序章「始まりの前夜」
月の綺麗な夜だった。別に、召喚の時間は夜でないといけないなんて制約はなかったと思うけど、人に見られずに、騒ぎにならずにというならやはり夜が最適だ。
「……よし」
必死の思いで手に入れたその“触媒”を手のひらにぎゅっと握り込む。
ようやく始まる、私の聖杯戦争
「──素に銀と鉄、礎に石と契約の大公。」
暗い森の中で、私はソレの召喚を、試みる。
「祖には我が大師シュバインオーグ」
この時のために、間違えないように、何度も何度も練習をしてきた。
「降り立つ風には壁を──」
ああ、ここまでは順調だ。
大丈夫……大丈夫、
「Anfang」
握った左手にじっとりと汗が滲んだ。
「告げる────」
詠唱が進むにつれて周囲の魔力が高まるのがわかる。すごい、こんなのは初めてだ、なんて魔力量だろうか。
……いや待て、これは流石に、想定以上、に、
(きいてないよ、母さん……! こんなに、大事だ、なんて……っ!)
けれどここまできて止めるわけにも行かなくて──
「な……汝、三大の言霊をまとう七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
今までより一層強い力と、光、それに風。
「う、わっ」
目を開けて居られず、顔を背けた。そのまま少し、耐えて、風と光が止んだ頃に恐る恐る陣の中心へと目を向ける、私の望んだ英霊がいることを信じて。
そして、そこにいたのは、
「バーサーカー、召喚に応じ参上した。……お前が、マスターか」
「え……」
そこに、いたのは──黒い怪物だった。
「バー……サーカー……?」
カラン、と、握っていた銀の耳飾りが、地面に落ちる音がした。
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