11.別れ汝は前を向く

そしてその時は案外すぐに来た。 さて自分もゼロス達を探しに行くかと考えていた時、話がしたいと思っていた人物はやって来た。あまりにも唐突なことで、最初はただの他人の空似かとも思ったが、それは本人だった。 「クラトス……!」 そのうち会えるだろうとは思っていたが、こうもいきなり出てこられると対応に困った。とりあえず普通に歩いているということは怪我は治ったのだろうか? 「…えっと……その、 怪我…大丈夫なのか?」 名前を呼んだせいでこちらにやって来た相手に、とりあえず何か言わないとと浮かんだことを聞いた。 「ああ。」 「…なあ、何であの時庇ったりしたんだ?」 「…何故だろうな、私にもわからん。 ただ体が勝手に動いたのだ。 …お前はもう良いのか?」 「怪我か?それならリフィルさんが治して…」 「そうではない、 …私のことはもういいのか?」 それは、銃を向けたことについてだろうか。そのことなら自分が悪いんだと、さっきロイドに話したのと同じ説明をした。 「…だから、寧ろ責められるべきは俺なんだ。」 クラトスは全てを聞いても驚いた様子は無かった。もしかしてほとんど気付かれていたのかもしれない、思えばクラトスにはそういった質問を度々されていた。 そしてその懐かしいやり取りがまた始まる。 「その手につけているエクスフィアは飾りか?」 「あぁ、これは偽物だよ。クルシスの輝石を見せるわけにはいかなかったから。 …でももう意味無いな。」 敵にも味方にも見られてしまったのだから、もう隠す必要は無い。カーノは手に着けていた模造品のエクスフィアを外して放り投げた。 「では、魔術が使えるのはやはりアイオニトスか?」 「ああ、牧場から逃げ出す時に、同じようにアンナさんを心配してた人たちに貰った。 役に立つだろうからって。 …ところであんた、もっと他に俺に言いたいこととかないのか?」 「他にとは?」 「よくも勝手に名を騙ってくれたなとか、銃を向けたことに対してとか、俺がアンナさんのことを…好きだったこととか。」 どうしてロイドといいクラトスといい怒らないのか、こうも冷静なのはどうしてだろう?こいつにはいっそ責めて貰った方が楽なのに。 「私にはその権利がない。」 「何でだよ?あんたはロイドの親でアンナさんの夫なんだから、権利なら十分あるだろ。」 「私がアンナを殺したのは責められても仕方のない事だ、それをお前が責めないのなら、私にお前を責める権利はない。 名前に関しては…最初は確かに怒りを覚えていたこともあったが、今はもう何とも思っていない。 …アンナのことも同じだ、お前がアンナを好きだったことについて…、まあ何も思わなかった訳ではないが、好きになるのは人の自由だろう。」 「…でも腹は立ったんだろ?」 「それはお前も同じではないのか?」 それはまあ確かにそうだが、自分のはただの嫉妬や八つ当たりだったのだし、クラトスの怒りはそれとはまた違うんじゃ…?自分の怒りがお門違いなら、クラトスの怒りは正当なものというか。上手く表現出来ないが、とにかく自分が怒るのは間違っていて、クラトスが怒るのは正しい。そんな気がしていた。 「…納得がいかない、と言いたそうな顔だな。」 「だって何か、腑に落ちないっていうかな……」 「私が喚き散らせば満足か?」 「喚き……いや、うーん…どうなんだろうな。 …っていうか、俺がもしそうしてくれって言ったらするのか?」 「いや、流石に此所ではな。」 今立っているのは街の広場だ、こんなところで大の男2人が叫べば軽く騒ぎになりそうだ。何より恥ずかしい。 「だがそういう事だろう、お前はまだ私に対して僅かにでも怒りを持っていて、しかし一方的にそれをぶつけるのは間違っていると思っている。 だから私にも同じように自分に対しての怒りをぶつけて欲しい、…違うか?」 「…あんた読心術でも持ってるのか?」 