10.涙の数だけ固結び


「あ…ああ、」

広い海に浮かぶ島、そこにある神殿の最奥。

台座に浮かぶは神殿を守りし精霊、その前で膝をつく少女、回りには傷付き倒れ伏す仲間。

「あ…たしはまたっ、

またっ、仲間を……」

召喚師の少女は、1人体を震わせていた。





「えっ、一緒に来るぅ!?」

事の発端は数時間前に遡る。プレセアの家で一夜を過ごした一行は、プレセアとリーガルの選択に揃って声をあげた。

というのも各々の事情、プレセアは輝石から解放され、リーガルはプレセアと話を済ませたのだから、2人とはここでお別れだと思っていたのに、2人が意外にも共に来ることを選んだからだった。

理由を聞けば、2人も自分達と同じ…つまりエクスフィアで苦しむ人々を救いたいという志を持っているから、とのことだった。

昨日のこともあって2人がどういった人間かを知った皆の中に同行を拒むものはおらず、快く迎え入れた。

「色々と迷惑をかけてしまいましたが…宜しくお願いします。」

「そんなかしこまらなくていいよ、宜しくね。」

軽く握手をして、小さな少女に柔らかく微笑む。そしてもう1人の新たな仲間にも同じように手を差し出した。

「宜しくな。
あとその…昨日のことは……」

「安心しろ、約束は守る。」

何も言わずとも話を理解してくれるリーガルに心が軽くなるのを感じる。今の自分にとって年上の同性というのは、戦力はもちろん相談相手としてもかなり頼もしいものだった。

(…でも頼りすぎるのも駄目だよな、リーガルだって色々あるわけだし……)

それに自分はもういい年なのだから、自分の悩みぐらい自分で解決しなければ。今一度自分を律して頬を叩く。

「なーにしてんの?」

「いや、何でもない。

そういえばお前はどうするんだ?」

早くも日常茶飯事になってきたゼロスからの絡みに、カーノがトーンを変えずに聞く。

「俺さまァ?
そーねぇ…まァ王の命もあることだし。

ロイドくんたちの遠足にもーちょっと付き合ってやろうかなー、かわいい女の子いっぱいいるし。」

「遠足ってお前な…」

確かにコレットを助けることが出来て、一行の雰囲気は元の穏やかなものへと戻ったのだが。危険のつきまとう旅を遠足呼ばわりされてロイドが怒る。

「それで今後のことなんだけど、俺考えたんだ。」

昨日の話の続きをロイドが話し出す。カーノを初め皆ロイドの話を真剣に聞く、つもりだったのだが。


「シルヴァラントとテセアラ、統合できねぇかな!」


というあまりにも突拍子な提案に、皆が、天然属性のコレットまでもが数秒停止してしまった。

「…そりゃまた大胆なご意見で…」

「自信満々に言われるといっそ清々しいよね…」

「な、何だよ。2つの世界はユグドラシルが作ったんだろ!?

世界を二つに分けられるならその逆も…、世界を一つにも出来るはずだ!」

言っていることは間違ってはいないのだが、それを実現させるのは夢のまた夢というか…、決してすれた考えをしているのではなく、ただ冷静に考えて今の状況でそれを為すにはあまりにも難しいのではないかということだ。

「そうは言ってもなロイド、何か策とかあるのか?」

「それはこれから探すんだよ。

エクスフィアのことやディザイアンとかは元々あいつらが原因だし、世界を統合する方法もきっと何か知ってるはずだ。」

それを奴らが教えてくれるだろうか、力業で聞き出すつもりか?下っ端ならなんとかなりそうだが、自分達の欲しい情報は持っていないだろう。それに世界を分けたのはユグドラシルなのだから、それを元に戻すことが出来るのもユグドラシルだけなのではないか。

出来る限りユグドラシルとは関わりたくないのだが、カーノは諦めたように溜め息をついた。どうせこちらの意志がどうであれ、自分たちはクルシスに狙われているのだから、衝突は避けられないのだろう。

「大丈夫だって、用はあいつらに負けないくらい強くなればいいんだし!

