12.
「さっきは悪かったな。」
「ゼロス!!
戻ってきてくれるのか…!」
上方から降りてきたのはゼロスだった。その表情から敵意は感じず、何より皆が生きてここに居ることが彼が味方であることの何よりの証拠だった。
「ずっとだましてたのは本当だけどな、こっちにも色々事情があってよ。
そこの天使さまと一時的に手を組んだってワケだ。」
ゼロスが親指で後ろを指す。そこにはクラトスが居て、カーノは顔を明るくした。
ただその表情の変化に本人は気付いていないのだが。
「クラトス!」
「神子の要の紋だ、戻してやれ。」
「…わざわざ持ってきてくれたのか?」
しかし何故少し前まで険悪だった2人が手を組んでいるのか、まあ嬉しいことだが。カーノはクラトスの手からロイドが作った首飾りを受けとって、それをコレットにかけようとして、心配そうに少女を支えていたロイドにその役目を譲った。
「…どういうつもりだ…裏切るのかゼロス…!
マナの神子から解放して欲しいんだろ!?」
「あー、それもういいわ。
おまえらを倒しちまえばそんなこと関係なくなるしな。
…俺さまらしくねーけど、今回は分の悪い方につかせてもらうぜ。」
悔しそうに歯ぎしりするミトスの前で、ロイドがコレットの首に要の紋を付ける。コレットへと戻る僅な間にマーテルはミトスに思いを伝えようと口を動かした。
「…さようならミトス、私の最後のお願いです。
このゆがんだ世界を元に戻して……」
「…嫌だ…、嫌だよ姉さま、行かないで…!!」
「……こんなことになるなら、エルフはデリス・カーラーンから離れるべきではなかったのかもしれない……、
そうしたら私たちのような狭間の者は生まれ落ちなかったのに……」
がくん、と崩れ落ちたコレットをロイドが受け止める。コレットからマーテルの魂が光となって離れ、花に還っていく。
リフィルがすぐにコレットの容態を確かめたが、気を失っているだけで他に問題は無いようだった。
「…そうか、そうだったんだ…、
姉さまはこんな薄汚い大地を捨てて、デリス・カーラーンに戻りたかったんだね。
そうだよね…あの星はエルフの地を引く者全てのふるさとだものね。」
「……ミトス、」
「わかったよ姉さま…、
2人で還ろう…デリス・カーラーンへ。」
心ここに在らずといった状態のミトスが優しい表情で両手を広げる。すると花は上昇を始め、地鳴りが起きた。
「何だ!?」
「…しまった、
ロイド!あれが大いなる実りだ。」
「!! あれが…!?」
「あれはマナの源だ、失ってしまえば世界は消滅してしまうぞ…!」
そんな、それではここまでしてきた事が無駄になってしまう。防ぐには…
ミトスを止めるしかない。
「やめろミトス!!」
「…ボクの邪魔をするな!!」
振り返ったミトスが指の先をロイドに向ける。それを突き飛ばして庇ったカーノは爆発に巻き込まれ、空中に投げ出された四肢はそのまま重力に従って落下し―…
2つの腕に掴まれた。
「……え?」
落下の衝撃はほとんど無かったが、両腕を掴まれて妙な体勢になっている。
右を向けばゼロスが、左を向けばクラトスが居た。
「…えっと……、
…あ、ありがとう。」
なんだかよくわからないが、助けてくれたんだろうことは理解して礼を述べる。
だが2人はというと、静かにお互いを睨みあっているだけで、こちらの言葉など聞こえていない様子だった。
「…やっぱそういうことなんじゃねーの。
さんざん言ってたくせになぁ?」
「…ただの条件反射だ。」
「苦しい言い訳だなオイ。」
しかも何やら言葉の往来が始まり、自分は完全に蚊帳の外。なのに腕はがっちりと固定されたまま。
なにやら不穏な空気が流れる2人の間に居たくなくて、脱出するタイミングを見計らう。
「…もう大丈夫だぞ?
そろそろ腕……」
離してくれ。そう言おうとしたのに、何を思ったか反対に2人の力は強くなる。敵前でなぜ味方に捕らえられているのかもわからぬまま、戦いは佳境を迎えていた。
「サンダーブレード!!」
ジーニアスがけん玉を構えて詠唱を終えたところで叫ぶ。ミトスは反射的に振り返ったが、
「……ジーニアス」
それが自分の唯一の友達の声だと気付くと、小さく名を呟いてそのまま光の剣に貫かれた。
体は花弁になり、小さな石だけが床を転がり、ジーニアスの足元に届いた。
それを拾い上げて、ジーニアスは膝を折る。
あの程度の魔術ならば避けられた筈だ、それをあえて避けなかったのは…
(…あいつも、俺たちと変わらない心があったんだろうな。)
自分やロイド達の声は届かなくても、ジーニアスの声は届いた。友達という間柄が演技だったとしても、2人で過ごした時間は変わらない。
大いなる実りは再び地に降り、室内に静けさが戻った。ようやく腕も解放され、ジーニアスの頭をぽんぽんと叩いてからロイド達の元に走る。
「兄貴、さっきは有難うな。
怪我は……」
「大丈夫、皆は?」
「なんとかね。
これで全部終わった…のかい?」
「いや…まだエターナルソードが、」
「それならこれを使え。」
ゼロスが小さな宝石の原石のような、紅く煌めく石を皆に見せる。
「それ…アイオニトスか?」
「御名答、こいつをドワーフの技術で精製すんだ。
そしたら人間でもエターナルソードを使えるようになるらしいぜ。」
こうでもしねーと手に入りそうもなかったんでな、と言ってもう一度詫びを入れ、ロイドに手渡す。
「にしても、なんでカーノは知ってんだ?」
「昔見たことあったからな。
…裏切ったように見せたのはこれのためか?」
「…これくらいやんねーと許されないだろ?
あとでお詫びに回復してやるからよ。」
「…まあその件はあとで一発殴るとして。
これでエターナルソードが使える…、
あと少しで世界が統合されるんだ…!!」
ロイドが石を握りしめて意気込む、だがそれをクラトスが冷たく制する。
「それはどうかな。
オリジンの封印はまだ解かれていない、大樹の発芽もまだだ。
それなのに何が“あと少し”なのだ?」
「クラトス…!」
「オリジンの封印を解きたければ私を倒すがいい。
封印はヘイムダールの奥深く…トレントの森にある。」
忘れていたことを思い出して、緩やかに流れていた血液が凍る錯覚に陥る。
「クラトス!待てよ…!!
俺たちを助けてくれたのは…」
「…これ以上話すことなどない。
オリジンの封印の前で待っている。」
「クラトス…!」
ロイドがいくら呼んでも、クラトスは振り向かなかった。小さくなる背中を見ながらカーノは力無く呟く。
「…なんでだよ、戻ってきてくれるんじゃ……」
庇ってくれたのに、クルシスの目を盗んでまでコレットの要の紋を持ってきてくれたのに。ミトスが居なくなった今、もう何も壁はない筈なのに。
引き留めたくて伸ばした手は、虚しく空を切っただけだった。
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