09.終わらぬ輪廻
暗くなった外の景色を、窓越しに眺める。
そこにはプレセアとリーガルが居た。たまにプレセアの怒声が聞こえるあたり、昼間のことを言い合っているのだろう。
今日はプレセアを気遣って休むことにした。プレセアの住んでいた家を貸してもらい、明日からどうするかを皆で話し合っている。
責められるとわかっていて、それでも向き合えるリーガルは強いなと、窓から目を離してすぐ、いつの間にか至近距離に居たゼロスと目があった。
「ぅわっ!?」
「カーノくーん、覗き見もいいけど、ちゃんとこっちの話も聞いてくれる?
あとその反応、何気に傷付くんですけど…」
「あぁ悪い、吃驚して…。
…ええと、次何処に行くか、だったか?」
「そーそ、まぁでも先に目的を決めとかないと、動くに動けないんだけど…。
どーするよ?」
どうする、と言われてもすぐに決められる話ではないのだが。ここに来た目的は果たせたのだし、もうやる事もないような…、
「ロイド、何かあるか?」
「………、」
「ロイド?」
珍しく真剣な顔つきで何かを考え込んでいたロイドは、少し間を置いてから発言した。
「…俺さ、こっちに来てから考えてたんだ。
シルヴァラントが幸せになれば、テセアラが不幸になる。逆にテセアラが幸せになれば、シルヴァラントが不幸になる。その仕組みはどうにもならないのかなって。
俺はシルヴァラントの人間だから、あっちに居た時は正直、テセアラのことなんて考えてなかった。
でもこっちの世界に来て、ゼロスやプレセアやリーガルに出会って……。
こっちの世界も同じように救いたいって思ったんだ。」
「ロイド……、」
それは皆少なからず思っていることだろう、だがそれを実現させるには課題が多すぎる。口で言うのは簡単でも、実際に成すにはあまりにも難しい。それに、
「…どれもクルシスが絡んでくるだろ、今の俺達じゃ多分、あいつらには…ユグドラシルには敵わない。」
ギリ、と奥歯を噛み締めながら、救いの塔で見た姿を思い出す。
あいつさえ居なければ、あいつさえ居なければ皆幸せになれるのに。2つの世界も、牧場に居る人も皆……、
だけど、
「確かにあいつが強いってのは分かってる、
でもそんなのやってみなきゃわからな…」
「そんな簡単な話じゃないんだよ!!」
しん…、と静まり返る部屋。ハッとして周りを見れば、皆驚きこちらを見ていた。
「わ、悪い……その…、」
どうしよう、自分が作り上げた空気に1人あわあわと慌てる。怒鳴るつもりはなかったのに、理性より感情が勝るなんてこと普段は無いのに。
怯えさせてしまっただろうか、謝ったほうがいいのか、次にどんな行動を取ればいいのかわからず混乱しだすカーノの肩に、まるで何事もなかったかのようにゼロスが腕を回した。
「なになにー?お熱くなっちゃって。
そういう一面もあんのねぇ、さっすがロイドくんのお兄様。」
「いや、そういう訳じゃ…」
「まぁそんなに自分の力を悲観しなさんなってぇ、やる前から諦めなくてもいーでしょうが。
こっちには天才魔術士のリフィル様や力持ちのプレセアちゃん、キュートなコレットちゃんにセクシーなしいなも居るんだしさぁ。」
「ちょっと、何で僕らのことは言わないのさ!?」
「つーか、後半関係ないだろ…」
とたんに何時ものペースに戻る皆に、ほっと胸を撫で下ろす。ゼロスが気をきかせてくれたのだろうか、なんにせよ助かった。
「ま、どうするかはまた明日にしようや。
俺様もー歩き疲れたし寝るわ。」
「そうね、一度ゆっくり考えた方がいいのかもしれないわ。
大事な事ですものね。」
そうして寝室に移動する一行、それに従い立ち上がったロイドを呼び止めて、先の事を謝った。
「いいって!兄貴が言った事も間違ってないし…、
…実際、俺あいつに吹っ飛ばされたもんな。
でも俺、諦めたくないんだ。プレセアや、マーブルさんみたいな人を…もう出したくない。」
それだけ言うと、ロイドはおやすみ!と言って寝室に戻る。静かになった部屋で、カーノは1人立ち尽くした。
ロイドの気持ちがわからない訳じゃない、共感だって出来る。でももし奴らと戦う事になったら、またロイドや皆が傷付くかもしれない。ユグドラシルの力の強さなら嫌という程知っている、簡単に倒せるならとっくにそうしていた。それに、
(…そうだ、クラトスとも…戦うことになるのか……)
割り切ろうとする度に、クラトスとの思い出や、それでいいと言った声がよみがえる。
それでいいって何だ、つまりそれは、敵でいろ、という事なのか。何でわざわざそんな事を言うんだ、こちらが迷っていることを悟っているのか?いやもしそうだとしても、敵対心を煽るような事を言って相手に利益などあるのか?
