13.

「これがエターナルリング…、 親父!ありがとう!」 手でつまんだ小さな、しかし精巧な作りの指輪が、窓から差し込む光を反射してキラキラと輝く。 兄を、そして世界を救うための鍵となるそれを、ロイドは強く握り締めた。 「なぁに、いいってことよ。 それでロイド、ついでにこれを持っていけ。」 大した仕事だったろうに疲労をおくびにも出さず、ダイクは机の上にもう1つのプレゼントを置いた。 「これは?」 「ヴォーバルソード。 ダイクさま生涯最高傑作の剣だ。 聞けばおめえ、剣が片方折れたっていうじゃねぇか。」 クラトスと戦った際に中身を失い、空いたままだった右腰の鞘を見て、すっかり忘れていたらしいロイドが苦笑する。 「ならばロイド、フランヴェルジュも持って行くといい。」 そう言ってクラトスが隣に並べるように置いたものもまた立派な剣だった。刀身が透き通っているそれら2つを掲げて、その重さと美しさに顔を綻ばせる。 「…すげえ…、ありがとう親父!クラトス!」 「…それを使って、ミトスを止めてくれ…」 「ああ!」 剣と共に託された意思をしっかりと受け取って、ロイドはすっかり様になったリーダーとしての号令をかけた。 「行くぜみんな!」 誰も何も言わずとも、歩き出したロイドの後に続いた。その光景は皆にとっては見慣れたものだったが、これが当たり前になるまでの経緯を知らないダイクは、立派になった息子の背中を誇らしげに見送った。 「あれ?クラトスさんは…」 レアバードに跨がり、機体が宙に浮いたところで、いつもと違う部分に気がついたコレットは、不思議そうに辺りをキョロキョロと見渡す。 「さあな、来ねーんじゃねーの?」 「ロイドと戦った時の怪我があるもんね…、 来たくても来れないんじゃないかな。」 「あ、そっか…、そうだね。 でも……」 物言いたげなコレットの頭を、ロイドがぽんぽんと叩く。顔を上げたコレットに、ニカッと歯を見せた。 「大丈夫だって!クラトスが居なくても、俺達ならきっとやれる! いや、やらなきゃいけないんだ! クラトスだけじゃない、来れなかった皆の分まで…、」 ロイドの言いたいことが分かって、コレットは微笑んだ。それが自分の案じていたこととはまた違うことに対しての励ましだったとしても、返す言葉は1つだ。 「うん、頑張ろうね!」 彼を一番助けたがっているロイドの父の為にも、自分の為にも、必ず取り戻してみせる。そう心の中で付け足して、コレットは仲間と共に空へと飛び立った。 「お前さんは行かなくていいのか?」 一方で、皆の無事を祈りながら待つという選択をしたダイクは、同じ選択をしたらしい男に声をかけた。 「…少し、尋ねたいことがある。」 男はそれに答えはせず、代わりにいつも隣にいた青年にしていたのと同じように、質問に質問を返した。 「…カーノのことか?」 ダイクはその内容を聞く前に言い当てて、驚いた顔のクラトスに席を薦めた。 「…何故そうだと?」 「昨日今日会った俺に聞きたいことっていやぁ、ロイドのことかカーノのことしかねぇだろう? 特におまえさんは、カーノと色々縁が深いって聞いたもんでな。」 誰から、などと野暮な質問はせずとも分かる。ダイクにそんな話をしそうな人物と言えば1人しか居ない。 「ロイドも昨日同じように、カーノのことをあれこれ聞いてきてな。 その時に、おまえさんとカーノの話も聞いたよ。…ロイドの母親とのこともな。」 「…ロイドが貴方にどう話したかは知らぬが、私はカーノとそれほど繋がりが深い訳ではない。 あれについて知っていることも僅かだ。」 「そうかい、まぁ俺もほとんど知らねぇんだがな。 あいつが自分のことを話したがらなかったもんだからよ。」 まぁゆっくり話そうじゃねぇかと言って、ダイクは一度二階に消える。しばらくして戻ってきたその手には、小さなアルバムが握られていた。 