08.繋がりは離れ壊れ
出立の準備が整い、皆が決意を新たに竜に跨がる。
クラトスは護衛の為にとコレットを後ろに乗せ、残った面々も適当にペアを組む。
「兄貴、操縦とか出来るのか?」
カーノの後ろに座るロイドが手綱を握る兄を不安気に見る。流石に竜の操縦などしたことはないが、やり方なら先程この竜を貸してくれた男に教わったばかりだ。まぁなんとかなるだろうと握る手に力を込める。
「墜落はしないだろ、多分。」
「多分!?あんまり怖い事言うなよ!!」
「大丈夫だって。
そろそろ行くぞ、しっかり掴まってろ。」
綱を軽く引けば、竜は頭を上げ地を蹴り宙へと飛び出す。体勢を整えるまでの数分は浮游感に苛まされたが、平行移動へと変わるとそれも無くなった。
風が頬をきり後方へと流れる。上空から見る地上はとても小さく、それがどれほど高度に居るかを物語り身を震わせる。
「…な、なぁ兄貴、兄貴は旅が終わったらどうするんだ?」
気を紛らせる為なのか、服の裾をこれでもかと掴むロイドが問う。
流石に後ろを振り向く余裕のないカーノは前を向いたまま喋る。
「んー…、どうだろうな。
やる事も無いしなぁ…。
お前はどうするんだ?」
思い付く事も無かったので、質問をそのまま返してみると、意外にも彼はすんなりと答えた。
「船を作って世界中を旅したいんだ。
この旅で色んな事を知って、もっと見てみたくなったんだ。」
夢を語るロイドの言葉はとても綺麗で、力強かった。未来をしっかりと見据え希望を持っている、そんなロイドが少し眩しかった。
「どうせなら兄貴も一緒に行こうぜ!!
あぁでも、一番最初に船に乗せるのはコレットだけど…」
「それはそれは。
なら俺は遠慮するべきかな?お邪魔だろうから。」
少し笑い混じりに言うと、ロイドは顔を赤くして「そんなんじゃないって!!」と怒鳴った。何もそんなに必死になって叫ばなくてもいいのにと、若さ故の反応に笑った。
まるでこの先何事もないかのように、その時だけは何もかも忘れて平穏を楽しんだ。それでも2人が今居るのは空の中で、向かう先が救いの塔だというのは変わらないので、その時間は長くは続かなかったのだか。
塔の入り口に着地した一行は、そこに先に降りたっている筈のコレットとクラトスの姿がないことに疑問を抱いた。
竜が居るという事は無事に辿り着けたのだろうが、辺りには自分達以外に人の気配はしない。ということは、
「先に行ったのか…?」
大きく開かれた扉からして多分間違いはないが、その理由が解らない。それにクラトスはともかく、コレットは仲間を置いていくような子ではなかった筈だ。
まぁ別にそれで何かマズい事があるわけでもないのだしいいかと、気にせず塔の内部へと入る。が、ロイドはコレットが心配なのだろう、1人で先々進んでいく。
神聖な場所だからか敵はおらず、故に今回は先走るロイドを止めることもせずその後をつける。
「…リフィルさん?どうしました?」
塔に入ってからずっと難しい顔をしている女性の横に並ぶ。コレットの事が心配なのだろうと践んでいたのだが、彼女が口にしたのはその名ではなかった。
「…貴方は、クラトスの事をどう思うかしら?」
「……?クラトス、ですか?」
何故今のタイミングでそんな事を聞くのか、カーノはその言葉の意味を考える。だが答えを出す前にリフィルは言った。
「私は…彼をコレットと2人にするのは不安だわ。」
そこまで言われれば相手の言わんとしている事もわかる。明るい話ではないと理解したカーノは笑顔を崩した。
「…アイツが、信用ならないって事ですか?」
「…こんな事を言ってごめんなさい、貴方は彼と仲が良いのに…」
仲が良い、その言葉は何か違う気がして否定する。確かに話す機会は多いかもしれないが、その内容と言えばほとんどが腹の探りあいだ。
「彼について解らないことが多すぎるのよ。
それに剣捌きはともかく、ただの傭兵にしては知識が豊富過ぎないかしら?」
あれはいつだったか、ディザイアンの牧場に乗り込んだ際、彼はやけに内部の構造について詳しかった。マナの守護塔での罠を解いたのもほとんどがクラトスだ。どちらも一般兵が入るような場所ではないにも関わらず、彼は初めから道を知っていたかのようにスイスイと複雑な道を進んでいた。
今まで気に留めていなかったが、言われてみれば確かに不審かもしれない。それも元から知り合いだった自分達の中で、クラトスだけはまだ知り合って日も浅いのだから尚更なのだろう。でも、
「大丈夫…なんじゃないですかね。」
とても漠然とした思いで確証もない言葉を、カーノは溢した。それは僅かな時間の中で、クラトスという人物に対して抱き始めていた感情の表れだった。
カーノにとってクラトスは既に他人ではなく、かと言って友人かと言われれば難しいのだが、傷を負えばそれなりに心配になる存在ではあった。
「皆程ではないにしろ、アイツも一緒に旅をしてきた仲間なんですし、流石にあんな小さい女の子に危害を加えるような奴じゃあないと…」
思いたいです。声が段々小さくなってしまったのも、最後が願望系で終わってしまっているのも、やはり自信がないからなのだが、カーノはクラトスが自分達の仲間であると、そうあって欲しいと思っていた。
「…信頼しているのね。」
その気持ちを聞いたリフィルは目を伏せ、何故か苛立ちのような、もやもやとしたものが沸き上がるのを感じて、これ以上話すのは何かマズい気がして歩く速度を速めた。
その為、いや別に信頼とかそんなしっかりしたもんじゃなくて、どれかというとインスピレーションに近いです。そう言おうとしたカーノは、いや別に、までしか声に出せずに、1人置き去りにされてしまった。