12.願わくは君の傍に
白い雲を突き抜けてどこまでも伸びる塔。
フラノールを出た一行は、それぞれの想いを胸にその塔の最下層に踏み込んだ。
「塔の内部に入るには神子の資格を示さないと…」
「大丈夫なのゼロス?」
「その辺はぬかりねーぜ。
この神子の宝珠があれば開くはずだ。」
テセアラの神子である青年が前に出て、懐から掌サイズの石を取り出す。
それを塔の入り口にある台座に翳せば、巨大な扉が重々しい音を立てて開く。
その先はシルヴァラントで見たものと同じ光景だった。長く続く階段に、螺旋を描いて漂う幾つもの棺桶。
テセアラでも同じように沢山の人が犠牲になったのだろうか、たった1人の野望の為に。
「…ここからどうやって上へ行けばいいんだ?」
階段を上りきって円形の足場に乗った皆は、そこで足を止めた。塔の造りを見るにまだ上がありそうだが、これより先に続く道は無い。
「ここは俺さまに任せとけ、ちゃーんと考えがあるからよ。
コレット、ちょっとこっち来て。」
「…私?なぁに?」
「まーいいから、こっちこっち。」
呼ばれたコレットの側で、ロイドが倒れている柱に気付いた。カーノもその視線を辿って一本だけ壊れている柱を見る。
「あれがどうかしたのか?」
「いや…なんかあの柱、シルヴァラントで俺が壊した柱に似てる…
…いや、同じなんじゃ…」
どういうことだと聞こうとした瞬間、コレットの短い悲鳴が聞こえた。
見ればコレットの足元に魔方陣が浮かび、どこから出てきたのか黒い翼の生えた女達がそれを取り囲んでいた。
「コレット!?」
「…ロイド!」
コレット自身も自分がどういう状況に侵されているのか理解できていないようで、ただ女達の持つ剣に怯え身を縮こませている。
「ご苦労様じゃったな、神子ゼロスよ。」
「おまえは…っ、
プロネーマ…!!」
高い場所からこちらを見下ろす女性は、手を出してゼロスにコレットを寄越すよう命じた。
そしてゼロスはこちらに背を向けたままその指示に従う。
「ゼロス!?」
「あんた何すんだい!」
困惑する一行に対して、ゼロスは長い髪を優雅に払って一言。
「うるせーなぁ。」
それだけで、皆が言葉を失った。
「寄らば大樹の影って知らねーのか?
おまえらのしてることは無駄なんだよ。」
やっている事が無駄。
今一番聞きたくなかった言葉を味方に聞かされるとは思ってもみなかった。
「いいじゃねーか、コレットちゃんだって生贄になりたがってたろ。
なぁコレットちゃん。」
「ゼロス…うそだよね…!?」
「あんた…裏切るつもりかい!?」
「裏切るとは笑止。
ゼロスは最初からわらわたちの密偵としておまえたちの仲間になったのじゃ。
のうゼロス?」
親しげに話す敵にゼロスは答えず、ロイドが問いただす。
「俺さまは強い者の味方だ。
レネゲードとクルシスとおまえら、
…はかりにかけさせてもらったぜ。」
「レネゲードにまで情報を流してたってのかい…!!
あんたって奴は…!!
