09.終わらぬ輪廻


「あっ兄貴!」

朝、いつもは自分より遅い筈のロイドが先に起きていた事に新鮮味を感じながら、とりあえずおはようと朝の挨拶をする。

「要の紋はどうだ?出来たのか?」

「おう!」

ロイドが握っていた手を前に差し出して開く。掌の上には首飾りがあった。
真ん中に綺麗な石が嵌め込まれ、土台には細かい紋様が石を囲むように刻まれている。

「だいぶ上手くなったな。」

「そうかな?でもまだ親父には敵わねぇよ。」

照れたように笑うロイドに、その成長を感じてこちらも嬉しくなる。こうして少しずつ色んなことが出来るようになっていくんだろうな。

「でも兄貴にそう言って貰えると、夜通し頑張った甲斐があったな。」

「ん?夜通し……って、

お前まさか徹夜でやったのか!?」

「要の紋彫るの初めてだったから手間取ってさ。」

苦笑するロイドに、道中で倒れてくれるなよとハラハラする。
だがそれだけ必死なのだろうと思うと胸が傷んだ。これでちゃんと戻ってくれればいいが…と、過った一抹の不安を揉み消す。

他の仲間達も起き出し、最後に緊張感の無いゼロスが大きなあくびと共にやってくる。昨日のことで少し気まずさを感じたカーノは、パッと顔を背けた。

だがそれは逆効果だったようで、ゼロスが肩にのしかかってくる。

「つれないなぁハニー。
何、昨日のことまだ怒ってんの?」

「誰がハニーだ…、
別にもう気にしてない。」

「なら何で今顔背けたんだよ。」

「…もういいだろ、今はそれよりコレットちゃん達の事に集中しろ。」

肩に乗った腕を退けると、ゼロスはへーへーと漸く離れる。何でこんなに執拗に絡んでくるのか、一気に疲れた気がして溜め息をついた。


そしていよいよ、ロイドがコレットに要の紋を装着させる。ゆっくりと頭から首飾りをかけて、皆で祈るように見つめる。

コレットは静かに、眠るように目を閉じた。そしてそのまま動かなくなる。

まさか、失敗か。誰もがそう思い表情が険しくなる。ここまで来たのに、あれだけ頑張ったのに。頼むから戻ってくれ…!と諦めずに待った。

しかしロイドはやっぱり自分が作ったものじゃ駄目かと、首飾りに手をかける。アルテスタさんにもう一度作り直して貰えばいいと言うその表情に、見ているこっちまで辛くなって。



そんなロイドの手を、コレットの手が包んだ。



ハッとしてロイドが顔を上げる、その先にはコレットの笑顔。


皆が目を大きく開いた。


「…ほんとに誕生日プレゼントのペンダント、直してくれたんだねロイド。

ありがとう。」


「コレット……!」


わっ!!と一斉に歓声が起こり、絶望が一転喜びに変わる。いつぶりかわからないコレットの声と笑顔に、思わず視界が霞んだ。

「わかるのか俺が…俺たちが!」

「うん!もうだいじょぶ。

本当はね、ずっとわかってたの。だけどうまく話せなくて体も何も動かせなくて…、
ごめんねロイド。」

「謝るのは俺の方だ、守るって誓ったのに守りきれなかった…、お前を辛い目にあわせちまった。

ごめんなコレット…。」

互いに謝り合う2人。でも、とロイドは続けた。

「今度こそ絶対おまえを守るから!」

なっ!と笑うロイドに、恥ずかしげに頬を染めたコレットもまた最高の笑顔を返す。

もう二度と見れないかもしれないと思った光景に、久しぶりに心が穏やかになるのを感じた。本当によかった、コレットが戻ったことも、ロイドの笑顔が見れたことも。

だがそんな和やかな場面に水を注す男が1人。

「おーおー青春だねぇ。」

ロイドの頭に腕をのせて2人の間に割り込む。場の空気を読まないゼロスのその行動に呆れた。

「見せつけてくれちゃって、俺にもコレットちゃん紹介してよ〜。

俺はテセアラの神子ゼロスくんね!コレットちゃん笑うとかわいいねー。」

「ありがと!」

コレットは気にした様子もなくえへへと笑う。だがコレットは良くてもこちらは良くないぞとロイドから引き剥がした。

「いつまで乗っかってるつもりだ。」

「なんだよ〜いいじゃん別に。
神子同士仲良くしようやって話をしてるだけだろ?

ねーコレットちゃん。」

「うん!」

「あのなぁ…、」

まぁもういいかと、ゼロスの事は放っておいて次はプレセアの問題に移る。緊張した面持ちでアルテスタが要の紋を取り付けると、プレセアもまた一度瞳を閉じて、ゆっくりと開いた。

「わ…たし………、

ここは……、」

「…自分のことがわかるか、名前は?」

「……プレセア。」

元に戻った!!とジーニアスが舞い上がり、周りも肩の荷が下りてほっと胸を撫で下ろす。

だがプレセアは上手く状況が呑み込めないのか、額を抑えてしばらく考え込んだ後、思い出したように呟いた。

「パパは…?」

「?

