11.別れ汝は前を向く
段差に座り楽しそうに会話に花を咲かせるジーニアスとミトス、その近くで机を取り囲む一行はこれからのことを話し合っていた。
「両世界の精霊と契約をしていこうと思うんだ。
そのために必要なレアバードの動力源は確保出来たし…全精霊と契約出来れば世界を元に戻せるかもしれない。」
「そうか…しかし、どうやってシルヴァラントへ戻るつもりだ?」
カーノもある程度平静を取り戻し、帰る手段を全く考えていなかったらしいロイドに苦笑していた。
「…それなら私に考えがあってよ。」
「…え、本当か先生!?」
「ええ、
…ここから南東の遺跡へ行きましょう。」
「遺跡…ですか?」
リフィルは地図を広げ、四方を海に囲まれた小島を指した。
「異界の扉と言われている遺跡よ。
異界の扉の力を利用すれば、おそらくシルヴァラントへ帰れるはずだわ。」
「……先生、何でそんなにテセアラのこと知ってるんだ?」
自分たちがここに来たのはつい最近、情報収集をする時間も満足になかったというのに。
するとリフィルは少し視線を落とした。
「…思い出したの、テセアラに来てから…段々と。
私がずっと探していた場所を……」
一行は皆レアバードに乗り込み、黒く染まる空の下を飛んでその場所に向かった。草に覆われた地面から生えるようにして建っている、先端の丸まった三本の柱のようなもの。それに刻まれた模様や配置は何かの儀式のために作られたような印象を与えた。
「…雷の神殿の上空を飛んだ時この場所が目に入って…ずっと気になっていたの。
そして二つの世界をつなぐ二極の話…これを聞いて確信したわ。
私たちはここに捨てられていた、私がずっと探していた風景はこの場所で…探していた遺跡はこれだったんだって……」
「…何言ってんだよ先生…、先生とジーニアスはシルヴァラントの生まれだろ?」
「…いいえ。」
リフィルの話に一番動揺したのはイセリア組だった。当たり前のようにイセリアで生まれ育ったと思っていたし、それはジーニアスも同じだった。
「う…うそだ!
だってボク、イセリアでの記憶しかないよ…!」
「どういうことだい?
あんたたち二人…テセアラの生まれってことなのか?」
「…私たちはエルフの里…ヘイムダールで生まれ育った。
そしてその後ここに捨てられたの…。
ここが伝説のシルヴァラントへ続く道だと伝えられていたから。」
ヘイムダール、ついさっきミトスのアルテスタから聞いていた時に出てきた知名。エルフだけが住まうというその場所。
「くわしい経緯はわからない。
でも確かに私は…生まれたばかりのジーニアスと共にここへ置き去りにされた…。
そしてシルヴァラントへ流れ着いたのよ。
数年あてもなく転々として辿り着いたのが…イセリア。
ジーニアス、あなたはとても小さかった。
…覚えていなくても無理はないわ。」
ジーニアスはまだ信じられないといった顔だった。いきなり母親に捨てられたと話されては理解出来ないのも仕方のないことだ。
「扉が姿を現すのは満月の夜、ちょうど今日がその日だわ。
時間になるまでここで待ちましょう。」
リフィルが狭い遺跡の端に移動すると、ジーニアスもその隣に向かった。色々話したいこともあるのだろう、皆はそれを邪魔しない範囲で適当に休憩した。
「ロイド、寒くないか?」
「それは兄貴だろ、俺より薄着じゃん。」
「なになに、カーノが寒いって?
なら俺様が温めてやろーかぁ?」
「どうやってだ…お前も薄着だろ。
風邪ひくなよ。」
首に巻いていたスカーフを広げて肩に巻くと、ほんの少しだけ寒さは和らいだ。
「…大丈夫かな、ジーニアスも…先生も。」
「どうだろうな、
でも俺たちがどうこう出来る話でもないし…。
しいな達は昔にリフィルさん達を見かけたりはしなかったのか?」
「さあ…私もまだ小さかったからね、見てたとしても忘れちまってるよ。」
ジーニアスが赤ん坊の時の話なのだから、確かにしいなやゼロスは覚えてないだろうな。可能性があるとせればリーガルだが、彼も知らないと言った。
でもリフィルの話はきっと本当なんだろうな。静かに淡々と話す彼女の姿は、長い間1人でジーニアスを守り育ててきた苦労が滲んでいた。
「…大変だったんだね、2人とも。
私たち、何か出来ることないのかな…?」
「…そうだな、力になれるなら…、
寂しい思いなんて、もうして欲しくないよな。」
「別にそんな難しく考えなくてもさ〜、今まで通りでいーんじゃねえの?
