10.涙の数だけ固結び


「…あ、そうだ。

皆、ちょっといいか?」

帰り道、早速ヴォルトの力を借りてレアバードで飛んでいたカーノは、眼下に見えたサイバックにあることを思い出した。

「ちょっと寄ってもらいたいんだけど…、買いたい物があるんだ。」

「買いたいものって?」

「銃弾、残り少ないんだ。」

前みたいに切らしたら厄介だからなと苦笑する。前、というのはシルヴァラントであった弾切れ事件のことで、それを知っているロイド達はすぐにサイバックへと向かってくれた。

「それじゃ、皆は適当にぶらついててくれ。
終わったら声かけるから。」

「…こんなとこで何しろって言うんだよ?」

研究施設ばかりでつまらないと口を尖らせるロイド。だがリフィルとジーニアスは、活き活きとしながら街へ繰り出していった。

正直、銃弾は何処でも買えたのだが、カーノがわざわざサイバックを指定したのはリフィル達のためだった。この都市の前を通りすぎた時はコレットの事があって入ることも出来なかったが、今なら少し観光するぐらいの余裕はあるだろう。

「ロイド、暇なら荷物持ちでもやるか?」

「えー、そんなに買うのか?」

「せっかくだし他の部品も買っとこうと思って。

ほら結構掘り出し物とかあるし。」

「へいへい。」

ぶつくさ言いながらも、他にやることのないロイドはまだ軽い紙袋を持ち上げた。コレットは珍しい装飾品に目を奪われているし、ゼロスは街の女性に手当たり次第声をかけていた。相変わらず同じ神子でも楽しみ方はバラバラである。


そうしてリフィル達が存分に探索出来るまで時間を潰しているつもりだったのだが、事態は思いもよらない方向へと転がってしまった。

「カーノさん!大変です!」

珍しく余裕の無い表情でやって来たプレセアに、品を見比べていたカーノが顔をあげる。

「どうしたの?」

「リフィルさんとジーニアスが、連れていかれたんです…!!」

「連れて…って、誰に?」

「教皇騎士団だ。」

プレセアと行動していたらしいリーガルが言葉を引き継ぐ。なんでも、サイバックのメインともいえる王立研究員に入ったところ、2人は身体検査に引っ掛かったらしい。

「見学するだけで身体検査なんてさせられるのか?」

「テセアラは人種格差が凄いからなぁ、間違ってもハーフエルフなんかが入って来ないように、施設の奴らが目ぇ光らせてんのよ。
たまに身分を偽ってる奴なんかもいるから余計な。」

「…ってことは、ハーフエルフ以外なら特に問題は無いんだろ?2人が連行される理由なんてどこにも…」

「確かに、あの2人がハーフエルフじゃねーなら、連行される理由はねぇよなぁ。」

やけに強調してこちらの言葉を繰り返すゼロスに、カーノは直ぐにゼロスの言わんとしていることを理解した。

「…リフィルさんとジーニアスが、ハーフエルフだって言いたいのか?」

「可能性が無いわけじゃねーでしょうよ、絶対違うって言い切れるか?」

「それは……」

2人はエルフだと言っていた、だが実際に見て確かめた訳でもないし、証拠だって無い。ハーフエルフとそれ以外を見分ける一番簡単な方法は耳の形だったが、2人は髪で耳が隠れていた為見たことはない。カーノの中で天秤が「もしかしたら」の方に傾き始めていた。

「とにかく今は追いかけましょう!」

「でも何処に連れて行かれたんだ?」

「メルトキオだろーよ、ハーフエルフの身分偽造は問答無用で死罪だからな。」

「死罪!?」

冗談じゃない、カーノは慌てて都市を飛び出した。ハーフエルフであろうとなかろうと、2人は今まで、それこそ旅が始まる前からずっと共にいた仲間だ。こんな所で、そんな理由で死なせたりはしない。

シルヴァラントの皆と、プレセアやしいなも直ぐにカーノの後を追った。残ったリーガルはゼロスがなかなか動こうとしない理由を知っていた。

先にゼロスが言った通り、テセアラではハーフエルフ差別はとても根強い。どんな人間でも幼少期にハーフエルフがどんな存在かというのは教育されている。だから仲間だからと言っても、やはり容易く受け入れられる存在ではないのだろう。皆が皆カーノ達の様にはいかないのだ。

