08.繋がりは離れ壊れ

翌朝、救いの塔から一番近いと言われるハイマで、皆は塔へ向かう唯一の手段である飛竜の手配が整うまで、各々自由行動を取ることにした。

皆不安なのは同じで、当事者であるコレットだけが明るく振る舞っていた。余計な気を遣わせぬようにとコレットはロイドと2人にして、残り少ないアイテムの補充をして回った。

だが観光地でもない土地ではやることも限られていて、暇を持て余したカーノは1人集合場所で皆を待つことにした。
高い位置にあるからか、風の吹き付けるその場所に腰を下ろし、崖から足を投げ出してぶらぶらと宙に漂わせる。少し長い髪は風に遊ばれ右へ左へ靡いていた。首に巻いたスカーフが飛ばぬようにと手で押さえながら、随分遠い所まで来たもんだと眼下に広がる草原を見つめる。

旅の始まりであり、自分達が長い間暮らしていた村は今や遥か遠く、その姿は見えない。焼き払われた家は少しは元に戻っているだろうか、そう言えば自分が良く手伝いに行っていた畑の主は元気だろうかと、どこまでも続く大地の先にある村とそこに居るであろう人々を思い浮かべる。

そういえば、この旅が終わってもし皆が無事だったとしても、自分を含めロイドやジーニアスには帰るべき家がない。ならば目的を果たした後自分達は何処に行けばいいのだろうかと、今更ながら重大な事実にぶち当たり悩む。

ロイドや自分はともかく、ジーニアスの家は村の中だ。ジーニアスが戻れないのであればリフィルも戻るつもりは無いだろう。自分が村長に頭を下げに行くのもいいが、ジーニアスに戻る気が無いのなら意味はない。

(ダイクに頼んで一緒に住まわせて貰うか…?それも大変かなぁ…)

赤の他人を拾ってここまで育て上げるほどの人物なのだから頼めば断りはしないだろうが、流石にあの家で5人で暮らすのは少々無理があるかもしれない。それにリフィルは女性だ、色々困ることもあるだろう。

なかなかいい案が浮かばず唸っていると、背後に人の気配を感じた。こちらの姿を確認しても声をかけない人物というのは知る限り1人しかおらず、すぐ側で止まった人影にカーノは無意識のうちに表情を和らげた。

その反応を見て意外だと思ったのはクラトスで、露骨に嫌そうな顔をするような人物ではないとは知っていたにしても、今のような笑顔に近いものを返されるとは思っていなかった彼は、相手にとって自分はそれほど嫌悪に値する存在ではないらしい事を知った。

「1人か?」

「まぁな、やる事もなくてさ。」

座るか?と隣を手で叩いて誘うカーノに従い腰を下ろす。そのまま2人はしばらく黙って遠くを見ていたが、せっかくなのでカーノは今しがた悩んでいたことを相談する事にした。

話を聞いたクラトスは、また仲間の事で悩んでいるのかと、自分自身の悩みは一切打ち明けない相手に自分なりの意見を告げた。

「お前が悩まずとも、あの2人なら自分の事は自分で何とかするだろう。」

カーノは思った、確かにリフィルもジーニアスも他の同年代に比べしっかりはしている。それは解ってはいるのだが、過ごしてきた時間の中で最早友人ではなく仲間と呼ぶに相応しい相手だからこそ、今こうして心配しているのだと。
行く当てはあるのか、親族は居るのか、もしこのまま路頭に迷うようなことがあれば…と、杞憂かもしれない事をただただ考えた。そうして黙り込んでしまったカーノにため息をつき、クラトスは話題を変えた。

「…ところで、お前は何時になればあの約束を果たしてくれるのだ?」

このセリフも言い飽きたなと、船旅をしていた頃から言い続けている言葉に思う。何度聞いてもはぐらかされ先延ばされ、聞くことの出来なかった話。
真実を聞くとしたら今しかなかった。塔に行ってしまえば永久に答えは聞けないかもしれない。クラトスはこの後に自らがとらなくてはならない行動を深く胸に刻んだ。

勿論それがどんな行動かなどとカーノは知る由もなく、またかと何時ものように返した。

「…わかった、随分長いこと待たせたもんな。」

一瞬、話してくれるのかと期待した。が、「でも」と続けられまた表情が曇る。

「全部終わったらな。」

つまりそれは、救済の旅を完遂すれば明かすということか。それでは遅いのだ、今でないと意味がない。そう言おうとしたクラトスをカーノが止める。

「アンタの言いたいことは解る。
そりゃ帰ってこれないかもしれない。でもだからこそ、俺は今言いたくないんだ。

言ったらなんか、未練とか無くなりそうでさ。」

違う、そうではない。私は100%ここには、お前たちと一緒に戻ることは出来ないんだ。クラトスは口から出かかった言葉を飲み干した。そして何を返すことも出来なかった。

「俺は死なない、だからアンタも死なないでくれ。

皆で一緒に帰って来よう。」

真っ直ぐに目を見つめる相手に、クラトスは珍しく笑った。ただしそれは柔らかい笑みなどではなく、寂しそうな、約束を果たせないと知っていながらもそれに頷くしかない自身を嘲笑するようなものだったのだが。

「…そうだな。」

彼は目を閉じて、もしもその通りになれたらと、決して訪れる事のない平穏な未来を思い描いて、少しだけ胸が痛むのを感じた。
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