理性で押し込めていた感情を言い当てられて、敵わないなと苦笑する。それを見たクラトスは少し悩んだ後、ならばこうしようと言って拳をつくり―…、 それを思い切り横っ面に叩き込んできた。 「〜〜〜〜ッ!!!!」 何の準備もなく殴られたカーノは普通に吹っ飛んだ。口を切ったのか鉄の味もする。手加減の無い本気の殴り方だった。 殴り合いで解決って、それはどんな熱血ドラマだ。この親にしてこの子ありというか、ロイドの性格はクラトスの影響もあったらしい。さあ次はお前の番だと言いたげに目を閉じて佇むクラトスに、カーノは自分が受けたダメージと釣り合うよう積年の怒りを込めて全力で殴った。 ここまで力を込めて殴ったことなど今まであっただろうか、拳のつくり方もろくに知らなかったカーノは逆に大ダメージを受けた。しかも自分は吹っ飛ばされたのにクラトスはよろける程度で済んでいる。 だがそれでも気は済んだ、ずっと胸の中にあった黒いモヤモヤは無くなり、そのまま雪の中に背中から倒れ込む。 「あースッキリした!」 怒りが消えると今度は笑いが込み上げてきた。全く自分は何をやっていたのか、向き合うことや立ち向かうことから逃げていた日々が馬鹿らしい。 あの苦しみから抜け出すことはこんなにも簡単なことだったのか。 「…あんた幸せ者なんだぞ、あんなイイ女性と結婚出来て。」 「…そうだな。」 「アンナさんも幸せだったんだろうな、あんたが相手だもんな。 あー、俺の片想い期間返せよ、こんなことなら早く諦めてりゃ良かった。」 諦めきれないから今までずるずる引っ張ってきたのだけれど。自分では何一つこの男に敵わない、力も想いも。 もし彼女を牧場から連れ出す勇気が自分にあったなら、もし妹を救い出す勇気が自分にあったなら、何かが変わっていただろうか。 アンナさんを追いかけるのではなく、彼女を狙うクルシスの奴らを止めようとしていたならば、何かが変わっていただろうか。 結局全て自分が臆病だったから招いた結果なのだ、それを認めることすら怖かった。 最初から勇気を出していれば、自分の幸せではなく皆の幸せを思っていれば、アンナさんもリイアも今この時笑って生きていてくれたのかもしれない。 「……っ、強くなりたいなぁ…、」 力だけじゃなくて、心も。後悔しないで済むように、大事なものを全て護れるくらい強くなりたい。諦めて逃げるんじゃなくて、立ち向かえるように。 目から流れた水が冷たい雪を溶かす。悲しいやら悔しいやら色んな感情が入り交じった涙だった。 「…っあぁもう、最近こんなんばっかりだ…っ、 泣いてたってどうにもならないことは、分かってるんだけど、なっ…、」 無理矢理止めようと雪に顔を埋めるとクラトスに起こされた。冷たさで顔が痛い。 「やめておけ、凍傷になるぞ。」 「だって、こうでもしないと、止まらないから…っ、」 「止める必要は無い、泣きたいのなら泣けばいい。」 「見られんのが嫌なんだよ…!俺1人だけ泣いて、これじゃ子供みたいだろ…!」 拭っても拭っても止まらない涙に苛々していると、いきなりクラトスに抱き締められた。胸板に押し付けられた耳がクラトスの鼓動を脳に伝える。 「…これなら問題ないだろう。」 「あ、んたなぁ…っ!!」 余計恥ずかしいだろと叩きつつも、その温かさに安心している自分が居た。 クラトスは今生きてる。ロイドもジーニアスもコレットちゃんも、リフィルさんもしいなもゼロスも、プレセアちゃんもリーガルも村の人も、今まで助けてくれた人々も。自分の大事な人はまだこんなに残っている。 だからまだ大丈夫、まだ護るべき人は居る、彼らは手遅れなんかじゃない。 強くなる意味はまだここに在る。もう逃げたりしないからと、カーノは妹とかつて愛した人に誓った。
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