11.別れ汝は前を向く
「ミトス何その怪我ッ!?
どうしたの!?」
翌日、レネゲードの拠点であるシルヴァラントベースの上空に展開していたエネルギーを利用して、何とか無事テセアラに戻ってきた一行は、頭に包帯を巻き付けたミトスを見て焦った。
「大丈夫なの!?ま…まさかクルシス…」
「ミトスサんは私を助けてくれたのでス。」
独特のイントネーションの声が背後からして、少女が控えめに顔を出す。
「助けたって?」
「先日の地震のせいで落石が起こって…、
私をかばって怪我をサれてシまったのでス。
…ごめんなサい…」
「い、いいんだ、ボクはもう大丈夫だから。
…タバサが無事で良かったよ。」
皆がミトスの善行を褒め称え、ミトスは照れながらはにかむ。まだ幼いのに大した勇気だ。
「にしてもその地震って、もしかして昨日のあれですかね?」
「そうだろうな。
…しかし二世界で同時に地震とは奇妙だ。」
「精霊と契約するたびに起こる…おそらく世界が変質することに関わりがあるんだわ。
良い兆しか悪い兆しなのかはわからないけれど…」
全精霊と契約していくと大変なことになる、昨日言われたことを思い出して、これを言うべきか悩む。
クラトスと会ったということは皆の動揺を誘いそうなので伏せておきたいが、もし本当に今している事がまずいことなのだとしたら、このまま契約を進めていくのは…、
「それは明日から考えよーぜ、俺さまもう疲れた〜。」
「ゼロス!おまえなぁ、」
ぐだーとロイドに寄りかかるゼロスに、今回ばかりはしいなも同意する。確かにここのところ契約のためにとエアバードで飛び回ってばかりで休まる時もろくになかった気がする。自分も昨日倒れたのだし、皆の疲れも溜まっているだろう。
「アルテスタさん、少しの間居させて貰っても構いませんか?」
「今更これぐらいのことでどうこう言わんわい。」
「では、食事の用意をシてきまスね。」
皆は四散し思い思いに穏やかな時間を過ごすことにした。やることはまだまだ有るのだから、力を蓄えておかなくては。
とは言っても昨日1人でゆっくり休んでしまったカーノは、ただごろごろしているだけというのも落ち着かず、室内や敷地内をぐるぐると歩き回っていた。
「あれ、タバサちゃん、どこか行くの?」
ついには敷地の外に出て銃を打ち出したころ、籠を持った少女と出くわした。
「えエ、食事に使う香草を摘ミに行くのデす。」
「…1人で?大丈夫?」
「大丈夫でスよ、すぐ近くですノで。
ご心配有難う御座いマす。」
一礼して綺麗な姿勢のまま森の奥へ入っていくタバサの後ろ姿をしばらく見ていたが、やはり気になって後をついて行った。
「ゼロスさん、有難う御座いマした。」
「おーお帰りぃ。
…あれ、カーノも?」
香草を籠に乗せて帰ると、厨房で鍋を回していたのはゼロスだった。なんだかその風景が似合わなくて笑うと、ゼロスはむっとして手を止めた。
「…そんなに俺様の料理姿はおかしいか?」
「いや、意外っていうか…。」
「料理くらいするっつーの!」
実際料理を作ったのはタバサちゃんでゼロスは回していただけじゃないかと言えば、じゃあ今度食べさせてやるよと言い出した。
「それは楽しみだな。」
「何かちょっとバカにしてない?」
「いや、純粋にな。」
野菜や肉のたくさん入ったみるからに美味しそうなシチューをテーブルに運ぶと、皆が自然と集まってきた。この光景もすっかり見慣れたものだ。
「いっぱい食べてくだサいね。」
「ボクおかわり!」
「あ、俺も!」
タバサのシチューは大好評でどんどん減っていく。そして話題は前に聞いた魔剣のことへと流れていった。
「実はわしもあまりよく知らんのじゃが…魔剣の名はエターナルソードといってな。
