06.共鳴する傷痕

その日の晩、パルマコスタで一泊することになった一行は、疲れが溜まっていた事もあってすぐに宿に入っていった。
大体いつもそうしているように、リフィルとジーニアス、ロイドとカーノ、クラトスとコレットという部屋割りになる筈だったのだが、

「……悪い、クラトスと話があるから」

一緒にしてくれ、とカーノが言い出したことで、部屋の鍵を配ろうとしていたリフィルは手を止めた。
ロイドは気にした様子もなく了承したが、他のメンバーは「あのカーノが」と常々ロイドの側を離れたがらない青年を信じられない目付きで見る。
そしてご指名を受けたクラトスも話というのに思い当たる節がなく、訝しげに相手を見た。

意義を唱える者が居なかったので、部屋割りはカーノが望んだ通りとなり、中に入ってドアを閉めたところでクラトスは「何の用だ」とベッドに腰を下ろす男に尋ねる。

「………ごめん」

開口一番、珍しく会話のキャッチボールを無視したカーノは謝罪を述べた。
それが何に対してなのかクラトスは考えて、

「……牧場でのあれか?」

可能性の高そうなものを口にした。

つまり自分に話があるというのは建前で、本当はただロイドと同室になるのが気まずかったのだろう。
それなら他の者でもいい気がするが、恐らくいつもと違う行動を取った自分を問い詰めてくると予想し、何も聞いてこないであろうクラトスを選んだのだ。

ならば今の謝罪は「巻き込んで悪い」という意味か。とそこまで予測を立てたクラトスは、剣を外し壁に立て掛け、空いている方のベッドに腰を下ろす。

「……そうして気に病んでいても仕方がないだろう。お前が止めず、パルマコスタで真実を告げていたとしても、結果は同じだった」

過ぎた事を嘆くなと言えば、カーノはまた項垂れた。

「……こうして落ち込んでても仕方ない事は分かってる。でも、俺が隠すよう仕向けたせいで、ショコラを余計な危険に晒して、ロイドにもあんな辛い想いをさせたんだと思うと……」

一向に顔を上げようとしないカーノに、クラトスは溜息を吐いた。
そんなものは結果論でしかない。早くに真実を伝えていれば状況が良くなったということでも無いだろうに。

(まぁ…それだけ大事に想っているということなのだろうな)

彼はいつもロイドを一番に考えて行動する。
本当にロイドの兄なのかという問題は置いておくとしても、その想いは本物なのだろうとクラトスは思った。

「ならば、次に間違わぬようにすればいい。そうして下を向いたままでは、また同じ過ちを繰り返すぞ」

返事を待たず、クラトスは徐に立ち上がる。
後は1人で考えろと行動で示したクラトスに、漸く顔を上げたカーノが慌てて立ち上がりその腕を掴んだ。

「待っ………俺が、出ていくから……」

掴んだ瞬間、カーノは眉根を寄せ息を詰めた。
不自然に途切れた言葉にクラトスが振り返ると、腕を掴む男の脇腹に血が滲んでいるのが目に留まる。

そこはマグニスと戦った際に傷を受けた場所だった。
応急処置としての軽い治癒術しかかかっていなかったそこは、移動や総督府での戦いで開いてしまっていた。

「看て貰った方がいい」

「いや……でも、リフィルさんも今は疲れてるだろうし……」

息苦しそうに言葉を切って話すカーノに、クラトスは気の回しすぎだと呆れる。
怪我が悪化して足手まといになられては困ると、渋るカーノを半ば強引に教師の元へと連れていった。

その結果、

「どうしてもっと早く言わなかったの!!」

時計の針が12を過ぎ静かになり始めた宿場に、リフィルの怒声が飛んだ。
ロイド達がもし寝てたら今ので起きたかなと、ベッドに寝かされたカーノは申し訳ない気持ちで隣の部屋に続く壁を見る。

患部を見たリフィルは直ぐ様置いてあった杖をその上に翳して、大規模な治癒術を発動させた。
斜めに入っていた傷は癒え、その痕を残すことなく消える。

やはり凄いなと相手の手腕に感心したのも束の間、今度はお説教が始まった。
これ以上無理をしないようにとクラトスに監視を命じて、リフィルは二人を部屋に押し戻す。

「巻き込んで悪いな」

「気にしていないが、今日はもう休んだ方が良かろう」

クラトスのその言葉に従って、やっと痛みから解放されたカーノは、朝日が昇るまで大人しく眠った。
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