側に居てやればいいんだよ。」
「…そっか、そうだな!」
ロイドはリフィルとジーニアスを見て笑顔をつくった。そしてその話は切り上げて、異界の扉がどんなものなのかと騒ぎ始めた。
「……ゼロス?」
ただ、カーノはゼロスが最後に言った言葉に引っ掛かりを覚えた。
いい言葉ではあったが、それを言った当人の表情が優れなかったからだ。
「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」
「え、何でそうなんのよ?この上なく元気だけど。」
「いや、何かさっき…変な顔してたから。」
「うわひっどー、俺様傷ついた〜。」
「ああ違う違う、そうじゃなくて…」
あの表情は何て説明すればいいんだろうか。普段ゼロスが見せないような珍しい表情。
(悲しい…いや、辛い、かな?)
しんどいとか疲れたとか、あるいは皮肉とか。そういう色んな感情が混じったような顔。それに対して言うべき言葉が浮かばなくて、カーノは片手をゼロスの頭に乗せて軽くぽんぽんと叩いた。
「…おいちょっと、何してんだあんた。」
「…いや、何か体が勝手に…」
ぶざけたことばっかしてるけど、こいつもこいつなりに色々あったんだろうな。年だってまだ20ちょっとくらいだろうし…。
つまりカーノにとってはゼロスもまたロイドやジーニアスのように、彼らより手はかかるが何にせよ“弟”に似たような存在だった。
だがゼロスは手から逃げるように大きく足を開きこちらに一歩近づいた。
「あのな、俺様はロイドくんじゃないんだぜ?
年だってあんたとそんなに変わらないだろ。」
「いや、俺もう26だぞ?お前まだ20くらいじゃないのか。」
「22だけど、たった4歳差だろ。
頭撫でられて喜ぶ年齢じゃねーっての。」
一歩、また一歩と距離が近づくにつれ、それほど身長差がないことに気付く。並んでみると確かに兄弟といえるほどではないかもしれないが…、
「…まぁ、子供扱いして悪かったよ。」
難しい年頃だなぁ、と思ってしまうあたりまだ年下というイメージの方が強いのだが、これ以上言うと本当にゼロスが機嫌を悪くしてしまいそうなので止めておくことにした。
「先生!」
ロイドの声にハッとして、皆は中央に集まる。
遺跡の真上に丸い月がさしかかり雲が晴れその形が完全に見えた時、月から雷のような光が落ちた。
石柱の間を光が行き交い、その中央に光の渦が出来る。それにより発生する風に皆はたじろいだ。
まるで軽い台風のようだ。
「みんな!あの光の渦の中に飛び込むのよ!」
「本当に大丈夫なのかよ…」
「いいから早く!!」
「なるようになれだ、先生を信じろ!
行くぞ!」
ロイドが光の中に飛び込み、カーノもすぐに突進した。しばらく光の海を流れるような感覚と、風が吹き荒ぶ音が鼓膜を刺激していた。
その終わりは大きな落下音と、レアバードが墜落した時と同じような鈍い体の痛み。
「う…みんな無事か…?」
土煙にむせる声が止まって、カーノは懐かしい感覚に顔をあげた。
「ここは…」
「このマナの感じ…、少し増えてるけど間違いないよ。」
さっきまでとは違う景色、360度木に囲まれているのだからどこかの森だろうか。その木よりも更に上を見れば、頂上の見えない、それこそ月よりも高いのではないのかと思う細長い白い塔が見えた。
「シルヴァラント…か?」
疑問符を付けたが、それはほとんど確証に近かった。塔はテセアラにもあったが、周りの空気が違う気がする。
そう長い間テセアラに居たわけでは無い筈なのに、その空気が懐かしく感じた。
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