07.大禍時は迫り来る

「…あの、大丈夫ですか?」

語り明かして眠りについていた皆を起こしたのは、見知らぬ男性の声だった。

「吃驚しましたよ、こんな所で倒れているものですから…てっきり…」

被災地で横たわる団体を見れば普通それは死体と思うよなと、苦笑する男に同調する。
この街の人を助けようとしたが失敗し逃げてきたのだと話し、何か裏道のようなものを知らないかと駄目元で聞いてみると、意外な情報が降って湧いた。

「それなら、ハイマに行くのはどうですか?
牧場から逃げ出して来た人が居るらしいですよ。」

あの人なら裏道も知ってるんじゃないでしょうかと、旅の青年は言った。皆は顔を見合せ、手がかりをくれた青年に礼を言い直ぐ様ハイマへと向かった。



「すみません、牧場から逃げた人の事を知りませんか?」

一通り街の人に聞き込みを行うと、最終的に宿屋にたどり着いた。
皆にソフィアと呼ばれていた女性はカーノの発言を聞くなり表情を険しくした。


「…彼はもう死んだのよ。」


俯く女性にそんな、とせっかくの勝機を断たれ肩を落とす。しかしそのまま宿を飛び出した女性を追ってみると、相手は坂の途中の墓場で立ち止まり、振り返った。

「…生きてた頃、岩で出口を塞いできたって話してたわ。

お墓の中に彼の持ち物があるの。
牧場の人を助けるつもりなら…持っていって。」

それだけ言い残し去っていくソフィアに感謝し、悪事と解りつつも墓を掘り起こす。出てきた黒い水晶玉のようなものを懐に納めて土を戻し、墓の下に眠る男性に感謝と祈りを捧げた。

「貴方とソフィアさんの気持ち、無駄にはしません。必ず助け出してみせます…!!」

目を閉じて決意を新たにするコレットに、勿論だとロイドも誓いを立てる。
そこでふと、ジーニアスが同じ名前の並ぶ墓を視界に捉えた。

「…この人たち、家族だったのかな。」

そっと墓に触れ目を落とすジーニアスに、カーノ達もその墓を見る。
長細い木に掘られてある文字は所々欠けていたが、ファミリーネームにあたる場所がそこに眠る者達の関係を表していた。


それを目で辿って、カーノは全身の血を落下させた。


「名前のとこが読めねーな。えーっと…」

顔を近付けるロイドの肩を掴んで、墓から引き離す。吃驚するロイドに、あまり人の墓を覗くのは良くないぞと言ってそのまま坂を下り始めた。
突然移動を開始したカーノに皆が慌ててついて行く。

「どうしたの急に?」

「いや、もう目的は達成したんですし、早く助けに行かないと。」

「それはそうだけれど…、」

言っている事は至極もっともなのだが、やけに焦っているカーノにリフィルが首を傾げる。
他の面々も同じようにしたが、カーノは振り向く事もせず街を出た。





そうして前回と同じように牧場の敷地を木々に隠れながら移動した一行は、ソフィアが言っていた岩の前で、墓から掘り出してきた物を手に岩を押し出した。
すんなりと横に動いた岩の裏には身を屈めれば通れる程の大きさの穴があり、施設の中へと道が続いていた。

薄暗い通路を抜けると人工的な光が照らす空間に出る。まず目についたのは巨大な装置で、それをリフィルが器用に操作し、電子板に建物の見取り図が表示された。

右側に人々が収容されていると思われる大きな部屋があり、左側にはそれより少し小さい部屋があった。

「恐らくは管制室でしょうね…、
昨日会ったあの男もそこに居る筈だわ。」

名前を聞かずとも浮かぶのは憎き親の仇の顔で、下卑た笑みを浮かべる男を思い出してロイドはまた怒りが込み上げてくるのが分かった。

街の人を助け出すのと、クヴァルを倒すのとを皆でやるよりも、2手に分かれた方が効率が良いだろうと急遽2つのグループを編成する事になり、ロイドは真っ先に管制室へ行くことを希望した。

「母さんの仇を討ちたいんだ…!!
兄貴もそうだろ!?」

当たり前のように兄も手を上げると思っていたロイドがカーノを見るが、相手は悩んだ末に街民の救出を希望した。

「…そりゃ、仇も討ちたい。
でも、今は街の人が心配なんだ。

だから敵討ちは、お前に任せる。」

「……そっか。」

確かに頭初の目的は街の人を助ける事だったのだし、仕方ないかとロイドは納得した。


(…なんて、それだけじゃないんだけどな。)


落胆するロイドに、カーノは小さくごめん、と謝った。本心はロイドと同じでクヴァルをこの手で倒したい、だがそれが出来ない理由が彼にはあった。
今すぐにでも倒しに行きたい衝動を封じ込め、クヴァルの討伐に同行すると言ったクラトスにロイドを頼んで、カーノ達は暫しの別れを告げた。





牢へ向かうついでにロイド達が進む道に設置された仕掛けを解き、襲い来るディザイアンは叩きのめしながら奥へと進む。

「…ここか。」

鉄格子が並ぶ部屋にやって来たカーノ達は、牢のロックを外し中から出てきた人々を出口まで誘導した。
警報を聞きつけ増員した兵士が阻む道を切り開き、無事に外まで送り届けてロイド達の元へ行こうとするカーノを、助けられた少女が呼び止めた。

「お兄ちゃん、助けてくれてありがと!!
お礼にこれあげるねっ」

小さな手が握り締めるそれは何かの鍵で、何だろうと思いつつも幼い少女の好意を有難く受けとる。

「リーナ!!何してるの?」

人の壁を割いて出てきた女性に、母親かと聞くと少女は満面の笑みで頷いた。

「…名前、リイアっていうのか?」

「? ううん、りーなだよ!!」

ニコニコと笑う少女に、馬鹿な質問をしたなと苦笑する。
もう居るわけはないのにと、目の前の少女と良く似た小さな女の子を思い浮かべて、それを記憶の底にしまった。

「助けて下さって有難う御座います。」

「無事で何よりです。

…それじゃあ、俺はまだやる事があるんでこれで。」

「ばいばーい!!」

大きく手を振る少女に手首を左右に動かし立ち去ろうとすると、またもや呼び止められた。しかしそれは少女にではなくその母親にで、

「…あの、貴方何処かで…」

会ったことないかしら?と言う相手に、ああもしかしたら昔にすれ違ったりしてたのかもなと、記憶にうっすらと残る同じ境遇の人々を思い出しながら、カーノは返した。


「…多分、人違いですよ。」


告げることの無い真実を、己の中に隠して。

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