「これは…」 「落ち着いて見る機会もないと思ってたが、思い出は取っとくもんだな。 こいつはまだロイドが6歳くらいの時だ。」 古く変色してしまったその写真、写っていたのは今とあまり変わりないダイクと、幼いロイドとカーノだった。 「今でこそあんなだが、最初はそりゃあ酷くてな。 ロイドは毎日泣かされてやがった。」 当時の苦労も今となっては笑い話なのか、ダイクが笑いながら指差したのは、追い縋るロイドを容赦なくはね除けるカーノの姿が写った一枚だった。成る程確かに、今の2人からは想像も出来ない光景だ。 「まあ無理もねぇとも思ったけどな。 カーノだってこの頃はまだ若かったんだ、親に甘えたい盛りが見ず知らずの子供のお守りなんざ、なかなか出来ることじゃねぇ。」 「…貴方はいつ気付いたのだ? カーノがロイドの兄では無いと。」 「一緒に住んでりゃガキの嘘なんざ簡単にバレるってもんだ。 あいつはビビってたんだよ、ロイドの世話をするのが面倒ってよりも、ありゃあ怖がってるように見えた。」 抱き上げるのも、外に連れていくのも、ただ触れるだけにも。自分よりもずっと小さく頼りないその身体を、壊してしまうのではないか。 「そうやって距離を取ることで、ロイドも自分も護ろうとしてたんだろうなぁ。血の繋がった弟にそんな態度は取るめぇよ。 とは言っても、分かったのはそれだけが原因じゃあなかったんだがな。」 「?」 「ロイドが初めてカーノの顔見た時にな、言ったんだよ。 “このひとだれ?”ってな。」 子供の素直さというのは時に恐ろしいなと、その時のカーノの反応を想像して微笑する。 「最初は錯乱してるだけかとも思ったが、何日経っても同じことしか言いやがらねぇもんで、流石に気付いた。 それでもカーノは“自分は兄だ”って必死に言い張るもんだからよ、ロイドには悪いがそういうことにさせて貰った。 なんでそこまでしてロイドの兄になりたがってたのかは俺ぁ知らねえが、おまえさんは知っとる様だな?」 「…聞いたのはつい最近だがな。」 「そうやって人に話せるぐらいには成長したって事か。 或いは…おまえさんだけには、だな。」 「私はそこまで傲るつもりはない。 あれが私に話したのも、ただ歳が近いからだとか、ロイドの父だからだとか、そんな理由だろう。」 「そうかい、 ま、そのへんは本人にしか分からんがな。 ただ俺から1つ言わせて貰うと、カーノに一番必要なのは、おまえさんみたいな奴ってことだ。 あいつは甘やかすのは得意だが、自分が甘えるのはてんで駄目だ。何でも1人でやろうとしちまう。」 それは旅の中で充分わかっていたことだった。そんな風になったのも、そうならざるを得ない状況の中で育ってきたからなのだろう。 「あいつが言わなくても、痛いも辛いも苦しいも気づいてやれる奴が側に居てやらねぇと、放っといたらいつか起き上がれなくなるぐらいボロボロになっちまう。 カーノに一番近いのはロイドだが、まぁあいつにゃその役目は無理だ。思いやりは申し分ねぇが、ちと鈍感だからな。 そんな大業が出来るとすれば、そりゃおまえさんだけだろうよ。」 選ぶのはおまえさんだがなと言って、ダイクは席を立った。こちらが聞きたいことは全て話し終えたということなのだろう。同じようにクラトスも立ち上がった。 「ダイク殿、 ……感謝する。」 「なぁに、礼を言われるようなことじゃねぇさ。 こんな昔話、他じゃ言えねぇからな。」 「それもあるのだが、その、 …ロイドの事も。」 言わんとしていることが伝わったのか、ダイクは大口を開けて笑った。 「それこそ、礼を言われるようなことじゃねぇさ。」 ロイドを見つけてくれたのがこの男でよかったと、クラトスは深く頭を下げた。
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