だがゼロスはしばらくすると足を街の出口へと動かし始めた。それが意外といえば意外で、リーガルも後に続く。

「助けに行くのか?」

「仕方ないでしょーよ。
ロイドくん達の監視をやってる以上、嫌だからってはいサヨナラ、とはいかねーし。」

そんなもの、王にハーフエルフのことを話せば済む問題ではないのか?王とてテセアラ人なのだから、ハーフエルフと行動したくない、と言えば監視の任など解いて貰うのは容易いと思うのだが…、リーガルにはゼロスが王の命令以外に、何か彼らに着いていきたい理由があるように思えた。

情が湧いたのだろうか?これまで共に戦ってきたのだから、そうだとしてもおかしくはないが…。いや、まあ何にせよ今は助けるのが先だ、あまり踏み入ったことを詮索するのは止めようとリーガルはそこで思考を打ちきった。




「ジーニアス、リフィルさん!!」

2人を連行していた団体はグランテセアラブリッジを半分過ぎたあたりでこちらに気付き足を止めた。

「カーノ!助けに来てくれたの…!?」

ジーニアスは兵の間からこちらを見て叫んだ。リフィルはどうして、と言わんばかりに目を見開いている。

「その2人は俺たちの仲間だ、勝手な真似をして貰うと困るんだが。」

「仲間だと?バカを言うな。
貴様は人間だろう、ハーフエルフがどれだけ恐ろしい存在か知らぬわけではあるまい。」

「関係ないな。
少なくとも俺は、種族だけで簡単に人を殺そうとするアンタ達の方がよっぽど怖い。」

銃をかまえると、相手もこちらを敵と見なして武器を抜いた。ジーニアス達は心配そうにこちらを見ている。

一際強い風が吹いて、兵の1人が地を蹴った。小手調べのつもりなのか、自分1人ぐらい簡単に倒せると思ったのか、他の兵は動かず尚もリフィル達を取り囲んでいた。

接近戦が出来ない訳でもないが、せっかく銃を使っているのだからそれを活かそう。スコープで狙いを定めたのは迫り来る相手の手に握られた斧の柄だった。

放った銃弾は一発、狙い通りの場所に当たった。衝撃で武器を手放した相手に一気に詰め寄る。そして握りしめた拳で相手の横っ面に叩き込んだ。

普段あまり肉弾戦はしないので少し手に響いたが、それでも気分はスッキリした。兵が殴り飛ばされたのを見て、残りの兵はぽかーんと口を開けた。自分はそんなに弱く見えただろうか?

「兄貴!ジーニアスと先生は!?」

「あっち、多分まだ何もされてないと思う。」

ロイド達を見てこのままでは劣性になると悟ったのか、兵たちは一気に突撃してきた。すっかり戦い慣れた一行は繰り出される刃をひょいひょいとかわし、華麗なステップで敵の懐に潜り込むと相手を次々とのしていった。全て倒れるまでにそれほど時間はかからなかった。

阻むものの居なくなった橋を渡り、戦いを見ていたジーニアス達を皆が囲む。2人は正体を知られたことで、どう接したらよいかわからず視線をさ迷わせていた。

「怪我はありませんか?」

先に話を切り出したのはカーノだった。2人はそれに頷き、俯いたまま真実を語りだした。

「黙っていてごめんなさい、もうわかっていると思うけれど…私たちはハーフエルフなの。」

リフィルは片側の髪をかきあげた。露になった耳は尖っていて、それが何よりの証拠だった。

「ごめんね、でも…言ったら嫌われると思ったんだ。もう一緒に居てくれないかもって……そう考えたら、言えなくて……!」

涙声で謝るジーニアスに、カーノはロイドやコレットと顔を見合わせた。そして小さな頭を撫で、皆で2人を抱き締めた。

「馬鹿だな、そんなことで俺たちが離れていくわけないだろ?何年一緒に居ると思ってんだよ。」

「わからない問題があったら、出来るまで何度も何度も教えてくれましたよね。私、先生の授業大好きです!」

「俺たちが初めてイセリアに来たとき、リフィルさんもジーニアスも歓迎してくれましたよね。あれ、凄く嬉しかったんですよ。

余所者の俺たちを受け入れてくれた2人を見捨てるなんて出来るわけないだろ?」

「みんな……」

「バカね……本当に、」

2人は泣いていた。それでもその表情は、穏やかなものだった。


「「ありがとう。」」


橋で倒れている奴らは、2人の言葉がどれだけあたたかく優しいものか知らないのだろう。種族で分け隔てる人々を、カーノは哀れにさえ思った。


2人の姉弟はこの時ようやく、ロイド達の本当の仲間になれたと感じた。






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