12.
「……落ち着いたか?」
ずっとクラトスから離れようとしないカーノに、ユアンが呆れたように、どこか安心したように尋ねる。
カーノは何も言わず、頭を一度だけ縦に揺らした。
「…最近になって思い出したことだが、お前とは昔会ったことがあったな。
お前は覚えていないかもしれないが。」
どこで、と目で聞くと、ユアンはアスカードのある方角を見た。
「…私も昔はあの辺りに居たからな。
だからといって何があるわけでもないが…、
まさかこうして再び会うことになるとは、縁とは恐ろしいものだな。」
ユアンは少し離れた場所に移動し、オリジンと契約すべく説得を開始したロイド達に視線を固定した。
言われてみればユアンのような人間も居たような気はするなと思いながら、カーノはクラトスの髪に顔を埋めるように頭を垂れた。
「…思慮の足らぬ発言だったな、すまない。」
クラトスの声が鼓膜を震わせて、それが嬉しくてまた視界が滲む。
「…二度と言うなよ。」
死にたいと、いつか自分も思っていた。
でも途中で気づいた、自分が愛した女性は、生きたくても生きられなかったということに。
「あんたが死んだら…ロイド達が悲しむだろ…。」
「…何だ、それだけか?」
カーノは抱き締めている腕の力を強くして、馬鹿野郎、と呟いた。
「…あんたが死んだら、俺も死ぬからな。」
「…笑えない冗談だな。」
「…じゃあ、頑張って生きてくれよ。」
片や傷だらけで、片や泣き顔で、顔を見合わせて微笑む2人。
それを遠巻きに見ていた赤髪の神子は、やれやれと目を閉じた。
「…俺さまの入る隙はねーってか。」
「? 何か言ったかい?」
「べっつにー?
ほら、お前は契約に集中しとけって。」
あそこまでされては流石に文句も何もない、完全に完敗だ。
つまんねーなぁと愚痴りながら、ゼロスは転がっていた小石を蹴った。
「…契約者しいなの誓いはただ一つ。
自分が自分らしく生きられる世界を、誰かが無意味な死の犠牲にならない世界を取り戻す!
…それだけだ!」
しいなが誓いをたてて、オリジンとの契約は成立した。
契約の証であるダイヤモンドがしいなの手に渡り、掌で煌々と光る。
「…あれでエターナルソードが使える、のか?」
「いや…恐らくあのままでは、ミトスとの契約のままエルフの血を引くものにしか使えないだろう。
だがロイド自身の力で使いこなせることが出来れば、新たな理をひくことも出来るかもしれん。」
肩を貸してクラトスを助け起こし、また1つ山を越えたロイド達の元へ歩み寄る。他の仲間たちもまた、久しぶりに両手離しでその成果を喜び駆け寄った。
「やったねロイド!
これでようやくエターナルソードが…」
中でも喜色を滲ませていたジーニアスが親友を激励しようとした、その時だった。
「え…?」
ジーニアスの胸元から、光が弧を描いてカーノに飛び移った。
心臓が一度大きく脈打ち、胸が締め付けられているように息が詰まって呼吸が薄くなる。
「どうした!?」
「…っ、な…ん……」
苦しさにうずくまり、事態の把握に努めるが、今度は体が上手く動かなくなり、視界が黒ずんでいく。
「一体なんなのさ!?」
「…いけない!
ミトスよ!無機生命体となって輝石に宿り生きていたんだわ!」
リフィルの声が遠い、すぐ近くにいる筈のクラトスの手を掴み損ねて、カーノは目を閉じた。
「ミトス…生きてた…!?」
「彼はもう自分の体でなくても生きていけるのよ!?
このままでは輝石を介してカーノの体が乗っ取られてしまう!!」
《もう遅いよ。》
そして次に目を開いた時には、その体の主導権はミトスに移っていた。
カーノらしからぬ不敵な笑みを形作り、青くなる面々の前で嬉しそうに体を動かす。
《輝石さえ取り返せればこの体はもういらないと思ってたけど…、
処分しなくて正解だったかな。》
「カーノ…そんな…」
「ふざけるな!!
兄貴を返せ…!」
《…へぇ、嘘だって知ってもまだ兄貴って呼んでるんだ?》
カーノが、正しくはミトスが、人差し指を左から右に払う。
それだけで、横一列に並んでいたロイド達は数メートル先まで吹き飛ばされた。
何をされたのかもわからないまま、ただ圧倒的な力の差を体感して身震いする。
そこに立っているのは、いつも自分たちを護ってくれていた心優しい青年の筈なのに。
「おいおいマジかよ…、
カーノってこんなに強かったか…?」
《これは数ある培養体の中でもかなり希少な完成品だからね。
…まだまだこんなものじゃないよ。》
ミトスが後ろ首にはめられたエクスフィアに手を翳すと、背から白い両翼が広がった。
クラトスやコレットのものとは違う、鳥のような立派な翼。
「…成る程、私達の前では力を抑制していたのだな。
それを隠すために。」
「…どういうことだ?」
「あれは力を使うことで、翼が視認出来るようになるということだろう。」
《ほぼ正解、力を最大限引き出すにはこの姿にならなくちゃいけないからね。》
その姿はとても綺麗で、だがその分“人間らしく”はなかった。
コレットが天使化を恐れていたように、カーノも翼を出すことで人と違うように思われるのを恐れたのかもしれない。それを聞くことも今は出来ないが。
《この体は貰っていくよ、元々僕のモノだ。》
「…それは違う、その体はカーノのものだ。
…返して貰おうか。」
《…なんでそんなに怒ってるの、クラトス?
この男はアンナに……》
「アンナは関係ない、私にそいつが必要だから言っているのだ。
…私だけではないがな。」
ロイドも、ゼロスも、リフィルも、カーノを特別ではなくても大事に思っているコレット達も、皆が武器を構え怒りを顕にしていた。
《…わからないよ、こんな薄汚い男にどうしてそこまで怒れるの。》
「カーノさんをそんな風に言わないで!!」
「ミトスお願いだよ…カーノを返して…!!」
《なら誰かが代わりにでもなるの?
…何も出来ないくせに。
ボクはこの汚らわしい世界から出ていくんだ…!!》
ズン、と地響きがして、大地が大きく揺れる。
震える視界の中で、救いのと塔が崩れていくのが見えた。
「!! 待て!」
安定しない足場の上を必死に走ってクラトスが伸ばした手はカーノに届かず、相手は崩壊する塔の瓦礫の合間を光となって昇っていった。
その後ろに見えた禍々しい惑星は、皆に不安と恐怖を植え付けていた。
「カーノ…!!」
それはまるで、世界の終焉のように。
It continues to
next time...
あとがき→
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