お…オイ、どこ行くんだ!?」

いきなり何も言わずに扉を開けて出ていこうとするプレセアを、皆が慌てて引き留める。

「早くオゼットへ帰らないと…、」

「1人じゃ危ないよ!」

ジーニアスの言う通りだ、何歳かは知らないが見た目からしてジーニアスとそう歳は違わない筈、それにプレセアは今しがた意識を取り戻したばかりで精神的にかなり不安定だ、そんな娘が1人で彷徨くのは他人とはいえ放っておけない。


「…プレセアちゃん、迷惑じゃなければオゼットまで送ろうか?」

「え……?

でも……、」

こちらの提案に、プレセアは申し訳なさそうに言いよどむ。だがロイドやジーニアスも賛成だと言って、結果やはり送っていくことになった。

「…すみません。」

「気にすんなよ、親父さんが心配なんだろ?」

「ああでも道がわからないな、プレセアちゃん覚えてる?」

こくん、と頷いて、先頭に立って歩き出したプレセアの後を、来たときと同様について行く。
アルテスタにお礼を言って家を出て、また次の目的地へと向かった。

「コレットちゃんも、しんどかったら言ってね。」

隣を歩く少女に、なるべく歩調を合わせてゆっくりと進む。コレットは「だいじょぶです!」と明るく答えるが、まだ万全では無い筈だ。相手が無理をする子だということはシルヴァラントで十分知っていた為、些細な動作も見逃さぬよう気を配る。

「あ、カーノさん、
あの時は言えなかったけど、シルヴァラントで色々…こっちに来てからもだけど、有難う御座いました。」

「ん、何が?」

「喋れなかった時、一緒に料理作ろうって言ってくれたり、嬉しかったです。」

そんなの、俺が勝手にしたくてしたことなんだから、お礼なんていいのに。寧ろ自分にはその程度のことしか出来なかった、体の痛みも苦しみも何一つ、和らげてあげることが出来なかった。
今回のことにしてもそうだ、要の紋を作ったのはロイドであって自分は何もしていない。ただついてきただけ、居ても居なくても…

と、どんどん後ろ向きに進んでしまう思考を止めてくれたのはコレットの手だった。こちらの片手を小さな両手で包み込んで心配そうに見上げている。

「カーノさんも、辛かったらちゃんと言って下さいね。

いつも私達のことばかりで、自分のことは後回しにしてるから…」

「コレットちゃん…、」

握られた手から温もりが伝わってきて、それがまるでコレットの心がそのまま流れ込んできているように感じた。
どうしてあれだけ辛い目にあって、そんなに人に優しくなれるのだろう。

「大丈夫、俺はコレットちゃん達が幸せなら、それで幸せだよ。

だから、先ずはコレットちゃんが幸せになって欲しいな。」

コレットはふるふると首を振って、もう幸せですと言った。

「だって私には、カーノさんもロイドもジーニアスも、皆がそばにいてくれるから!」

「それだけで?」

「はい!」

「……そっか。」

自分の存在が誰かの幸せになるなんて想像も出来ないけれど、もし本当にそうならどれだけ良いだろうと思った。





しばらく歩いて、遠目に見れば森にさえ見えるほどの木に囲まれた、小さな村に到着した。
あるのは民間と小さな店だけで、ゼロスは「スゲード田舎…」と失礼な事を呟く。

「あっプレセア!」

村に着くなり1人で走り出してしまったプレセアを追いかける。ジーニアスが名前を呼びながら走っていたからか、いつの間にか周囲の視線を集めていた。

「プレセア…?」

「相変わらず気味が悪い…」

途中村人のそんな声が聞こえて眉を寄せる。何か悪い噂でも流れているのか、どちらにせよ気分の良いものではないなと、なるべく聞かないようにひた走る。

プレセアが向かった先は一軒の家だった。恐らくはプレセアの実家なのだろう、木板で出来たそれはなかなかに大きい。

人の家に勝手に上がり込むのもどうかと思ったが、親が居るのなら事情を説明した方がいいかもしれないと迷わず中に入る。先に入っていたプレセアは寝室の前で止まっていた。

「プレセアちゃん?」

呼び掛けても反応が無い、どうしたのかと側まで行くと、小さな体がふらりと後ろに倒れ込んだ。何事かと少女の目線を辿ってみればその先には―…、


「…………!?」


「い……っ、

いやぁあああぁああああ!!」




―白骨化した、人の遺体があった。





目次へ戻る | TOPへ戻る