貴方とシオンの花言葉


Chapter.8


「ふざけんなよオセロ女ァ!! 今日という今日こそはテメーの○○に☆☆を■■して△△を◇◇してやらぁ!!」
「やっだぁ下品ー! きったなーい! さいてー! 三億回くらい死んじゃえばいいのに」

 ねぇ、クラウスさーん、なんて彼の背中に隠れながら、ザップを小馬鹿にするようにニヤリと笑う。彼は、どうどう、と双方に落ち着くようにとジェスチャーを繰り返していた。

「そもそも悪口が小学生レベルか下ネタかしかないの? ザップってば、だっさ! だっさ!」
「うるせぇばーかばーか!!」

 本当に子供みたいな言い争いを続ける私たちに、彼は真剣な表情で「やめたまえ二人とも」と困惑した表情を向ける。放っておいたって大した事にはならないとみんなわかっているのに、それでも仲裁しようと一生懸命になるところは彼の可愛いところだと思う。

「てかオセロ女、テメー素がもろ出しだぞ、いいのかぁ〜? 旦那に嫌われちまうぞ〜?」

 指をうねうねと動かしてドヤ顔でそんな事を言う目の前の男。動きといい発言の内容といい、いやらしいというかなんというか……これで(一部の女性からは)モテるというのだから世も末だ。

「残念、それはない」
「はぁー? なんで言い切れんだよ」

 顔を顰めるザップの目の前で、私はクラウスさんの腕にぎゅっと抱きついてから自信満々の顔で言葉を続けた。

「だって私──クラウスさんに愛されて許されてますから♡」

 ぽかんとする、ザップ。それから周りで聞いていたレオ、ツェッドくん、チェインさん──みんなが口を開けて瞬きをする中で、スターフェイズさんの苦笑だけが聴こえていた。

「……スティーブンさん、なんすかあれ」
「吹っ切れて変に自信をつけたらしい、あれはなかなか厄介だぞ」

 なんとでも言え、愛されてるのは事実なのだから事実を事実と言って何が悪い。そう思って彼を見上げると、彼も彼で「そうだが、なにか?」というような顔で首を傾げていた。

「クラウスさん──」

 袖を引く。耳打ちするように手を口元へ寄せると、彼もそれに合わせて屈んでくれた。そんな小さな優しさすら私には愛おしかったので──

「──私も、だいすきです」

 小さな声でそう囁く。
 彼は虚を突かれて一度ぴたりと固まった後、恥じらいを込めた声で「私もだ、レディ」と言って私の手の甲にキスをした。

 見せつけてくれるねぇ、なんていうスターフェイズさんの言葉に、彼がハッと顔を赤くして、それを見たザップが、けっ、と中指を立てた。チェインさんはやれやれとため息を吐き、レオやツェッドくんは、良かったですね、と微笑んで──

「……こんな大切なものを、私は捨てようとしてたんですね」
「レディ──」
「大丈夫ですクラウスさん……もう、二度としませんから」

 彼の手が私の手を握る。大きな手、温かな手、優しい手──大好きな、彼の手。私はもう二度と、この手を離すことはないだろう。

 例え、彼がまた倒れ伏して、同じような不安が私を襲っても。今度は、彼の決意も彼の気持ちも、全部信じていられるはずだから。


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