「それから祝宴がはじまった。」


「あの時は流石に、怖かったよね」

 流れる汗をぬぐい、息を吐く。
 向かいではその大男――言峰綺礼が水の入ったボトルを傾けていた。

「ほう、私との鍛錬中に過去を振り返る余裕があるとはな、これはメニューの見直しが必要かな?」

 そう嫌味に笑ってボトルを一つ、私へ投げてよこす。
 勘弁してくれ、と私も笑いながらそれを受け取り。そのボトルに口をつける、
 ――と同時に吐き出した

「っ⁉ んぐっ、ぅっ、えっ……なにこれ」

 体が受け入れを拒否しているソレを少しだけのみこんでしまい、コレを寄越した当人をジロリと見る。

「ふ……私特製のプロテインドリンクだが、お口に合わなかったかな?」
「プロテイン」

 いやプロテインだけじゃないだろこれ。
 なにかこう、香辛料のようなものの存在を感じながらまた口に含んでみた。おかしな味がついていると知りながら味わえば、まぁ飲めないこともない程度の味の中に、やはりピリッとした刺激が混ざっていた。

「えげつな……」
「嫌なら、飲まなくても良いのだがな」

 私の手にあるボトルを奪い、彼が口をつけ、ゆっくりと動く喉仏に目が釘付けになる。
 ごくり、と音がなったのは彼だったか私だったのか。

「……飲むか?」

 ニヤニヤとこちらを見下ろす目に怒りが湧く。まさか彼は私が未だ異性との間接キスごときでドキドキと胸を高鳴らせる純情ガールだとでも思っているのか。

「……」
「どうする?」
「…………………………のむ」

 正解だ。
 どうも心の底から腹立たしいことに私はこの男に対して恋慕にも近い感情を抱いているらしく、更に腹立たしいことにそれに向こうは気づいているらしく、殊更に腹立たしいことにそれをネタにこうしてからかうことをこの男は楽しんでいるらしい。

 そして本当に自分でもどうかと思うのだが、
 彼の楽しそうな顔をみると、私はそれもまた悪くないと思ってしまっている、らしい。

「ほんと、さいてい……」

 ははは、と彼は笑いながら、「別にいつ出て行ってもらっても構わないのだがね」と続けた。

「まさか」

 出て行く当ても、出て行く気も一切ないのを知りながら、よくもまぁそんなことを、とそっぽを向く。

 ――ジリリ、と、
 遠くから、電話が鳴る音がきこえていた。

「電話」
「む」

 彼の耳にはきこえていなかったようで、少し驚いた顔をしてから教会の中へと戻っていく。
 その背中を見つめながら、震える右手をもう片方の手で握りしめた。

「聖杯、戦争……」

 あの電話は私の姉妹弟子である凛からのものだろう。
 私は知っている、知っていた、この始まりも、
 
 
 
 この終わりも。
○ ○ ○


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