08.繋がりは離れ壊れ

「なんだよ…これ…」

分岐点もなく、ただ真っ直ぐに続く通路を進んだ先で、彼らは恐ろしい光景を見た。

空中に無数に浮かび螺旋をつくるソレが何なのか、最初はわからなかった。縦長の全く同じ形の箱は天に続く塔の中をゆっくりと回りながら上昇していく。

誰しも一度は見たことのあるその箱の形。不気味な雰囲気を醸し出すそれに皆は足を止め、ジーニアスの言葉に顔を青くした。

「もしかして…これ全部、死体……!?」

数えきれないほどの、死体。それらは歴代の、世界再生に失敗した神子達のものだろうとリフィルは言った。
何故こんな場所にそんなものがあるのか、突如として沸き上がった嫌な予感が全身を駆け巡り血液は急速に落下していく。そして一斉に駆け出した。さっきよりも急いで、血相を変えて。皆の考えは同じだった、このままではコレットも、同じようにされてしまうのではないかと。

不気味な空間からワープホールを使い脱出し、祭壇へと辿り着く。そこには床に膝をつき、祈りを捧げるコレットの姿。

「さぁ、再生の神子コレットよ、最後の封印を今こそ解き放て。
そして人としての営みを捧げてきたそなたに最後に残されたもの、

心と記憶を捧げよ。」

そんなコレットの前で、いつものように羽と手を広げ神託を下すレミエル。その顔には笑みが浮かんでいたが、その口から出た命令は皆の心臓を凍らせた。

何を、何を言っているんだコイツは?

「それを自ら望むことで、そなたは真の天使となる!」

こちらを気にも留めず話を進めるレミエルに唖然とした状態から復活し、咄嗟に儀式を止めに入ろうとしたロイドの腕を、リフィルが掴んだ。

「先生!?」

「…コレットは、ここで人としての死を迎え、天使として再生するのよ。」

“死”という言葉だけが嫌に耳に残り、皆の脳裏にさっきの光景が蘇る。並ぶ棺と、その中で眠る子供達。

「…どういう、事ですか…」

「…ごめんなさい、コレットに口止めされていたの。
世界を再生すれば…、それと引き替えにコレットが死ぬ。

それが、天使になるということなの。」

まさか、悪い冗談だ。そう思いたくなるほどに嫌な話で、最悪の事実だった。
レミエルはそれを何ともないといった顔で、それどころか嬉しそうに説明を付け足す。

「それは少し違うな。
神子の心は死ぬが、体はマーテル様に捧げられる。
神子の体を捧げることによって、マーテル様が復活するのだ。

それこそが世界再生!マーテル様の復活が世界の再生そのもの!」

「…ふざけるなよ。」

低い声でレミエルを睨みつけ、銃を取る。
自分達が此処までコレットを連れてきたのは、そんな事をさせる為ではない。

「そんな…コレットの犠牲で再生する世界なんて…!」

ロイドも耐えきれずに叫び、儀式を止めに入ろうとした2人をリフィルが止める。

「私だってあの子が変わってしまうのは嫌だわ。

けれど他にどうしたらいいの、このままではシルヴァランドも滅んでしまうのよ…!?」

至極もっともな事を言われ、返す言葉を失う。
旅の中で何度も考え、選び取ることの出来なかった選択。

コレットか 世界か

それは決断するにはあまりにも酷で、ずっと先伸ばしにしてきた問題。だが避けて通るのも最早限界だった。
選ばなくてはならないのだ、今この場でどちらを護るのか。

「さあ神子よ、再生の祈りを!」

悩む時間もなく、儀式は終わりへと向かう。
足場は光り、コレットは立ち上がってこちらを振り返った。


《…ロイド、》


その時、話すことの出来ないはずのコレットの声が、皆の耳に届いた。


《私…ロイドがいたから、この世界を護りたいって思えるようになったんだよ。
ロイドがいたから、16年の命を生きようって思えたの。

…もう私の声は届かないけれど…》


最後に見た彼女の表情は、泣きたくなるぐらいに笑顔だった。



《ありがとう、ロイド。》



その言葉は、どんな罵倒より、どんな攻撃より、心を深く抉り引き裂いた。


「コレット…!!」

胸元の輝石は光を失い、少女の目は虚ろになる。
まるで人形のようなその姿に、呆然と立ち尽くす。

「俺…言ったのに…、
何があっても必ず守るって…、

コレット…!!」

悔しさも悲しみも苦しみも、感じていたのはロイドだけではなく。
2人をずっと見守ってきたカーノらも、同じように胸を締め付けられていた。

綺麗な金の髪、丸い大きな瞳。とびきりの笑顔と、元気な声。
礼儀正しくて、少しドジで、誰にでも優しく接してくれる、皆にとっての大事な人。

そんな人間が何故、犠牲になどなるのか。

彼女に何一つ感謝を返せないまま、この世界は生き延びるのか。
最後まで、彼女の優しさに甘え、自分達はのうのうと生きていくのか。

「…くっ、クハハハ…ッ!
どうだ!とうとう完成した!マーテル様の器が完成したぞ!!

これで私が四大天使の空位におさまるのだ…!!」

1人高笑いをするレミエルに、そして結局何も出来なかった自分に殺意さえ覚える。ここまで憤りを感じたのは久しぶりだった。

「まちな!コレットをどうするつもりだ!?」

「…天に導くつもりだわ。」

敵意を剥き出しにするしいなと、どうすればいいのかわからないリフィルやジーニアスがレミエルを睨む。

「…許さねぇ…、
何がクルシスだ、何が天使だ、何が女神マーテルだ…ッ!!

コレットを返せ!!」

「それは出来ない。
長い時間をかけてようやく完成した器なのだからな。」

憤慨するロイドに怯むこともなく、あくまでもコレットを物として扱うレミエルに、カーノは銃を投げ捨て素手で殴りかかろうとする。
その行動には冷静さなど微塵もなく、ただ殴り飛ばしたいという感情のままに彼は動いた。

「さぁ貴様たちにもう用はない、消えろ!!」

だがそんな衝動的な攻撃がすんなり敵に当たるわけもなく、レミエルは手に魔力を集め、こちらに向け振りかぶった。

別にその攻撃が当たっても構わないと思った。いくら傷付けられても、きっと今の自分は痛みを感じないだろうから。

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