10.涙の数だけ固結び
轟く雷鳴、室内を照らす明るすぎる光。その度に大地が揺れ、振動が足に届く。
雷の神殿というその名の通り…というか、あまりにもその通りすぎる神殿の内部を見て、カーノ達は絶句した。
「何だよココッ、」
「建物の中なのに雷が〜〜」
ひいぃいい!と涙目になりながら両耳を塞ぎ、先程から周りに居る年長者にしがみついているのはロイド以下年少組であり、雷が落ちる度に体を震わせていた。その頭を撫でて落ち着かせてやる。
一方でテンションが上がり続けているのは不可思議好きのリフィルで、豹変したその振る舞いを見てゼロスは年少組とは違う意味で絶句していた。
「す…すごいマナが充満してる感じ、息苦しいくらいだよ…!!」
「ヴォルトが警戒してるのさ。
多分契約する時はヴォルトと戦闘になりだろうね。」
「嫌なのか?戦闘になるの。」
旅を初めてから、戦闘が日常的なものとなっていたロイドは、苦々しい顔をするしいなに首を傾げる。
「…ま、まあね。
そりゃ何ごともないのが一番サ。」
「大丈夫だって、俺たちがいるじゃん!」
男らしいロイドの言葉に、しいなの表情が僅かに和らぐ。嫌がっていた理由はこれだったのだろうか、それだけにしては何時もと様子が明らかに違ったのだが。
「また盗み聞き〜?」
がばあっと背中から覆い被さってきたゼロスを、鬱陶しいと払い除ける。
「後ろ歩いてたら聞こえるんだから仕方ないだろ…」
「んじゃあ俺様と話してればいーじゃない。
せっかくいい雰囲気なんだから、邪魔しちゃ駄目だって。」
「…いい雰囲気?」
「え、気付いてないの?」
駄目だねぇと仰々しく肩をすくめるゼロスに、何がだよと尋ねる。
「しいなはロイドくんに惚れてるんだって。」
「……ぇえっ!?」
思いの外大きな声が出て、皆が振り向いた。
「あー、何でもないから気にしないで〜。
……声デカいって。」
「いや、だって、」
そんな素振り全然してなかったじゃないか。突然浮上したフラグに、前をゆく2人をまじまじと見る。
「惚れてるっていうのは、ジーニアスみたいな態度のことを言うんじゃないのか?」
「あれは分かりやすい例でしょーが…、
まあプレセアちゃんは分かってないみたいだけど。」
一行の中でも一際小さい少年少女は、噂されていることなど知らず敵を殲滅していた。
「そ、そうか……、
あれ、じゃあ俺はどうしたらいいんだ?」
「いや別に、アンタは何もしなくていいでしょうよ。
っつーか、何でそんな赤くなってんの?」
「え?」
言われて初めて顔に熱が上がっていることに気付き、またかと気を落とす。
「発作みたいなもんなんだ…、女性と接してたらこうなるんだよ。」
「おいおい、俺様は女かよ?」
「なわけないだろ…、
最近は直接話してなくてもなるようになってな…。」
「ふーん?
…でも今までアンタを見てきた中で、そうなってるのは初めて見るけど?」
「…へ?」
そういえばそうか?こちらの世界に来てからの自分を思い出してみる。
女性と絡む場面は少なくなかった筈だが、確かに“こう”なったのは久しぶりのような気もする。ただし大抵この事象は自分では気づけないのだ、自分やゼロスが知らないだけで、発症していたかもしれないが。
「ま、カーノのそれは置いといて。
そういうわけだから、協力してやってくれや。」
「協力っていってもなぁ…」
ロイドの思い人は多分…、雷に怯えながらも懸命に進む少女に目を向ける。クルシスの戒めから解放されたばかりのその少女のことをロイドは好いているんじゃないのかと、長年2人を見てきたカーノは思っていた。真実は本人に聞かねばわからないが。
「…ま、協力は余計なお世話かもな。」
その動作を見て、ゼロスが「やっぱいーわ」と足を速める。
「大丈夫だよ、協力はともかく、邪魔はしないから。
…ゼロスは何でそこまでしいなを気遣ってるんだ?」
「そりゃあ、仮にも幼馴染みなんでね。
普段から任務任務で働き詰めの奴の恋路とありゃあ、応援してやりたくもなるでしょうよ。」
幼馴染みなのか、まあ普段の会話や接し方からなんとなく親しい間柄なのだろうことは予想していたが。
それにしても、やっぱり口は悪くても根は…
「…いい奴、なんだな。」
「はぁ?何よ急に。」
「憎まれ口ばっか叩く奴とか、誉められてそういう反応する奴は、大抵良い奴なんだよなって話だよ。」
ゼロスは納得いかないとでも言いたそうに片眉をつり上げたが、その反応も良い奴の証拠だと、カーノはゼロスの脇をすり抜けて行った。
そしてそんな評価をいただいてしまったゼロスは、勘弁してくれとため息をついた。
彼としては、今この状況でそんな言葉を貰ってもやりにくいだけで、自分の身の振りについて考え直してしまいそうになるだけだった。
どれだけ悪行を働こうがゼロスも結局は人の子なのだ。好意的な発言をされてしまえば動揺してしまう。しかし彼自身はまだそんな己の本質に気付いてないので、カーノやロイドのような人間の言葉は鬱陶しい、面倒だ、とマイナスに捉えようとしてしまうのだが。
そんなわけで今回も、「そんなんだから騙されるんだよ」とカーノを“馬鹿な奴”と評価することで、ゼロスは揺らぎかけた決心を持ち直したのだった。
「祭壇だ!」
神子の試練の時同様、数多の仕掛けを解いて中心部にたどり着いた一行は、台座の前で足を止めた。
「シルヴァラントの封印と同じ感じがします…」
「マナもさっきよりずっと濃いよ…!」
痛いくらい肌に突き刺さるようなマナが部屋に充満している。そして皆が見守る中、しいなは祭壇に続く階段を上がった。
「我はしいな!精霊ヴォルトとの契約を望む者!!
我が前にその姿を現し給え…!!」
周囲の雷撃が強まり、皆の緊張も高まる。雷は一所に集りそれが祭壇に落ちると、精霊はその姿を見せた。
「これが…ッ!?」
「精霊ヴォルト…!!」
正に雷の塊といった形の光の球体、二つの目は浮かぶようにしてその光に張り付いていた。真ん中に透けて見えるのは核だろうか?
「…何?この声は…」
「頭の中に直接響いてくる…!?」
ジーニアスとリフィルだけが何かを聞き取ったようで、耳を澄ませている。だがカーノ逹には雷鳴以外に何も聞こえない。
「…昔と一緒だ、
何を言ってるのかわからないよ…!!」
しいなにもリフィル逹同様、雷の音とは違う何かが聞こえているらしいが、ヴォルトの前に立っていたしいなの顔から血の気が引いていった。
「リフィルさん逹は、ヴォルトの言葉がわかるんですか!?」
「ええ…、
“契約の試練…”、“力を示せ…”、
…戦うということ!?」
「みんな!逃げ…」
しいなの忠告が皆に行き届くより早く、ヴォルトの放った雷撃が頭上から降り注いだ。唯一助かったのは、台座に一番近かったしいな。
倒れる仲間、過去の経験、しいなはその姿と、昔自分の力足らずで傷付けてしまった故郷の仲間をダブらせて、
「あ……ぁあ…っ
いやああぁああああ!!」
少女は地に両膝をつき、泣き崩れた。