11.別れ汝は前を向く
「兄貴!!!!」
ロイドは届かないと知りながらも手を伸ばした。例え血の繋がりがなくても、また家族を失うのが嫌だった。
その時、小さな光の玉がカーノの体から空に向かってゆっくりと舞い上がった。
まるで蛍のようなその光の出所は、カーノの髪飾りだった。光の塊はその数を増していく。
光はカーノの後ろ首に集まっていた。意思を持っているかのようにその一点に群がる。異変に気づいたカーノも目を開けて光を見た。
不思議で幻想的な光景は数分で収まった。見れば変形していたはずの手足は元に戻っている。
恐る恐る輝石に触れると、そこにはさっきまで無かった筈の枠がついていた。指先でその輪郭をなぞると模様があるのがわかる。
要の紋、手触りでそれだとわかったカーノは髪を掴んだ。光を放っていた髪飾りが無くなっている。
まさかあれは、髪飾りをくれた女性が言っていた言葉が脳を過った。
「お守り。」
「…いらねぇよ、邪魔なだけだろ。」
「まぁそう言わずに、貰っておいて。」
あれはこう意味だったのか。ただのおまじないのようなものだと思っていた小さな髪飾りに込められていた色んな意味を漸く理解して、カーノは泣きながら彼女に感謝した。
「…クラトスは?」
リフィルの懸命な治療によって傷を癒したカーノが真っ先に言ったのはそれだった。
自分を庇った時の傷からして動ける筈は無いのに、辺りを見回しても姿が無い、声から不安を感じ取ったのかユアンが痛む体を起こす。
「案ずるな、ユグドラシルが連れ帰ったのだろう…。
クラトスは無事だ。」
「……そうか。」
連れ帰ったと聞いていまいち安心出来ないのは相手がユグドラシルだからなのだが、殺す気は無いようだったし今は無事を信じるしかない。カーノはユアンの傷に手を翳して詠唱する。
「…何のつもりだ?」
「あんたの行動を許したわけじゃない。
ただ、あんたがどういうつもりで俺や…ロイドを狙ったのかが聞きたいだけだ。
その前に倒れられても困る。」
「…その作戦も水泡に帰したがな。」
状況が全く把握出来ていない仲間たちも集まる。ロイドだけは少し離れたところから耳を傾けていた。
「我々の目的はオリジンと契約し、エターナルソードを使ってあの禍々しい塔を破壊することだった。
そうすれば千年王国設立を阻止でき、大いなる実りも発芽する…。
ディザイアンの内通者からロイドの存在を知り、これでクラトスを動かせると確信したのだ。」
「…オリジンの封印は、クラトスにしか解けないのか?」
「…封印は奴の体内のマナを放射することで解ける。」
「…マナの放射だと?そんなことをしたら命を落としかねんぞ!」
リーガルの言葉にロイドとカーノは狼狽えた。それはつまり封印を解けばクラトスは……、
「ま…待てよユアン!
クルシスなのに何でおまえはユグドラシルに賛同しないんだ…!?
四千年前からの仲間なんだろ!」
ユアンの行動が世界を思ってのことならば止めることは出来ないが、それによってクラトスが死ぬということを考えると何も言えなかった。ロイドは立ち去ろうとするユアンに問う。
「…あれはマーテルの遺言をゆがめてとらえた結果だ、彼女が真に望んだものではない。」
「…マーテルさまは何て…?」
「誰もが差別されることのない世界を見たい…、そう言っていた。
時間がない、ユグドラシルに殺されてしまう前に部下を退避させなくては…。」
去っていくユアンに、カーノは自分を重ねていた。あの目は大事な人を想う目だ、ユアンにとってマーテルとは、自分のとってのアンナと同じだったのかもしれない。
1人でも、仲間を裏切ってでもあそこまでやるのは愛しい人の遺言だからか。その気持ちは共感出来るものだった。
「だめだわ!外傷は治せても内部の損傷までは…!
このままだと危険だわ!」
アルテスタの治療をしていたリフィルが治癒を止める。横にはタバサも倒れていたが、傷口から血が出ていないことが不思議だった。
「医者はいないの!?」
「腕のいい医者がいることにはいるけど…少し遠いよ。」
「…仕方ないわ、私たちはここに残って二人についているから、あなたたちはその医者を連れてきてちょうだい!」
「…レアバートで飛ばしても往復で1日はかかるよ、その間大丈夫なのかい。」
「…何とかしてみせるわ。」
リフィルを残して一行はレアバートに乗り込んだ。北東に向かって飛び続けていると、周りの景色が変わり始める。
数時間してようやく雪の積もる目的地に着くと、病院に駆け込んだ。
金はいくらでも払うからと無理を言って直ぐに出張に着てもらえるよう交渉し、出発しようとして今度はゼロスの姿が無いと言い出す。
「あのアホ神子…!
こんな時に何やってんだい!」
「探してくる!」
「待て、それでは時間が惜しい。
ここは二手に分かれたらどうだ。」
リーガルに言われ、ロイドとコレットは街に残り、しいな達は医者を送ることになった。自分もそちらに着いていくと言ったのだが、
「…お前はロイドに話があるのではないか?」
と言われ残ることになった。正直まともに話など出来るのかと怖かったが、確かにちゃんと説明して謝らなければならない事だ。
「ロイド…ちょっといいか?」
拒絶されるのを承知で言うと、コレットは「ゼロスを探してくるね!」と出ていった。雪の降る広場に残された2人の間に微妙な空気が流れた。
最初に何を言うべきか悩んで、やはり謝罪が先かと頭を下げた。
「…ごめん。
許してくれとは言えないけど、謝らせてくれ。」
「…それは騙してたことについて、か?」
「ああ、
…それだけじゃないんだけどな。」
「なら、ちゃんと話してくれ。
何で俺の兄貴になってたのか、何で母さんのことを知ってるのか、他にも…俺の知らないこと全部。
じゃないと、俺はあんたを許すことも怒ることも出来ない。」
「…それもそうだな。
じゃあ長くなるけど聞いてくれ。」
一生話すことはないかもしれないと思っていた真実、カーノは自分の辿ってきた道程を思い出しながら話した。
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