12.

様々なことに翻弄され、精神的にも肉体的にも慌ただしかった夜を乗り越え、静かな朝を迎える。 「アルテスタさんの具合だけど…とりあえず峠は越したみたいだわ。」 雪国の宿で温かい紅茶を啜りながら、治療から帰ってきたリフィル達がアルテスタやタバサの様子を報告する。 「二人を残して来ちゃって大丈夫なのか?」 「今はここの医者と、しいなが頼み込んで連れて来てくれたミズホの民がつき添ってくれてるわ。」 「そうですか…、 4人ともお疲れ様。」 タバサのことはまだわからないらしいが、今はその医者達を信じるしかない。自分たちにはまだ他にやるべき事がある。 「みんな聞いてくれ、 俺はこれからクルシスの本拠地に乗り込もうと思う。」 言わんとしていた事をロイドに先に言われ一瞬驚くが、恐らくロイドもクラトスから聞いたのだろうと、黙って聞く側に回る。 「本拠地に…って、 ミトスと戦うつもりなの!?」 「ああ。」 「待ってロイド、 本拠地といったって…どこにあるかわかっているの?」 「えっ、いや…あははは、 この前ユアンがそんなこと言ってたよーな。」 明らかに嘘だろうことが分かる反応をするロイドに、リフィルは半信半疑ながらも「そう」と納得した。 「ウィルガイア。 救いの塔から行けるって聞いた。 そこがクルシスの本拠地だ。 目的は2つ、千年王国設立の阻止と、オリジンの封印の解放だ。」 「でもロイド、封印を解放したらクラトスは…」 リフィルと目があって、気遣われているのかもしれないと感づいたカーノは精一杯の笑顔を見せた。 「わかってる。 …でもまだ死ぬと決まったわけじゃない。 あいつが俺たちの味方をするのかも…わからない。 でもわからないことで悩んでる暇はないんだ。」 その通りだ。こうしている間にも危機は近付いている。僅かにでも希望を捨てず、目先のことを全力でやり遂げようとするロイドは逞しく見えて、反対に煮えきらない自分が情けなく思えた。 「…ごめんなジーニアス、俺はミトスと戦う。 ミトスのやり方は嫌なんだ、…今までたくさんの命が犠牲になった。 死ぬための命なんてあっちゃいけなんだよ…!」 「…私もロイドさんの意見に賛成です。 私はもうアリシアのような…エクスフィアの犠牲者は出したくない。 …私も行きます。」 「世界の統合のために」 「テセアラとシルヴァラントのみんなのためにね!」 プレセアに続いて、リーガルやしいなもやる気を見せる。渋っていたジーニアスも皆の決意に押され覚悟を決めた。 「…そうだね、友だちなら…まちがったことをちゃんと言ってあげなくちゃね。 行くよボクも…ミトスに会いに!」 「…ああ!」 「でもロイド、例えオリジンの封印を解いたとしても…エターナルソードはどうするの?」 「そのことなら心配いらねえよ。 ハーフエルフでもない俺さまが何で魔法剣を使えると思う? テセアラの新技術で魔導注入を受けたからよ。 俺さまは人間だけど、エルフの血も入ってるってわけだ。」 これなら何とかなりそうっしょ?と得意気に話すゼロスに、しいなはそんな話は初耳だと疑う。 だが今はそれに頼る他に術はない。 「そうか…ならこれが最後の戦いになるかもしれないな。 準備が出来たらまたここに集合しよう。 …そしたら出発だ。」 長い旅の間にすっかり頼れるリーダーに成長したロイドを見て、カーノは安心した。 もう俺が側に居なくても、こいつは大丈夫かもしれない。これからの戦いが終われば…… (…俺は……どうしたらいいんだろう。) 皆清々しい、とまではいかずとも迷いのない顔で戦いに挑もうとしている。いつまでも迷って、進めないのは自分1人だけ。 足を引っ張る訳にはいかない、辛気くさい顔をしていても心配をかけてしまうだけだ。 そう分かってはいるのに、分かっては、いる筈なのに。 「…無理はするなよ。」 