直接聞ければ楽なのになと、無理だと分かりながらも思ってしまう。
「…あれ、皆さんは…?」
と、扉が開き入ってきたのはプレセアとリーガルだった。先に寝たと伝えると、プレセアも色々あって疲れていたのだろう、おやすみなさいと言って寝室に向かう。
「…お前は寝ないのか?」
一方でリーガルは足を止めてこちらを振り返る。気にしないでくれと暗闇に包まれた外を見ていると、椅子が動く音がした。
見ればリーガルが腰かけている。
「…? どうしたんだ?」
「…何か思い詰めているようなのでな。」
しばらく相手の言った意味を理解出来なかったカーノは、数分してようやくそれが自分を気遣ってくれての発言なのだと気付いた。
「…なんか悪いな、変に気遣わせて。」
「いや、私も迷惑をかけたのでな。
話を聞くぐらいなら出来るが、余計な世話だったか?」
「……いや、」
窓に預けていた重心を、リーガルの正面の椅子に移動させる。そういえばリーガルは見たところ年上のようだが、敬語でなくてもいいのだろうか?まあ今更だか。
さて座ったはいいが言うべきか否か、自分でも整理仕切れていない悩みをちゃんと話せるかどうかも不安だが、相手が聞いてくれると言っているのだから、ここは素直に助けを借りてもいいのだろう。
「……その、個人的な話なんだけど…」
「ああ、」
「それから、この話は…皆には、特にロイドには…言わないで欲しいんだけど…。」
「約束しよう。」
だがそもそもこんな話をリーガルにしてもいいのだろうか?いやクラトスを知らないリーガルだからこそ言えるのかもしれないが…、
悩む間も静かに待ってくれている相手に心中で礼を述べた。
そして悩んだ末、意を決して口を開く。
「…もし、もしも味方だと思ってた奴に裏切られたら、しかもその相手に、敵か味方か決めかねるような事を言われたら、リーガルならどうする?」
早口でまくし立てるように言って、相手の返答を待つ。今の説明は分かりづらかった気もするが大丈夫だろうか。
「…なかなか難しい質問だが、私なら…そうだな、
自分の心のままに動くのだろうな。」
どうやら理解力が高いらしいリーガルはこちらの言葉にそう返した。
心のままに、とはどういうことかと逆に尋ねる。
「論理的なことを考えず、ただ思ったままに行動するということだ。
お前はその者のことをどう思っているのだ?」
「どう…思って…?」
そういえば、どう思っているのだろう?問われて初めて考える。今まではクラトスが敵か味方かということばかり考えて、クラトスという1人の人間のことをどう思っているかというのは考えていなかった。
少なくとも嫌いではないとは思う。他人でもないし、もしそうなら敵か味方かという事で悩むこともないだろうからだ。とは言えロイドや他の仲間達と同じように想っているかと聞かれれば、それも少し違うんじゃないかと思う。どれかと言えばリーガルに感じるものが一番近いかも知れないが、それも何かが違う気がする。
何だ、何が違う?その正体を掴もうと、なるべく思い返さないようにしていた記憶を引っ張り出してみる。一緒にいた数ヶ月、自分はどうだったか。話していた時に何を感じていたか。そうして最初に出てきた答えは“安心感”というものだった。
それは相手の力量だとか、年上であるからだとか、そういったことも関係しているのだろう。でも最初会ったときは、確かお互いに警戒していた筈だ。旅をするうちに信頼関係が築かれていたのかもしれないが、理由はそれだけか?
いくつか答えに近そうなものは思い付くのだが、どれもしっくりとは来ず頭を悩ませる。なんだろうかこの感じは、なんと言うんだったか、確かそう、
(……“懐かしい”、か?)
ふと浮かび上がった単語に、ん?と眉を寄せる。懐かしいって何だ、クラトスに感じる安心感が懐かしいのか、ということは何だ、昔にも同じような安心感を感じたことがあったという事か?一体誰に。記憶を前へ前へと遡り該当する人物が居ないか探してみる。そして見つけた、
見つけた、のだが。