浅葱色の羽織、私を呼ぶ鈴のような声、そこまではいつも通りだったのだ。そう、そこまでは。
「お、沖田ちゃん、それ……」
「あ、マスタ〜! どうです? コレ!」
いつもと違うのは、髪型。大きなリボンでハーフアップで挙げられていた後ろ髪は、全部まとめてスッキリとポニーテールになっていた。
それから──袴。ない方が本来の仕事着だ、と言っていた彼女が、どういうわけか今日は袴を履いている。
──それは、サーヴァント達の過去の記憶や、あの邪馬台国で見た、新撰組時代の沖田さんの服装だった。
「もー、どうしたんですかマスター固まって……あ、もしかして見惚れてます? いやー困りましたね、沖田さんってば何を着ても美少女で」
愛らしい笑顔も、よく通る可愛らしい声もそのままで、だけどなんだか、いつもよりも、凛々しい姿で。
それが、なんだか、いつもと違う彼女が、こう、いつもよりずっと、かっこよくて、可愛くて──
「──なんか、ドキドキする」
「えっ」
そう言った私の顔は赤かっただろうか。今の彼女と同じように。
「……あ、ち、違くて! その、いつもかっこいいな、可愛いなとは思ってるんだけど! でもなんか、見慣れない格好だと妙にドキドキして……」
「あ、改めて言われると、なんだか恥ずかしいのですが……!」
「本当に、本当に可愛いって思ってるし……」
「わ、わ、わ、わかりましたから! わかりましたからっ!」
お互いにあたふたしながらそんなことを言い合って、それがおかしくって私は思わず吹き出す。彼女は「もー……」と言いながらも気を悪くはしなかったようで、照れたようにはにかんだ。
「変なこと言ってごめんね……やっぱり、似合ってるよ、沖田ちゃん」
「へへー! でしょう?」
にぱっと笑う彼女から、また目を逸らしてしまう私。中身は同じだとわかっているはずなのに、慣れないとどうもやっぱりソワソワする。
「もう、マスターってば、まだもじもじしてるんですか?」
「ご、ごめん……やっぱりまだ見慣れてないから」
「そうですか、なら」
彼女の白い手が私の手を取る。驚いて彼女の顔を見ると、今日一番の笑顔で彼女はこう言った。
「なら、今日は見慣れるまで一緒にいましょう! ……手始めに、お団子でも一緒にどうですか? マスター」
頬を桃色に染めながらそんなことを言われては──私はもう、首を縦に振ることしかできなかった。