「はじめに神は天と地とを創造された。」

「私、貴方の事、好きだよ」

 ──両の手を組み合わせ、膝をついて、私は彼に懺悔をする。まるで罪人のように。

「貴方の事が好き」

 ──彼の背中越しにマリア像を拝み見る。神々しく鎮座する神の偶像に祈りをささげるように。

「好きです」

 ──言葉を紡ぎ、音にならない気持ちは涙となってこぼれ落ちた。

「好き、」

 ──彼がゆっくりと振り返り、私を見る。
 ──その、およそ感情のようなものが読み取れない瞳で、私を見る。

「好きなんです」

 それでも言葉は止まらない。神に懺悔をするように彼への気持ちをただ吐き捨て続けた。
 
 ――そんな、夢を見た
 
 
 
 
 
 
 私と綺礼が出会ったのは、およそ十年前、
 冬木の大火災が起きるもう少し前――
 
 
 
 
 
 
 
「孤児、ですか」
「先日の――連続誘拐事件の、被害者の一人でな」

 そう言いながら大きな手が私の頭を撫でた。
 おやは、さらう、じゃま、そして、あのきゃすたーが、なぜ、それは、
 理解できない難しい言葉が頭上で飛び交う。ただ唯一わかるのは、私の両親はもう私の前には現れないだろうという事だった。

「しばらくはこの教会で面倒を見る」
「しかし今は」
「この娘は、遠坂葵の……禅城の血縁者だ」

 目の前の大きな男がピタリと動きを止める。
 とおさかあおい、その名前は聞いたことがある、お母さんが、誇りがどうのとか、鼻が高いとか、そんな話をしていた。

 ――関係ない、そんな話、私にはわからない。

 私を連れてきた神父さんと、大男はまた難しい話を再開する。
 まじゅつかいろ? うまれもったさいのう? 難しい、難しい、わからない、わかりたくもない。
 どうだっていい、なんだっていい、
 お父さんが死んだらしい、お母さんが死んだらしい、
 そんなことだってどうでもいい、だってどうせ、ふたりはわたしのことなんてみていなかったんだから。

「君」

 いつの間にか話は終わっていたらしい、大男が私の方を見下ろしていた。

「……なん、でしょう」

 余りの迫力に、思わず後ずさる。感情の見えない瞳のまま彼は私にきいた。

「名前は、何という」
「え、えと……神崎、涼」

 私の答えを聞くと、男はゆっくりと私と同じ目の高さに屈み──

「そうか、涼、私は言峰綺礼、今日からお前の面倒をみよう」

 そういって、大きな手が、私の手を包みこんだ。
○ ○ ○


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