11.別れ汝は前を向く
「…なあ、俺も少し聞いていいか?」
やっと落ち着いてきて泣き止んだカーノは、オリジンの封印について尋ねた。本当にクラトスの命を賭けなければ解けないのかと。
「そうだ。
…私はオリジンの封印そのもの、私が死ねば封印も解ける。
だからこそユグドラシルも、私を放置出来なかったのだろう。」
甘いことかもしれないけど、クラトスを死なせずに解く事は出来ないのだろうか。もしくはオリジンの代わりになるようなものを何か見つけて……、
「…何故お前がそんな顔をする。」
「え? …どんな顔してた?」
「……ロイドと同じ顔だ。」
ロイドと同じ顔?意味がわからず首を傾げる。クラトスはどこか嬉しそうに、辛そうに目を細めた。
「…そろそろ行かなければ、私にはまだやるべきことがある。
ユグドラシルを放置するな、奴は…いくらでも命を犠牲に出来る。
コレットを奪われる前に…、」
ユグドラシルの残虐さはよく知っている、これから先どんな手を使ってくるか分からない。前々から狙われているコレットに注意しておけということだろうか。
「分かってる、ちゃんと護るよ。」
「…それからお前自身もだ。
ユグドラシルはお前の持つ輝石を諦めてはいない、
…無理はするな。」
「…クラトスもな。」
そっと腕を離されて、温もりが無くなるのを少し名残惜しく感じた。またこれで当分会えないのかと思うと、何故か酷く苦しくなる。
相手が何処に居るのか、安否さえもわからない状況の怖さが今更浮上した。まるでアンナさんを探していた時のようだ。
「クルシスの拠点は救いの塔の上にある、ユグドラシルを…いや、
ミトスを止めてくれ…。」
あれだけの事があっても、やはりミトスはクラトスにとって大事な存在なのか。自分にとっては忌むべき存在だが、ジーニアスはきっとクラトスと同じ気持ちだろう、殺さずに済むならその方がいいのかもしれない。…でも、
「ミトスを止めたら、あんたは帰ってきてくれるのか…?」
カーノの言葉は、クラトスには届かなかった。
寒さも忘れて、暫くの間1人で立ち尽くしていたが、此所に居ても戻ってこないだろうとゼロス達を探しに歩き出した。
そうしてカーノは人混みの中に消えていったのだが、ちょうどその頃彼が歩き出した方角とは逆、つまりクラトスが歩いていった場所では、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
理由は今しがたカーノと別れたばかりのクラトスと、2人の様子を目撃してしまったゼロスが鉢合わせてしまったからだった。
数分前にコレットと無事に出会い、自分を探しているらしいロイドやカーノを探していたゼロスは、たまたまカーノとクラトスが話しているのを見つけてしまった。遠巻きに見ていた為会話は聞き取れず、2人が突然殴り合いを始めた時は本当に何をしているんだと彼は思った。
だがその後の光景を見て、ゼロスは2人が敵同士として話しているのではないと悟った。それどころかあれではまるで……、そこでふと気づく、
(……何でこんなイライラしてんだ?)
自然と自分が眉間に皺を寄せていたことに疑問を抱いてゼロスは自問自答した。別に2人がどれだけ親密な関係だとしても自分には関係ない筈なのに、何故か妙に腹が立つ。その怒りはどちらかと言えばクラトスに向いていた。
元々ゼロスはクラトスが気にくわなかった、ロイドの父親だと聞いた時は、子供を振り回すその様が自分を取り囲んでいた大人たちとダブってしまって余計に鼻についた。反対に自分と似た部分を見出だしたロイドには好意的になっていたのだが。
しかしそれを差し引いても、今の光景はゼロスにとって勘に障るものがあった。その原因がわからないまま、こちらにやって来たクラトスと鉢合わせてしまった。そして今の状態になったのだ。
クラトスはこちらに気付きながらも、何も言わず通り過ぎようとした。しかしゼロスは腹の虫がおさまらず、衝動のままそれを引き留める。
「さっきのありゃ何だ?」
「…神子が盗み見とはな。」
「見たくて見たわけじゃねーんだけどなぁ?
あんなトコで堂々とイチャイチャしてりゃ嫌でも目に入るっつーの。」
「それはすまなかったな。」
あれくらい見られても余裕ってか?顔色1つ変えない相手にどんどん負の感情が増えていく。
「あんたはロイドくんの父親だろ、カーノはロイドくんのお兄さまだ。
そのあんたがカーノに手ぇ出すのはおかしーんじゃねーの?」
「…言葉の意味を理解しかねるな、何のことだ。」
「そうやってしらばっくれて、カーノまで振り回す気かよ?
…カーノはあんたのもんじゃねーからな。」
「…神子のものでも無いだろう。」
お互いに睨みあって数分、我にかえったゼロスは視線を外し背を向けた。何を言い合ってるんだ俺はと頭を冷やすべく街を徘徊する。
おかげでカーノ達の待つ宿に戻ったころには頭に雪が積もっていた。
「ゼロス!何処行ってたんだ?」
「いや、まぁ…色々と。」
「風邪ひくぞ、先に風呂入るか?」
頭に乗った雪を手で払い落とすカーノに何故か背徳感を覚えて、すいっと頭を横に倒して手から逃れる。
「? どうした?」
「あ〜…、俺さまのことはいいから、ロイドくんたちのとこ行ってやれよ。」
「ロイド?何で……、
…あ、もしかしてアルテスタさんのとこでの事か?
あの事についてはもうちゃんと話したから大丈夫だよ、心配してくれて有難うな。」
そうでは無いのだが、ゼロスはこの気持ちをどう説明すればいいのかわからず諦めた。自分でも把握出来ないのだからそれも当たり前なのだが。
「ほら、風呂行ってこい。部屋はあそこだから。」
「わーかったって!」
この感情の正体をハッキリさせたいような、させたくないような。背中を押す相手にゼロスは、最後に1つだけ聞いた。
「…なぁ、あの天使サマのことどう思ってんの?」
「あの天使?」
「だぁから、クラトスとかいう奴。」
たっぷり考える時間を置いてから、返ってきた答えは「わからない」だった。
まるで今の自分のようだ。
「何で急にそんなこと聞くんだ?」
「さてね、んじゃ行ってくるわ。」
とりあえず風呂にでも入って落ち着こう。ゼロスは今までのカーノ同様思考を投げ出し、不思議そうにするカーノの視線を背に浴びながら浴場に向かった。
It continues to
next time...
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