04.砂塵舞う道中
「素晴らしい! ここも魔科学で作られているな!」封印にたどり着き、両手を広げ盛大に喜ぶリフィル。が、コレットの胸元の石が突然光り出し、周囲は軽いパニックを起こした。
「試練が始まるのだろう。気をつけろよ」
1人冷静なクラトスが剣に手をかけ、前方を睨み付ける。
どこからともなく発生した霧が辺りに立ち込め、その中心にある祭壇から、封印の守護者であるクトゥグハが現れた。
炎を纏った獣は台座から静かに前足を下ろし、口を大きく開けたかと思うと巨大な火の玉がカーノ達を襲った。
それをかわして各々臨戦体制に切り換え、カーノも又ケースから等身の長い銃を引き抜き構える。
動き回る標的を的確に捉え引き金を引くも大したダメージは与えられず、後方でジーニアスが繰り出した水の輪も触れた途端蒸発してしまった。
「大丈夫か? ロイド」
「ああ……けど、これじゃ熱くて近付けやしねぇ」
敵の第一撃を喰らってしまったロイドが火傷した肌の痛みに顔をしかめる。
それを見たクラトスがロイドを背に庇うようにして立ち、短い呪文を呟いた。
瞬間、傷口が淡い光に包まれ痛みが治まる。
「あんた、魔術が使えるのか!?」
驚いたロイドは自分に背中を向ける男を見上げる。
それを横目で見ながらカーノは再び銃を構え、ジーニアスを呼んだ。
「無理言って悪いが、もうちょっと強力な魔術は無いか?」
「前に本で読んだやつなら……エクスフィアもあるし出来ると思う」
ただ詠唱に時間が……と言葉を濁すジーニアスに、ならばと今度はクラトスとロイドに事情を話し協力を仰ぐ。
「ジーニアスの護衛は俺がやるから、2人は敵の気を惹いて時間を稼いで欲しい」
「護衛?」
「飛んできた火の玉の盾くらいにはなれる」
どうやって、と聞きたそうなクラトスにロイドがしれっとした態度で答えた。
「あんたと同じで、兄貴も魔術使えるんだよ」
クラトスが鋭い目を僅かに大きくし、兄貴と呼ばれている青年の爪先から頭までを見る。
「……人間だと思っていたのだが」
「正真正銘の人間だよ。それを言うならアンタもじゃないか?」
魔術は本来、エルフやハーフエルフにしか扱えないものだ。
なのに、今この場にはその道理から外れた者が二人も居る。その状況に今一番吃驚していたのは本人達だった。
「まさかアイオニトスを……」
「ちょっと! 呑気に喋ってる場合じゃないよ!」
クラトスの言葉にジーニアスの声が被さり、ハッとしたロイドが真っ先に走り出す。
暫く何か言いたそうな顔でカーノを見ていたクラトスも、少し遅れて敵に向かっと行った。
「もう、しっかりしてよね!」
「悪い、頼んだ」
しょうがないなぁとぼやきながら、武器であるけん玉を自在に操り、目を閉じて詠唱に入る。
その間、カーノは言った通り敵の攻撃から小さな少年を護り、クラトス達も剣舞で相手を翻弄した。
「二人とも離れて! ――――アイシクル!」
そうして完成した魔術はクトゥグハの体を貫き、そのまま地面へと倒れ伏した。
戦いを終え見事な活躍をしたジーニアスに皆が称賛を送ったのも束の間、直ぐに次の仕事が待ち構えていた。
「……大地を護り育む大いなる女神マーテルよ、御身の力をここに!」
最初に誓いを交わした時と同じように、手を組み祭壇に祈りを捧げるコレット。
それに応えるように天使が現れる。
「見事な働きであった。ほどなく、火の精霊イフリートも目覚めよう」
「はい、レミエル様」
「クルシスの名のもと、そなたに天使の力を与えよう。天使への変化には苦しみが伴うが、それも一夜のこと……耐えることだ」
3つの光がコレットに降り注ぎ、その背に半透明の羽が生えた。
瞑目していたコレットが顔を上げる。
「試練なのですね、わかりました」
「次の封印はここより遥か東。かの地で待っているぞ、再生の神子コレットよ……」
天使の体は足元から薄れ消える。
絡めていた指をほどき、コレットが後ろを振り向くと、唖然としていたロイド達が一斉に駆け寄った。
ジーニアスやロイドは見たことの無い羽に興奮し騒ぎ立て、リフィルは先程の天使の言葉を再確認する意味で復唱する。
コレットもそんな反応に笑みを溢すが、一転して羽が千切れるように消え、体制を崩した。
「コレット!? どうした!?」
「……だいじょぶ。ちょっと、目眩がしただけ……」
心配はかけまいと笑顔を保つコレットだが、その顔からは血の気が退き、呼吸も細くなっている。
「何で急に……」
「先ほどの天使の言葉を思い出せ」
クラトスが慌てふためくロイドを退けて、フラついているコレットを抱き上げた。
「天使への変化には試練が伴うのだ。安静にした方がいい」
確かにそんな事を言っていた気もするが、いくらなんでもこの苦しみ方はおかしいんじゃないかと皆が訝しげにクラトスを見る。
だが相手はそれを受け流し、遺跡の外へと歩き出した。
色々な面で先を越されたロイドがその後を追い、リフィル、ジーニアスの順で遺跡を出ていく。
最後まで残っていたカーノも、納得のいかない面持ちでそれに続いた。