10.涙の数だけ固結び
「いきなり押しかけてすみません…、助かりました。」
「気にするな。」
相変わらず綺麗に整頓された部屋、椅子に座るミトスの腕にタバサが丁寧に包帯を巻いていく。
急な訪問にも嫌な顔をせず治療にあたってくれた2人に感謝して、皆もそれぞれ席についた。
「ミトス、大したことなくて良かったね。」
「ああ…でも許せないぜクルシスの奴ら…、
何でオゼットの村を…」
「それはおそらくわしのせいだ」
「どういうことですか?」
「わしが昔クルシスに属していたことは話しただろう?
クルシスから逃げ出したわしは、その身を一時的にオゼットへ隠したのだ。
クルシスの実験に協力していたのにもかかわらず、お前たちに手を貸した…。それがユグドラシル様の耳にも届いたのだろう。
あれはわしへの報復だ…」
報復、もし本当にそうなら、それほど理不尽なものはない。しかも関係ないオゼットの人々の命まで奪ったのだ、プレセアの気持ちを考えると憤りを覚える。
「…なぁアルテスタさん、あんたが知ってるクルシスのこと…全部教えてくれないか。」
「…いいだろう。」
アルテスタも同じく椅子に座った。治療を終えたミトスとタバサも周りに集まる。
「ユグドラシル様が世界を二つに分け、クルシスという組織が創設されるまでには…、まず古代大戦から語らねばなるまい。」
「古代大戦?古代大戦って…あの勇者ミトスの?」
ああ、そうか。助けた少年と同名の人物の正体をカーノはやっと思い出した。
「そうだ、古代勇者ミトス…、
彼はエルフの里ヘイムダールで生まれたが、古代大戦が始まると村から追放された哀れな異端者。
そして村に帰るため仲間と共に大戦を終結させるべく戦った。」
「…何でミトスが異端者なんだ?」
「…それは彼がハーフエルフだからだ。」
「勇者ミトスがハーフエルフだって…!?」
初めて聞く話に驚愕する。各地で勇者と持て囃されるミトスが人々に忌み嫌われるハーフエルフだと、差別意識の強い者が知れば余計に驚くことだろう。
「…ミトスの仲間もハーフエルフで、人間だったのはただ1人のみ。
彼らは異端視されながらそれを乗り越え、戦いを終結させたのだ。
だが彼の故郷ではその名を禁忌のものとしている。」
「…ハーフエルフだから?」
ハーフエルフと聞いて感情移入しているのだろうか、ジーニアスが悲しそうに尋ねる。アルテスタはそれを否定した。
「オリジンに愛されし勇者ミトス、それは墜ちた勇者の名だからだ。」
「墜ちた勇者…?どういうことだ?」
「オリジンを裏切りオリジンから与えられた魔剣の力を利用して、世界を二つに引き裂いたのは他ならぬミトスとその仲間たち。
すなわちミトス・ユグドラシルとその姉マーテル、そして彼らの仲間ユアンとクラトスなのだ…」
ガタ、と誰かが椅子から立ち上がる音がした。その音を鳴らしたのは自分だと、一瞬気がつかなかった。
「…ちょっと、待って下さい、
ユグドラシルって、ユアンって、
クラトスってあの……」
救いの塔で襲ってきたクルシスの主導者、その直後自分やロイドを狙ってきたレネゲードのリーダー、そして事あるごとに思考に浮上する鳶色の戦士が順番に浮かんだ。
「そんなバカな!」
「クラトスさん…四千年前の勇者の仲間だったんですか?」
「エルフとてそこまで長命ではなかろう。」
ロイドが、コレットが、リーガルが順番に立ち上がって意見する。皆信じられない気持ちは同じ。
「天使とはカーラーン大戦で開発された戦闘能力の一つ。
体内のマナを使い、一時的に体を無機化することで体内時計を停止させる…、
おかげで天使は年をとらず、エルフより長命となったわけじゃ。」
「…もう何がなんだか、俺にはわけがわからない。」
「そーか?はっきりしたことがあるじゃねえか。」
頭を押さえるロイドの隣で、ゼロスは涼しい顔をしていた。
「世界を二つに分けたのはオリジンの力が影響してるってな。
魔剣、それがキーワードだ。」
「…その通りだわ。
私たちは本質を見失わないようにしなければ。
私たちの最終目的は世界を統合することだったはずよ。」
「そういえばミトスってさ、あの勇者ミトスと同じ名前なんだね。」
「男の子でミトスっていう名前は珍しくないよ、みんな英雄の名にあやかりたいんだろうね。」
話の流れが変わっていく中、カーノは1人置き去りにされていた。頭が混乱から抜け出せていない。
四千年前の人間って…、次元が違いすぎて話を理解出来ない。もし本当にそうだとして、仲間四人のうちハーフエルフが4人ということは、ユグドラシルとマーテルはハーフエルフ、残りのユアンとクラトスのどちらかが人間でどちらかがハーフエルフ…どっちだ?当てたからといって何が解決するわけでもないのに、カーノは考えていた。
「…ねぇジーニアス、どうしてキミとリフィルさんは人間と一緒にいるの?
人間はボクたちハーフエルフを差別する、人間と一緒にいたっていいことなんかないでしょう…?
ボクは人間が…嫌いだよ。」
「ミトス…、
うん、ボクも…人間は嫌いだよ。シルヴァラントじゃずっと差別されてて…。」
「…ジーニアス」
それにしても四千年もの間、彼は何をしていたのだろう。彼自身は死ななくても、周りの人間はそうはいかない。四千年もあれば環境も何もかもが大きく変わる筈だ、そんな中で彼はずっと生きてきたのだろうか…。あぁでもユグドラシル達も同じ四千年の時を生きたんだよな、四千年もの付き合いとなればそれはその絆も強いのだろう、だからと言って自分たちを騙して裏切ったことは納得出来ることではないが。カーノがひたすらそんなことに脳を回している間に、話は2人の本音へと流れていく。
「でもロイドやカーノみたいな人間もいる、みんなが悪い人間ばかりじゃないんだ。
ロイドたちは僕の友達だから!僕たちをいじめたりしないよ。」
ミトスは周りを囲む面々に目を向けてみた。ジーニアスの言葉を裏付けるように、皆の視線からは嫌な印象は受けなかった。
「ねぇミトス、僕たちも友達になろうよ!」
「え…」
「ジーニアスの友だちってことは俺たちとも友だちだな!」
「そ…そうなの?」
「そうだよぉ、よろしくね!」
ミトスの周りにコレット達が集まる。棒立ちになっていたカーノも、ロイドに引かれて側に寄った。
「じゃあ兄貴も友だちだな!」
「へ?あ、ああ。」
「…兄?2人は兄弟なの?」
不思議そうにするミトスに、ロイドが全力で頷く。一瞬現実に引き戻されたカーノだったが、意識はまたすぐに別の場所へと飛んでいった。
「ボク同族の友だちっていなくってさ、だからすごく嬉しいんだ!」
「友だち…本当?」
「もちろん!」
「じゃあまた…会いに来てくれる?
アルテスタさんがここにいていいって言ってくれたんだ、だから…」
「うん!また来るよ!
そしたらたくさんお話しよう!」
嬉しそうな2人を、ロイドやコレットだけでなく、しいな達も微笑ましそうに眺めていた。カーノもそれはそれで感動したのだが、やはり頭の中を占めていたのは此所には居ない男のことだった。
「ふぅん…兄、ね。」
だからミトスがこちらを見て、ジーニアスに向けていたのとはまた違った笑みを浮かべていたことには、全く気付くことが出来なかった。
It continues to
next time...
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