07.大禍時は迫り来る
ディザイアンが彷徨く牧場周辺の木陰に隠れ、侵入手段を画策した一行は、まず近くに来た兵士を倒しその服を剥いだ。それをリフィルが着て、ロイドを捕えた兵士として門番に話しかける。
すんなり中に入れた一行はそのまま牧場内を動き回り、街の人々が収容されている牢を探した。
「結構広いのね…何処にあるのかしら。」
入り組んだ通路を前後左右くまなく走り回るが、行っても行っても似たような部屋があるだけで、鉄格子は見当たらない。
それでも負けじと走り続けると、やがて広い空間に出た。中央には長いベルトコンベアが流れていて、その上には等間隔で長方形の箱が並んでいる。
記憶に眠っていたそれの正体を思い出したカーノは、箱の中を覗き見て唇を噛んだ。
その中身は人間だった。老若男女問わず1人ずつ入ったそれにロイドは愕然とした。
「いたぞ!!侵入者だ!!」
男の声にハッとして、隠れようとするも都合良くそんな場所はなく、いくつかの足音と共にやって来た兵士に皆はあっという間に囲まれる。
遅れてやって来た3人のうち1人、他とは違う格好な事からして恐らく牧場の責任者だろう中年男性は、逃げ場を無くした団体を見て笑った。
「どうやって侵入したのかは知りませんが…残念でしたね。」
「……クヴァル」
男を睨み、憎しみを込めてその名を呟く。
口から出たその音は近くに居たクラトスにのみ聞こえたようで、相手は驚いて此方を見た。
「どういう事だよ…、
何で人間がこんなとこに入ってるんだ!?」
知っているのかと聞こうとしたクラトスの声はロイドの叫びに掻き消される。クヴァルは笑みを崩す事なく無知な少年に残酷な真実を教えた。
「エクスフィアの生産の為ですよ。
それらは全て培養体です。」
淡々と、何でもない事のように言ったその言葉に、ロイドの目は見開かれていった。培養という言葉が耳から頭に届き、恐ろしいものを見る目付きで己の手の甲についた石を見た。
「……まさか、」
「何も知らずに使っていたのですか?
エクスフィアは始めはただの石なのですよ。人間の体に寄生しその命を吸い上げることで、漸く我々の力を引き出す増幅機となるのです。」
わなわなと身を震わせるロイド。それは怒りのせいだけではなかった。
エクスフィアの作られる過程など、今まで深く考えてはいなかった。普段手にする武器や防具と同じように、ただの道具だと思っていたのに。
自分の力が人の命の上に成り立っていたのだと知ったロイドは、衝動のまま手から石を取り外し投げ捨てようと振りかぶったが、その腕をカーノが掴む。
「…やめろ。」
「何で止めるんだよ!?」
「それはお前の母親の命なんだぞ!?」
珍しく声を荒げる兄に、ロイドがピタリと動きを止める。皆が静まり返る中、クヴァルだけはカーノの発言とロイドのエクスフィアに顔色を変えた。
「…そうか、貴様がロイド・アーヴィング。
以前処分した培養体の息子か。」
今度こそ、皆が固まった。
ある者は少年の痛みを感じ、ある者は隠していた事実をバラされて焦り、ある者は自らの母親の境遇に言葉を失い、ある者は仇を知り憎悪を滲ませた。
「…どういう事だ…!?」
「そのエクスフィアは私が長い時間をかけた研究の成果の1つ…、
しかし薄汚い培養体の女がそれを持って脱走したのです。
もっともその罪を死で購いましたが…。」
感情のこもらない声で紡がれるそれは皆の心を容赦なく抉った。
「それが培養体A012、人間名アンナ。
…貴方の母親ですよ。」
ご丁寧に補足説明まで入れたクヴァルに、ロイドは怒りに任せて怒鳴った。
「おまえが…お前が母さんを…!!」
だがそれを痛くも痒くもないといった様子で、相手は更に続けた。
「勘違いしてもらっては困りますね。
母親を殺したのは私ではない、君の父親なのですよ。」
え、と困惑の色を見せる少年の後ろで、カーノは撃ち殺してやろうと銃に伸ばしていた手を止めた。
今こいつは何と言った?
「要の紋がないままエクスフィアを取り上げられたA012は化け物になり、それを父親が殺したのです。」
「…嘘だ…!!」
カーノの気持ちをそのまま声に出したロイドをクヴァルが嘲け笑う。
化け物に変えられた事は知っていた。自らの目でそれを見た。
だがそれは既に彼女が息絶えた後その骸を見て知った事で、自分は追手に殺されたのだと思っていた。15年間ずっと。
なのに。
「所詮は二人とも薄汚い人間、生きている価値もないウジ虫よ!!」
「…死者を愚弄するのはやめろ…!!」
敵は憤慨するクラトスをも見下し、石を奪還すべく兵に攻撃を命令する。
唯一平静だったしいなが札を取りだし、式紙を召喚して敵の目を眩ませた。
「一旦退くよ!!」
黙り込むロイドの腕を引いて、出口へとひた走るしいな。
「カーノ!!急いで!!」
「ああ…、」
ジーニアスに呼ばれるも、式紙の向こうに居る仇から目が逸らせずにいると、クラトスに腕を掴まれ強引に連れていかれた。
その手には力が篭っていて鈍い痛みに思わず声を漏らすが、周囲の騒音で聞こえなかったのかそれが弱まる事は無かった。