04.砂塵舞う道中
長らく住んでいた村を離れ、3人は今砂漠の中を進んでいた。360度何処を見ても砂、砂、ひたすら砂。
空を仰げば眩しい日差しに目が眩む。
若干朦朧とし始めた脳をなんとか奮い立たせながら、カーノは歩いてきた道を振り返った。
だがその先に在る筈の村は、もう見えなくなっていた。
話は数時間前に遡る。
まだ草の生えている畦道を辿っていた頃。
時間が経ち、少しずつ生来の明るさを取り戻し始めていたロイドは、当然の様に横を歩く兄に話を切り出した。
「なぁ、いいのか?」
「ん? 何がだ?」
「その……俺達に着いてきて」
返事は聞かなくても判っていたが、ロイドは言わずにはいれなかった。
カーノは自分達と違い何もしていない。だから勿論村を出る必要もないというのに、彼は知らぬ間に家から武器や荷物を持ち出して後を追ってきたのだ。
それはつまり、掟を破り人々を恐怖に陥れた自分達の為に、長年身を寄せていた村を棄てたということ。
「いいんだよ。どうせお前達だけで行かせたら、心配過ぎて何も出来なくなるからな」
人の事はいいから自分のこれからを考えろ、と笑うカーノに、やっぱりアンタはそういう奴なんだなと、ロイドは嬉しい反面申し訳なくなる。
「で、これからどうするんだ?」
「俺は……コレット達を追いかけたい」
元より自分は彼女らと共に行くつもりだったのだからと、ロイドは迷うことなく答えた。
「……そうか、わかった」
そして、カーノはそれに反論しなかった。
完全に納得したわけではないが、行く当ても無い以上、目的なく歩き続けるよりは、まだそう遠くへは行っていないであろうコレット達を探し回る方が動きやすいだろうと考えたからだ。
にしてもあれだけ止めたのに、結局最後はこうなるんだなと、この先に待つ危険な旅路を想像し僅かに眉根を寄せる。
「じゃあ、トリエットに行かなきゃね」
姉さんがそこに向かうって言ってたんだ、と小さい歩幅でロイドの隣を歩くジーニアスが言う。
トリエットというのは、確かここから南に位置する砂漠の中腹にある小さな町の名だったか。
確かにコレットに信託を下した天使は、南にある封印を目指せと言っていた気がする。
「よし、さっさと追い付くぞ!」
ロイドの掛け声と先に見えてきた砂地に気合いを入れ直した3人は、そうして長く続く砂漠へと踏み込んだのだった。
そして現在、その砂漠の中で、カーノ達は軽く遭難していた。
正直言って嘗めていた。
砂漠と言っても、要は道が砂に埋もれているだけだろうと、軽い気持ちで入ってきたらこの有様だ。
随分歩いた気がするが、風景は一向に変わらない。
吹き出る汗はどんどん量を増し、渇ききった喉は少ない水では潤しきれず、焼けるように熱い。
太陽の光を遮断するものが一切無いせいで、日光が頭から突き刺さり身を焼く。
更に足は砂に沈み、ただでさえ疲労し速度を落としていた3人を殊更苦しめた。
勿論そんな状況では体力も気力も持つ筈がなく、特に若い2人は直ぐに限界を迎える。
最初に倒れたのはロイドだった。
水を最年少であるジーニアスに譲っていた彼は、崩れ落ちるように砂の上に倒れた。
「……っ、ロイド!」
どうやら気を失ったらしく、もう自力で歩かせるのは不可能だと悟ったカーノは、彼を背負って歩き出す。
「カーノ、無理しちゃ駄目だよ……!」
「ここに置いていく訳にもいかないだろ? それより、お前もあんまり無理するなよ」
「僕は……大丈夫……」
口ではそう言うものの、その顔色は明らかに悪く、いつ倒れてもおかしくないなと気構える。
そしてその心配通り、何キロか進んだところで、ジーニアスも先のロイド同様倒れた。
何度か呼びかけてみると、小さく唸り声が聞こえ、まだ微かに意識があるのだと判った。
だがやはりこれ以上進むのは無理な様で、カーノは悩んだ末、数メートル後ろからついてきていたノイシュにジーニアスを乗せて貰うよう頼んだ。
頼むと言っても会話出来る訳ではないので、背に乗せてその反応を見るというだけだったのだが、大丈夫そうだと判断したカーノはその動物に少年を任せ、また足を前に動かし始めた。
そんな状態がどれぐらい続いただろうか。
いよいよ視界が霞んできて、カーノは前進を止めてしまう。
(……ヤバい、このままじゃ着く前に……)
絶望的な考えが一瞬浮かんで、それを取り払うように首を振る。
ずり落ちそうになるロイドを背負い直し、覚束無い足取りで漸く見え始めた建造物へと向かう。
見た目からして町では無さそうだが、今は休めるなら何処でも良かった。
とにかく体力を回復しないと、行き倒れになってしまう。
だが思考とは裏腹に、体は徐々に力を失っていった。
後ろからする心配そうな鳴き声も、実際の距離より遥か遠くから聞こえるように感じる。
そうして数分と経たないうちに、彼は力尽きて体を前に傾けた。
だが砂に埋もれるかに思えた体は、途中何かにぶつかって静止する。
薄れゆく意識の中で、彼はそれが自分の知る人物である事を知ると、安堵したようにゆっくりと瞼を下ろした。