エターナルソードには所持するための資格があると聞いたことがある。」
「…資格?」
「そうじゃ、エターナルソードはハーフエルフにしか使用出来ん。」
「!! そんな…」
「困ったわね…、私たちに剣は使えないわ。」
仲間内でその資格を持っているのはリフィルとジーニアスだけだ、魔術を使う2人に剣は持たせられない。ミトスもハーフエルフだが、無関係の彼をこちらに引き込むわけにもいかない。
「しかしハーフエルフ以外でも所持出来る方法もあると噂には聞いたが…、
すまん、わしにはそれくらいしかわからん…」
「いや、十分だよ。
ありがと………?」
と、眉を下げて笑ったロイドの目が急に虚ろになり、かくん、と軽く頭を垂れた。
「…ロイド?どしたの?」
「…ん、いや…何か急に眠くなって来て……」
「疲れが出てきたんじゃないか?」
ごしごしと目をこすって眠気を追い払おうとするも、よほど強い睡魔なのか席を立って、ロイドはふらふらと寝室に消えていった。
「食べてすぐに横になるのは良くなくってよ!
…まったくもう。」
「ふあぁあ…、なんだかボクも眠くなってきたよ…」
口に手をあてて大きなあくびをするジーニアスは、寝室に戻るどころかその場に突っ伏して寝てしまった。それだけではない、今度はコレットも眠気を訴えて、こてんと体を倒す。
伝染病のように次々に眠りに落ちていく皆にカーノは流石におかしいと感じた。いくらなんでもこんなに一斉に眠くなることなどあるのか?そしてついには自分もその波に巻き込まれてしまう。
目を開けていられなくて、スプーンを取りこぼし机に伏せる。食器の倒れる音や何かが落ちたような音がして霞む視界で周囲を見れば、他の皆も倒れていた。
なんだ、これは。自然の眠気じゃない、誰かが意図的に、自分達を眠らせようとしている。わかっていても意識はどんどん遠退いていく。
終には椅子から落ちて床に転がり、数秒後には小さな寝息を立ててしまっていた。
そうして静かになった部屋の中で、1人席を立って皆が寝たかどうかを確認する赤髪の青年。
彼のシチューだけが、手付かずのまま机に放置されていた。
1人1人順番に確かめて、最後にカーノの側にかがんで、顔の横に手をついた。これは確かめるでもなく爆睡している。
薄く開いた口からは規則的な呼吸が漏れ、警戒心などまるで感じさせない無防備な寝顔に、今なら何をしても起きないんじゃないかとゼロスは顔にかかっていた細い髪を払ってそっと手を這わせた。今まで気にしたこともなかったが、結構綺麗な顔立ちをしていると思う。
「ご苦労だったな。」
「…お早いご到着で。」
数人の兵を連れてずかずかと部屋に乗り込んできたユアンによって現実に引き戻されたゼロスは、男相手に何考えてるんだと失笑した。
「ロイドはどこだ?」
「そっちの寝室だよ。」
「そうか。
…待て、その男は確か……?」
ゼロスの横に倒れるカーノを見て、ユアンが暫し思案する。
「…この男も連れていけ。」
部下に短く指示する相手に、ゼロスは庇うようにして伸ばされた手とカーノの間に立ち塞がった。
「おいおい話が違うじゃねーか、狙いはロイド君だけの筈だろ。」
「そのつもりだったが、交渉の道具は多いにこしたことはないのでな。
…心配せずとも、抵抗しなければこちらも手荒な真似はしない。」
「…本当だろうな?」
「我々の目的はあくまでオリジンの封印を解かせることだ、その男自体に用はない。」
数分睨みあって、ゼロスは静かにカーノから離れた。ユアンは兵と共にロイドの眠る寝室へと消え、ゼロスは小さな舌打ちをその背中にぶつけた。
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