくて、正反対に私の口元には笑みが浮かぶ。
「ランサーってさ、私のこと大好きなんだ? そんな心配しちゃうくらいに」
「あ?」
あのラスプーチンは性根がどうだろうと、カルデアの召喚に応じた以上、基本的には我々の味方だと思って良い。襲撃の件があるにしろ、あれはこちらの彼とは別個体だ。普段の振る舞いを見ても、それなりに信用をしても良い人物である。……と、少なくとも、私はそう思う。
「安心してね、一応私だってカルデア職員、魔術師としての自覚はあるから、人外の存在にそうそう騙されたりは……」
「でもお前、ああいう男に弱いだろ」
「ん……、……」
図星の私、何も言い返せず。流石にランサーに
男の好みを指摘されては気まずさもあり、私は余計に黙り込む。いや、まぁ、そういう話でいうなら気が多いのは私よりもランサーの方ですけど。
「ま、なんかあったら俺を呼べ、あいつじゃなくてな」
「……やっぱり過保護」
「過ぎる≠アとはねぇだろ、こんな状況で」
「それはそうだけど」
話しながら、手を伸ばせば届きそうで届かない微妙な距離がもどかしかった。もしも、彼が「心配」じゃなくて「嫉妬」だと言ってくれたなら、私は嬉しさに飛び上がってすぐにでも彼に抱きつくことができたのに、と思う。
ああ、でも、言わないだろうね。言わないだろう彼のことが好きなので、私はそれでいいんですけど。
「ねぇ、やっぱりさっきの嫉妬じゃないの?」
「……、はぁ……お前がその方がいいっつーなら、それで良い」
「え、譲られた? 今」
そんな軽口の応酬も気分が良かった。「じゃあ、勝手にそう思うね」と私がそう言い切ると、彼はちょっと呆れたように眉を顰めてから、仕方ないなという顔をして「おう」と言ってようやく微笑んだ。
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