いいかげんだけどいいところもあるって思ってたのに!」
「お誉めの言葉ありがとぉ〜。
結局マナの神子から解放してくれるってミトスさまが約束してくれたんで、こっちにつくことにしたわ。」
「…神子がそんなにも嫌か、仲間を売るほどに…!!」
「ああ、嫌だね。」
ふざけた笑みを消し去ってキッパリと断言するゼロスの声は、とても憎しみが込められているように聞こえた。
「その肩書きのおかげでろくな人生じゃなかった、たまんねーよホント…。
妹に神子をゆずれてせいせいだぜ。
わりーな、そーゆーわけだ。」
「お前…だからって……!!」
信じてたロイドや皆を、こんな簡単に見捨てるのか。
これじゃまるで……
眼前に居るゼロスの姿にいつかのクラトスがダブッて、カーノは目眩がした。
「…うそだ、俺たちのこと仲間って言ってたじゃないかよ…、
…俺は信じないからな!」
「ああやだやだ、これだから熱血くんはよ。
プロネーマさまぁ、こんな奴ら放っといて行きましょうよ〜」
「……っ!」
拳を震わせて、ロイドは刀を抜いた。行かせるものかとプロネーマに向かって走り出すが、同じく剣を抜いたゼロスがそれを受け止めた。
「…ゼロス……っ!!」
「…護衛も契約のうちなんでな。
やるからには本気でいこーや!」
「やめろゼロス!!
おまえとは戦いたくない…っ」
「その考えが…甘いっつーんだよ!!」
ロイドの頬に切り傷が入り、血が頬を流れる。
魔術まで使ってロイドを追い詰めるゼロスに、ようやくカーノが動き出した。
剣を弾かれ腹に膝を打ち込まれたロイドがその場に倒れ、入れ替わるようにカーノが前に出る。
「やめろ!ロイドに手は出すな!!」
「相変わらずだねぇ“お兄さま”?
美しき兄弟愛ってか。」
「ふざけてる時じゃないだろ!?
お前に何があったかは知らないけど、コレットちゃんもロイドも皆もお前を信じてここまで来たんだ!
クルシスを止めるんじゃなかったのか!?」
「兄弟揃って暑苦しいっての。
…血も繋がってねーのによく似てるこった。」
さっきからゼロスの言葉が心を抉っていく。
冗談でもそんなことを言うような奴じゃないと思っていたのに。
「カーノ!!天使たちが!!」
ジーニアスの声に上を見上げれば、コレットを囲んでいるのと同じ無数の天使達が空から降りて来ていた。
「…なぁ、あんた一体誰が一番大事なんだよ。」
「………え?」
目を離した隙に懐に潜り込んでいたゼロスにロイド同様腹を殴られ、痛みにうずくまる。
「おまたせしましたプロネーマさま〜、
行きましょーぜ。」
「…っ待てゼロス…!
お前今なんて……」
「ロイド…っ、ロイドー!!」
「コレット!!
…っちくしょう、ゼロス…!!」
問い掛けも悲痛な叫びも無視して、ゼロスはプロネーマと一緒に光の中に消えた。勿論コレットも連れて。
残されたのは次々と襲いくる天使たちと、絶望だけ。
「…くそっ、キリがねぇ…!!」
「ロイド、無理するなよ…!」
休んでいる訳にもいかず、起き上がって敵をなぎ倒す。だが皆が必死に戦おうと、それを嘲笑うかのように天使は数を増していく。
急いでゼロス達を追いかけなければいけないのにと、焦りばかりが募る。
「2人とも!!
さっきコレットを連れ去った魔法陣がまだ作動してるわ。
罠かもしれないけれど、あれを利用すれば内部には行けるはず!」
「そうか、じゃあ早くみんなを…」
「あんたら2人で行くんだよ!
この天使の大軍をあたしたちが食い止めてるうちに早く…!」
「そ…っ、そんなこと出来るわけないだろ、こんな状況で皆を残して行くわけには…!!
せめて俺は残って…」
「案ずるな、私たちもあとから追いかける。
…言った筈だ、お前はお前の戦いをしろと。」
「ロイドさん達は…コレットさんを救いに行ってください。」
「そうだよ!
…ミトスも止めなきゃ…!」
「みんな…」
「さあ、行きなさい!!」
天使に対抗する為に背を向けた皆に歯を食いしばって、カーノはロイドの腕を引いて駆け出した。
走るうちにロイドも振り向くことを止めて一目散に先へ進む。きっと大丈夫、きっと皆無事で居てくれるからと己に言い聞かせながら。
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