12.

「…そうか、 …あのミトスが、ユグドラシルさまだったなんてな…。」 一行はアルテスタの家に戻り、床に伏せるアルテスタにあった事を洗いざらい話した。 傷だらけのタバサは隣のベッドに載せられたまま、身動き1つしない。 それもそのはず、タバサはアルテスタの作った機械人形だったらしい。だからあれだけ酷い怪我をしていても血の一滴も出なかったのだ。 生身の人間ならば助からなかっただろう、頑丈な体で良かった、と言うのはおかしいかもしれないが、タバサがまだ助かる可能性があるということは素直に喜びたい。 「待ちなさいロイド!どこへ行くの!」 「…トレントの森に…」 「今から行くの!?」 そうしてコレットやプレセアがアルテスタ達を気遣う一方、ドアの前に立つロイドにリフィルが気付き止める。 「落ち着きなさいロイド、今日はここで休みましょう。」 「でも!」 「…確かにリフィルのいうとおりだな。 ロイド、焦るな。」 「クラトスとの戦いが世界の命運を握っているのよ。 トレントの森へは明日行く、いいわね?」 納得はしていない様だが、渋々それを受け入れてロイドはドアから手を離した。皆急ぐ気持ちは同じ、でも疲れが溜まっているのも同じだった。 相手の力量をわかっている分、慎重に事を運ばなければいけない。失敗は許されないのだから。 それはロイドにも分かっていることで、それでも気持ちが早ってしまうのを抑えられなかった。 ロイドは夕食を運び出す皆に混じって、ダイニングテーブルに座るカーノを見た。 一番クラトスを追いかけたい筈のカーノが帰ってきてから何一つ、そのことに対して触れてこない。 気にしていない、という訳ではないというのはその表情を見ればわかるのに、何も言わないし自分の様に抜け出す素振りも見せない。 それを不思議に思いながら、ロイドも並べられた食事の前に座った。 時計の針が3時を回り、皆が寝静まった頃、キィ、と扉の軋む音が鳴った。 明かりのない土地では星が多く見え、その中で一際輝く月明かりを頼りに夜道に出た。 「…やはりな。」 「!!」 誰も居ない筈の森の入り口で声がして、その出所から瞬時に距離を取る。 「皆の前で勝手な行動をとれば止められる、ならば誰にも見つからない夜更けに出れば上手く抜け出せる筈。 …違うか?」 木の幹に寄りかかっていた男は、そこから動こうとはしなかった。 だが無視して進もうとすれば遮られるだろう、仕方なく体をそちらに向ける。 「…やっぱり年長者は抜かりないな、リーガル。」 注意が足りなかったなぁと、カーノは残念そうに微笑した。 「お前が考えた末に決めたことならば私も止めはしない。 だがお前が1人で黙って先に行けば、皆心配するぞ。」 「…だろうな、迷惑かけてるってことは分かってるんだ。 でも明日になったらもう迷ってる暇なんてないだろ、その前に俺はもう一回、あいつとちゃんと話がしたいんだ。」 「…昼の態度を見るに、きちんと話し合いが出来るとは思えんが?」 これ以上話すことはないと、そう言ってクラトスは去っていった。 確かに自分が何を言っても聞いてはくれないかもしれないが、 「このままクラトスとロイドが戦うのは納得出来ない。 親子で傷つけ合うなんて…」 「…ロイドも何も殺すつもりではないだろう。 あの男もそうではないのか?」 「それは……」 「2人のことが心配だということも確かに気がかりではあるだろう。 …だかそれよりも私には、お前の行動にもっと別の理由がある様に思えるのだが。」 そう言われた途端、カーノは気まずそうに目を背けた。自分の予想は当あらずとも遠からずかもしれないと更に続ける。 「…お前は女性と接していると顔が赤くなる体質だと聞いたが、私はそれを見たことがない。 赤面性というのは、自分にとって大事な者や、影響力の強いものに対して表れるらしい。つまりお前が女性に対して顔を赤くしてしまっていたのは、女性という存在がお前にとって何らかの影響を及ぼしていたからだと考えていいだろう。」 いきなり話が転換したことにきょとんとしながらも、カーノは黙って聞く。 「だがそれが最近見られないということは、それが薄れてきているということだ。女性と接する機会が減った訳でもないのに、だ。 …ここからは私の仮定だが、お前は女性に対して赤面していたわけではなく、女性を通して誰か大事な者を思い出していたのではないか? そしてそれが緩和されてきたということは、時間が経ったことで記憶が薄れたか、或いは…… …それ以上に大事な者が出来たか。」 大事な者、大事な人。 自分にとって大事な女性と言われて、一番最初に出てきたのはアンナさんだった。確かに自分がこんな体質になったのは彼女と会ってからかもしれない。 ならリーガルの言っていることは正しいのか、ということは、彼が言った最近その症状が改善されてきている理由も、その通りなのだろうか。 時間が経って薄れた?それもきっとある。昔に比べれば彼女のことを思い出すことも少なくなった。 なら彼女以上に大事な者が出来たというのはどうだろう?ロイドか、ジーニアスか、コレットちゃんか、リフィルさんか。 本当は、考えなくてもわかっていた。 「……認めるのが怖いんだ、それを。 だから、確かめたくて。」 どうやって確かめるのかなんて考えては居ないが、話せば何かわかるかもしれない、会えば何か変わるかもしれない。 この気持ちが何なのかわからないままで居るのは嫌だった。 「…皆が起きる前には戻ってくるのだぞ。」 「! いいのか?」 「怪我も無理もしないと約束出来るのならばな。」 「…わかった、約束する。」 リーガルはどこから持ってきたのか、小さな懐中電灯を渡して家に戻っていった。気の利く相手に感謝しつつ、カーノは暗い林道をライトで照らして走り出した。
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