と、いうわけで、
打倒クルシス!な!」

「……そうだな。」

そう易々と出来そうにはないが、それ意外に道は無さそうだ。ロイドの言葉に皆が賛同した。

「それならロイド、一度シルヴァラントへ戻ってみるのはどうかしら。」

「シルヴァラントへ?」

「各封印や救いの塔を調べ直すのよ、何か手がかりが掴めるかもしれないわ。」

「でもどうやって戻ったらいいんだ?」

「またあの乗り物で行けばいいんじゃないの?」

「ああ、レアバードのことかい?」

盛り上がる話の中、レアバードと聞いて思い出すのは墜落した時の恐怖と家を壊してしまったことへの申し訳なさだった。確かにシルヴァラントへ戻るにしてもテセアラを駆け回るにしても、ああいった乗り物は必要なわけだが。あれは墜落によってゼロスの家と一緒に見事に壊れてしまった。

「機体もそのままゼロスの家に置いてきちゃったけど……?」

「ああそれ、俺さまが持ってますよー。」

ホレ、と渡されたのは長方形のコンパクトなケースだった。あのデカい乗り物が手に収まっているこれに入っているとは思えないが、テセアラ組はさも当たり前のように納得した。

「ウィングパックかい?」

「そーそー、王からもらい受けて来たのよ。
ある程度の質量までなら何でも収納出来るウィングパックだ。レアバードも調整済みだぜ。」

「へえ…便利な道具があるもんだな。

助かるよ。」

「テセアラが誇る文明の力ってヤツよ。

ま、田舎モンにはわからねぇか〜」

「田舎者で悪かったな…」

いちいち嫌な言い方をするな、調整してくれたのは有難いのだが。その言動さえなければいい奴なのに、何故わざわざ嫌われるようなことをするのかと、自分より若い赤毛の青年を見た。


「でも確か燃料が無いって言ってたよな。
燃料って何だ?石炭か?」

「そんなんで飛ぶわけねーでしょうよ、マナだよマナ。

…そうだなー、ヴォルトのマナがあればいんじゃねーの。」

「ヴォルト?ヴォルトって…まさか雷の精霊の!?」

曰く、ヴォルトと契約する事が出来れば、その力を燃料としてエアバードを動かせるらしいのだが。精霊との契約は太古に失われた技術で、今となっては召喚士でなければ不可能らしい。するとゼロスはリフィルの指摘を予想していたかのように、得意気に指を立てた。

「それがだなぁ、実はしいながその資格を持ってんだよなー。」

「えっ!?」

皆の視線が和装の少女に集まる。符術使いだと思っていたが、それはあくまでおまけということか。

皆が希少な存在である召喚士を絶賛する。だが当のしいなはというと、

「召喚士って言っても…まだ精霊と契約出来てないし、ただ資格があるってだけで。」

と自己の能力をやけに小さく扱った。その顔は謙遜している、という感じではなく、どこか不安そうというか、何かに怯えている…ように見えた。

「何言ってんだよ十分だって!
ヴォルトってどこに行けば会えるんだ?」

「…雷の神殿だよ。
…ここからでもそう遠くはないはずサ。」

「じゃあこのあとは雷の神殿か。
しいななら精霊との契約も大丈夫だな!」

「あ、ああ…」

元気一杯、やる気十分のロイドとは対照的に、しいなは眉を下げ困ったように視線を落としている。

乗り気じゃないのか?精霊との契約がどういうものか自分は知らない。例えばそれがとてつもなく難しいことなかのかもしれないし、危険なことなのかもしれない。前者ならまだいいが後者なら…?カーノの頭に過ったのは、神子として自らの命を投げだそうとしたコレットの姿だった。

「しいな、」

「な、なんだい?」

神殿や精霊というキーワードに浮かれ始めたリフィルらをよそに、不安げな少女に近寄る。最初は“ちゃん”を付けていた呼び方も、それはやめてくれと言われ今では何とか呼び捨てに出来るようにはなっていた。

「契約って危ないことなのか?
もし、しいなの身に何かあるような事なら、無理しなくていいんだぞ。」

他の手段を考えればいいんだし、と言うと、しいなはふるふると首を振った。

「ロイド達にあれだけ期待されて、断るわけにもいかないだろ?
…大丈夫、契約自体は何の危険もないからさ。」

「…なら、いいんだけど……」

どうにも引っ掛かるなぁと、少女の様子に不安を抱く。だが本人がこう言っているのだし、ここは頼っておくべきか…。何も知らないカーノは、何事もありませんようにと祈るしかなかった。





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