1人になったと思っていた部屋に、リーガルの声が響いた。ハッとして顔を上げると、心配そうな相手の表情。 「大丈夫、…ごめん。」 「謝る必要はない。 …この前の話の相手は、皆の言っていたクラトスという者のことか?」 いつだったか、クラトスが敵側だったと知って間もなく、戦うことを躊躇していた己がこの男に相談を持ち掛けたのは。 「…ああ。」 「そうか、 …大事な存在なのだな。」 「大事、っていうか…、 …まあ、そうなるかな。」 「…お前はこれでいいのか?」 皆が封印を解かせようとしていること、これからまた戦わなければならない可能性が大いにあること。 ロイドはああ言っていたが、クラトスが助かる可能性が低いということは明らかだった。きっとこのままいけば、クラトスは…、 「俺、あいつに助けて貰ってばっかりなんだ。 砂漠で行き倒れそうになった時も、ロイドのことで落ち込んでた時も、牧場で足がすくんで動けなかった時も、アルテスタさんの家で…殺されかかった時も。」 思い返せば、いつだってクラトスは側に居た。敵に回ってからも、彼は自分やロイド達を後押ししてくれていた。 「なのに俺はあいつが一番苦しんでる時も辛い時も…何もしてやれなかった…! 今だってこうして迷ってるだけで…あいつを救う方法なんて少しも浮かんでこないんだ…!!」 自分は非力だ、そう嘆くばかりで。相手を護ることも、諦めることも出来ない。 「こんなんじゃ、リーガルや皆に迷惑が……」 服を握りしめて俯く自分の肩に、そっとリーガルの手が乗せられる。 「あの男が他の敵とは違うのだということは、ロイドやお前を見ていて分かった。 不安なのはお前だけではない、ロイド達も同じように悩み、苦しんでることだろう。 だが我々は前に進まねばならん、あの男とも本気で対峙しなければならないだろう。」 「…その通りだな。 だからもう……」 「だからお前は最後まで悩めばいい。」 リーガルの言葉に、顔を上げてきょとん、とする。 「皆まだ多少の躊躇いがあるとはいえ、ある程度の心構えは出来ている。 そして今我々を引っ張っているのはロイドだ、戦うことになれば、迷ってはいられない立場に居る。 …斬ることが恐ろしくともな。 だからその分お前が悩んでやれば良いのではないか?本当に戦わなければならないのかどうかを。 迷ってはいられない皆の分まで、戦う相手の心配をしてやればいい。 そうして出した答えに、お前は従えば良いのではないか?」 「…でも、そんな、皆に嫌な思いをさせて、俺だけ何もしないなんて……」 「何もしないのではない、お前はお前の戦いをするだけだ、周りに合わせる必要など無い。 納得出来ぬことを無理に納得する必要も無かろう。 それを迷惑だと言う者は恐らく居ないだろう。 もし言うものが居ても、私が説得しよう。」 なんでそこまで、と優しすぎる相手に戸惑う。 俺はそこまでしてもらう程のことをしてはいないのに。 その疑問の答えは問わずとも教えてくれた。 「…お前の大事な者はまだ生きているのだろう。 諦めるにはまだ早いのではないか?」 そうか、リーガルは。 プレセアの家で聞いた話を思い出して、見たこともない1人の少女と楽しそうに話す2人を想像した。 そうさっきも、プレセアがその名前を口にしていた。 「…アリシアさん…ですか……?」 リーガルは何も言わず、ただ切なそうに微笑んだ。 「私は間に合わなかった。 だがお前にはまだ時間がある、…後悔をするような選択はして欲しく無いのだ。 私の勝手な意見だがな。」 僅かに目頭が熱くなるのを感じて、あわてて目を擦る。 「……有難う、本当に。」 礼には及ばんと優しく笑う相手に、カーノは心の底から感謝した。
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