04.砂塵舞う道中
村を出る前、墓前に立って誓いを立てた。ここから動けない貴女の代わりに、未だ見つからないその父親の代わりに、俺がロイドを護ると。
なのにこの様は何だ?
出発してまだ日も変わって居ないうちに、俺はあいつから手を離してしまった。
結局俺はあの時と同じで、無力でしかないんだな。
「………?」
重い瞼が持ち上がり、視界に飛び込んで来たのは綺麗な橙。
自分の目と同じ色をするそれが夕暮れの空なのだと理解するまで、カーノはぼんやりと空を眺め続けた。
「! 兄貴!」
と、近くから聞き慣れた声がして、ゆっくりと首だけを動かす。
その目に写ったのは、心配そうに自分を見つめるロイドの姿で、声に反応した他の面々も顔を覗かせる。
「良かった……目を覚ましたのね」
「ごめんねカーノ、僕らが先に倒れちゃったから……!」
胸を撫で下ろすリフィルや心底申し訳なさそうに謝ってくるジーニアスに、活動を停止していた脳が状況の把握へと動き出す。
(……そうだ、確かトリエットに行く為に砂漠を歩いてて……途中でロイドが倒れて、ジーニアスも倒れて、それを背負ってノイシュと2人で……)
起きたばかりの彼の脳は、断片的な記憶を荒々しく繋ぎ合わせていく。
はて、その後はどうしたんだったか。
今居るのはどうやら遺跡か何かのようだが、自力で辿り着いた覚えは無い。
という事は、運良く誰かに助けられたのか。
それと、リフィル達が居るという事は、ここは封印のある場所なのだろうか。それとも単に休息の為に立ち寄っただけなのだろうか。
一気に溢れ出た謎を解くことを寝起きの脳が拒んだので、仕方なくまだ疲れの残る体を起こして辺りを確認する。
瓦礫が重なり合い、石柱は所々が欠けている。今座っている場所は石畳のようだが、すぐ先にはまだ砂地が広がっている。
「ここは……」
「旧トリエット跡よ」
カーノの疑問にリフィルが即座に答えた。
「話は聞いたわ。ジーニアスが迷惑をかけたわね」
話、というのは恐らく村で起こった事だろう。
その原因である弟の行為に責任を感じているその姿は、教師ではなく姉という立場のリフィルをよく表していた。
「いえ、俺は何も……自分で勝手についてきただけですから。それより、どうして俺は此所に居るんです?」
「覚えていないの?」
「砂漠を歩いていた事は覚えているんですが、途中からの記憶が無くて……」
「貴方はロイドを背負って砂漠を歩いていたのよ。けれど途中で力尽きて倒れてしまったの」
ああ、やっぱり倒れたのかと、うっすら残る記憶に間違いが無かった事に安心すると同時に、自分の不甲斐なさに多少苛立つ。
だが、それより先に聞かなければならない事があった。
「なら、誰が俺達を運んでくれたんですか?」
「ロイドやジーニアスを運んだのはノイシュ、
貴方を運んだのはクラトスよ。彼が貴方達を見付けてきてくれたの」
それを聞いてすぐ、カーノの脳裏には倒れる直前に見た人物の顔が過った。
そういえばそうだったなと忘れていた自分を心の内で叱りつけ、礼を言うべくその恩人の姿を探すと、少し離れた場所でノイシュの顎裏を撫でる相手を見付けた。
妙になついているノイシュに首を傾げながら、足音に気付いて視線を寄越したクラトスに手で軽い挨拶をしながら近寄る。
「ここまで運んでくれたんだってな? 手間かけさせて悪い。おかげで助かった、有難う」
まだ知り合って間もない相手にみっともない所を見られたなと、カーノは気恥ずかしさを誤魔化すようにノイシュの頭を撫でながら礼を述べる。
クラトスはそれについては何も言わず、これからどうするつもりかと問う。
「……出来るなら、旅に同行させて欲しい。迷惑はかけないように最善を尽くすし、コレットちゃんの……神子の安全を優先するよう心掛ける」
「同行に反対していたのではなかったのか?」
「状況が状況だ。護ってくれとは言わないし、もし旅の途中で邪魔になるような事があったら、捨て置いてくれて構わない」
ハッキリ言い放ったカーノを、その言葉に偽りがないか、覚悟がどれほどのものかを見定めようとするかのように、クラトスは暫く黙したまま見つめた。
その視線に目を背けそうになるのを堪えた結果、男2人が真顔で見つめ合うという奇妙な時間が流れた。
そこから救い出してくれたのはロイドだった。2人の居ないうちに話を進めていたらしいロイドは、コレットとリフィルの許可を得て見事同伴が決定した事を嬉々として報告に来たのだ。
まだクラトスの許可は得て無いだろうと言うと、名前を上げられた人物は無言のまま、ロイドと入れ替わる用にコレット達の元へと去って行った。
その後ろ姿をムッとした顔で見詰めるロイドに、カーノは苦笑を零す。
「相変わらず無愛想な奴。何話してたんだ?」
「助けて貰った礼を言ってたんだよ」
「ふーん。まぁ、これで正式に世界再生の旅についていける事になったんだし! なんかやる気出てきたな!」
数時間前の暗さは何処へやら、すっかり元気になったロイドが言う。
まぁずっと落ち込まれるよりはいいけどな、と笑顔を振り撒く少年を見遣った。