08.繋がりは離れ壊れ





「…………え?」




他でもない、カーノだった。


剣は彼の肩に少し食い込んだところで止まっていた。そこから血が溢れ地面に小さな血溜まりが出来る。

その傷を見て、ゆっくりと上を向いた。死んだと思って活動を停止していた脳に、目が捉えた映像が流れ込む。

「………クラ、トス…?」

それは相手の、悲痛に歪んだ表情だった。カーノは驚いて目を見開く。そんな顔を、今まで見たことがなかったからだ。
そしてその表情は恐らく、今のこの状況からくるもので。


「あんた……」


これは、ほんの少しだけでも、自分を斬りたくないと思ってくれたという事なのだろうか。

「…………ッ!!」

肩を裂く刃が僅かに震えるのを感じて、まだ希望はあると判断したカーノは口を開いたが、


「やはりいかなお前でも、本気で対峙するには至らなかったか…」


全く聞き覚えのない声が、発した声をかき消した。

空から新たに光の塊が落ちてくる。それは人の形になり、クラトスはそれに対し剣を納め跪く。

「…ユグドラシル様。」

コレットよりも長い金の髪を靡かせ、背に生えた羽を羽ばたかせた男は、意識のある3人を順番に見た。

「…お前がロイドか。」

こちらを見て一瞬何か考えるような素振りをしたが、何を言うでもなくその視線はロイドに移る。

「何者だッ 」

「我が名はユグドラシル。

クルシスを…そして、
ディザイアンを統べる者だ。」

男が何もない空間を指差すと、どこからともなく剣が現れる。

瞬間、ロイドの体が遥か後方に飛ばされた。


「…ッ、ロイド!!」


柱に叩きつけられたロイドは、力無くその場に倒れ伏す。
まるで何かに殴られたかのようだったが、攻撃のようなものは一切確認出来ず、ただ見えない何か弾き飛ばされたとしか思えなかった。

何だ、今のは。未知の恐怖に全身が強ばる。男はそのままロイドへと近寄っていく。

「クラトス、異存はないな…?」

「………」

聞かれたクラトスは目を背け黙秘する。それに笑みを浮かべ、ユグドラシルはロイドに向け掌を広げた。

ヤバいと感じたカーノは軋む体をなんとか起こし、残った魔力の全てを男にぶつけた。
その先のことなど考える余裕はなかった。ただ、男の攻撃の矛先をロイドから外させようと必死だった。

相手は顔色1つ変えずにそれを防ぎ、冷たい目でこちらを見た。

「…貴様、余程死に急ぎたいようだな。」

もう自分に出来ることはない。カーノは祈る気持ちで目を閉じた。自分の無事ではなく、ロイドの無事を。
このままでは、皆殺されてしまう。

(頼む…っ、誰か起きてくれ…!!)

戦う気はもう無い。今はただ、ロイドをこの場から逃がしたかった。


「…!!」


その願いが届いたのか、奇跡は起こった。
何処からか火の玉がユグドラシルに向けて放たれ、それと一緒に鎧を纏った兵士が一斉に駆け込んで来る。

「リーダーからの命令だ、全員連れ帰れ!」

「はっ」

何人もの兵士が傷だらけの一行を助け起こす。コレットも手を引かれ、皆の元へと連れていかれた。
その間も、ユグドラシルへの攻撃を止める事はない。

「おい、立てるか?」

カーノの元にも兵士がやって来る。何とか上体だけ動かせる事を教えると、兵士はこちらの腕を首に回し立ち上がらせた。

「…あんたらは……?」

「説明は後だ、今はここから逃げる事だけを考えろ。」

全員を運び終えると、兵士はワープホールを造り出した。攻撃に徹していた者達も、タイミングを見計らい舞い戻る。

「撤退します!」

攻撃が止み、防御を解いたユグドラシルが反撃に出る。まだ移動出来ていなかったこちら目掛けて飛んできた力の塊を、カーノに肩を貸していた兵士が防ぐ。

「………っ!!」

おかげで傷が増えることはなかったが、衝撃による突風で首に巻いた布が飛ばされた。




「………!?」

事の成り行きを、内心ハラハラしながら見ていたクラトスは、露になった首元を見て目を細めた。

そこには細かな装飾の施された金色の首飾りがあった。そしてその真ん中にあるものを見て、我が目を疑う。



蒼く煌めく半透明の石。それはロイドの手にあるものと同じ。



「…っ!!」

慌ててスカーフを巻き直し、一度だけこちらを振り返ったカーノは、そのまま兵士と共に姿を消した。

どういう事だ、何故あのエクスフィアが。見間違いではないのかと思うクラトスだったが、背後に立っていたユグドラシルが小さく呟いた。


「何処かで見た顔だと思えば…成程、あの時の男か……!!」


クツクツと笑う相手に、知っているのかと問う。だがそれに対しての返答は、こんな命令文だった。

「クラトス、お前に新しい仕事が出来たぞ。」

悪魔のような笑みを浮かべるユグドラシルに、嫌な予感がした。
そしてその口が紡ぐ言葉は、呪詛となって彼を縛り付ける。



「あの男を捕まえてこい。」



もしかしたらアレは自分が思っていたよりも厄介な人物なのかもしれないと、今や敵となってしまった青年を思い浮かべた。
目次へ戻る | TOPへ戻る