11.別れ汝は前を向く
「…合格だ、我が名は火の精霊イフリート。
契約者しいなに我が力、授けよう。」
熱気のこもる室内で、激戦を終えた両者の間に小さな指輪が、光りながらしいなの手におさまる。
「何とか契約出来たな。」
「お疲れ様、しいな。」
「ああ、皆もね。
ありがとうイフリート!」
水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ、光の精霊ルナとアスカ。過去コレットによる世界再生の旅の最中で立ち寄った遺跡を飛び回り、カーノたちはそれだけの精霊と契約することが出来た。
シルフには一気に三体で襲ってこられたし、ルナに至ってはアスカと同時でなければ駄目だなどという条件を提示されたりもした。
しかしそれらも乗りきり、今契約したイフリートでシルヴァラントに居る精霊とは全て契約を果たしたのだ。テセアラの精霊とはヴォルトとのみ契約しているから、あちらに戻ってあと3精霊と契約しなければならないのだが、目的達成に近付いてきたことで皆にも余裕が出来ていた。
「あ、テセアラに行ったら、アルテスタさん家に行きたいなボク!
ミトスに約束したんだ、また会おうねって。」
すっかりミトスと仲良くなったらしいジーニアスは戦いの疲れも感じさせぬ笑顔で言った。新しく出来た友達に早く再会したいのだろう。
「そうだな、アルテスタさんなら残りの精霊の居場所を知ってるかもしれないしな。
じゃあとりあえずここを出て…」
「待てロイド、お前結構怪我してるだろ?
ちゃんと治しとかないと化膿するぞ。」
「え、…ああ本当だ。」
戦いに熱中していたからか、今ごろ傷が痛みだしたと患部を押さえるロイドに治癒術をかけようと手をかざす。
だが詠唱したにもかかわらず、魔術が発動する気配は無かった。代わりに鈍い倦怠感に襲われ視界が揺れる。
「兄貴!?」
「……っ?な、ん…」
それは魔力が底をついた時にくる疲労だった。戦いで全て消費してしまったのだろう、後ろにぐらついた体をとす、と何かが支える。
「ちょっと、何回倒れりゃ気がすむのよ?
無理はすんなって。」
赤髪の青年は重い!と愚痴りながらも力の抜けた体をしっかりと支えてくれていた。
「回復なら俺さまがやったげるって。
ファーストエイド!」
傷口が淡く光って跡形もなく消える。ロイドは驚きつつ元通りになった皮膚を触って確かめた。
「わ、悪ィ…。
ゼロス、回復魔術も使えんのか。」
「まーそりゃ魔剣士さまですから。」
「魔、剣士……」
懐かしい響きだった。剣を携え魔術を駆使することの出来る、卓越した能力。そんな人物をカーノ達はもう1人知っていた。
今は何処に居るのだろうか、ガオラキアの森で会って以来一度も顔を見ていない。聞きたいことも沢山あるというのに、例えば4000年前の英雄という話は本当なのかどうかとか…、
(話し合って……ちゃんと、お互いが納得出来るように……)
無理か、すぐに冷めた頭で思考を否定する。前に会ったあの様子では話など出来る状態ではない。
だからといって納得出来ないまま対立し続けるのも、やはり嫌なのだが。
「あーやっと外の空気吸えたー。」
「えーと、テセアラに戻るには…」
砂ぼこりの舞う移籍から出て、新鮮な空気を肺に送り込んでいると、突然地鳴りと共に激しい震度が体を揺さぶった。まだ力の入らないカーノをゼロスが抱き止める。
「…何事だ!」
「地震……」
長い間酷い揺れは続いたが、砂漠であったことが幸いして怪我をするようなこともなかった。
「…おさまった…?」
「何か最近地震多いよな。」
「…精霊との契約に何か関連があるのかしら…、
ロイド、今日はここに野営しましょう。
テセアラに行く前に少し様子を見た方がいいかもしれないわ、みんなよろしくて?」
「そーだなぁ、こいつも限界みたいだし。」
「こいつ?……って、」
ゼロスの腕に抱かれているカーノは瞼を下ろしぐったりとしていた。皆がそれを取り囲むように覗き込む。
「兄貴!大丈夫か!?」
「疲れて眠ってるだけでしょーよ、しばらく寝かせといてやろうや。」
「うん…カーノさん、ずっと頑張ってたもんね。」
そのまま近くの石畳に寝かせて、薪を広い集め野営の準備に入る。ジーニアスがてきぱきと夕飯の準備をする中、リフィルは椅子に座り考え込んでいた。
それは自分の中でずっと燻り続けていた、正体のわからない感情。
旅を始めた頃はただロイドの兄としか思っては居なかった、妙に意識するようになったのはいつからだっただろう。道中で彼はいつも周りに、自分に気をつかってくれていた。水が苦手なんだと知られた時はそれがなんだか恥ずかしくて、ムキになって海路で行くと言ってしまった自分に、彼は何も言わなかった。今になって思えばその後船の上でロイド達が突然勉強をしようなどと言い出したのは、自分の為だったのかもしれない。水に怯えずに済むようにと、彼が考えてくれたのかもしれない。
ハーフエルフだとバレた時も、彼は真っ先に駆けつけてくれた。知ってからも何の隔たりもなく、前と同じように接してくれる。それがとても嬉しかったし、安心出来た。
頼るということを知らずに生きてきた自分が、始めて頼ることの出来た人間。
リフィルは横たわる青年を見ながら、胸の内で決意を固めた。
そしてもう1人、心境に少しずつ変化を来している者がいた。
カーノの側に座って静かに寝顔を眺める赤髪の青年は、今まで自分の中で揺らぐことのなかった気持ちが揺さぶられていることを、納得出来ないにしろ自覚はしていた。
ロイドやジーニアスやコレットはもちろん、自分より長く生きているはずのこの男でさえ自分を信頼している…と思う。馬鹿な奴だと気にしないようにしているのだが、全く何も感じない訳ではない。
やりづらいなぁ、ゼロスはがしがしと頭を掻いて息を吐いた。自分がいつか敵になったとしても、彼らはきっと自分を殺そうとはしないだろう。自分が裏切ることによってどれだけのダメージが相手にかかるかは解らないが……、
(…いやいや、何でダメージがかかるって勝手に思い込んでるんだ俺は。)
相手からすれば自分など案外どうでもいい存在かもしれないのに、裏切ったところで何とも思わないかもしれないのに。
でも、どうしてかそう思ってしまう。“自分が裏切れば彼らは傷付く”と、確信に近い答えが浮かんでくる。あぁやりづらいのはそのせいかとハッキリして、またモヤモヤする。
自分が今まで出会ってきた人間は、自分の家柄や地位、つまり神子としての自分ばかりを見ていた。だが彼は、彼らはどうか?自分に敬称をつけない、敬語を使わない、媚びたりもしないし、軽口も叩く。
無自覚に憧れていた“対等な友人”、それをようやく見つけた彼は、これまた無自覚のまま彼らに特別な感情を抱き始めていた。
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