ダイクと別れ外に出ると、レアバードに腰かけていたユアンが顔をあげた。 「行くんだな。」 最初からそれが分かっていたかのように全ての準備を完了させていた旧友に、流石だなと思いながら頷く。 「…ああ。」 ユアンは何も言わず、荷物の中から剣を取り出してクラトスに投げ渡した。 「いくらお前でも、丸腰で進めるような場所ではないぞ。 それからこれは、」 こちらが礼を言う間もなくまた荷物を漁って、今度は小さな石のようなものを渡される。 「テセアラの神子からだ。塔の内部の装置を動かすのに必要になると言っていた。」 それは神子の宝珠だった。これをユアンに渡していたということは、彼も自分がこうすることを予想していたのだろうか。 「神子には行くことを伝えていたのか?」 「いや、…寧ろ来なくていいと言われたのだがな。」 「何だそれは。」 やっていることと言っていることが矛盾しているではないかと指摘するユアンに、ゼロスが何を思ってこれを預けたのかを少し考えてみたが、どうせ推測にしかならないのだから止めておこうと石を大事に懐にしまった。 「では行くぞ。 …ミトスは我々が止めなければな。」 ミトスがああなってしまったのには自分にも責任があるのだと、2人は思っていた。そして過去の過ちに気付いた今出来ることは1つだ。 「そうだな、 助けよう、必ず。」 ミトスともう1人救うべき人物を思い浮かべて、2機は塔へと飛び立った。 「この扉、どうやって開けるんだ?」 クラトス達が出発した頃、救いの塔からデリス・カーラーンへと転移したロイド達は、入り口で早速足を止められてしまっていた。 「台座があるわね。 救いの塔と同じ造りなのではなくて?」 「なら、宝珠で開くんじゃないの?」 皆がゼロスの方を向くと、当人は視線を反らして頭を掻いた。 「あー、わり、持ってくんの忘れてたわ。」 「はぁ!?」 「だぁいじょうぶだって、宝珠ならコレットちゃんのがあるだろ?」 「あ、そっか。 でも私ので開くかなぁ?」 コレットが不安そうに宝珠を取り出して翳すと、 扉が軋みながら開いた。 「ほら、問題なかっただろ?」 「全く、コレットが持ってなかったらどうするつもりだったんだい?」 「そん時はロイド君が扉をブッ壊してくれる予定で…」 「そんな約束してねーだろ!」 静かすぎる空間に不似合いな賑やかな声が、扉をくぐって中に入る。今までとは桁が違う強さの敵も皆で協力して倒しながら更に奥へと進むと、ある地点で突然辺りが闇に包まれた。 「な…っ、何だこりゃ!?」 《お兄さま…、》 慌てふためくゼロスに、背後から声がかかった。ここに居る誰でもない、少女の声。 《バカな人…、かわいそうに。 神子にふさわしくない者が神子になどなってしまうから、仲間を裏切るようなろくでなしになるのですわね。》 「な…っ、ん、 …セレス…、」 「ゼロス…?」 たじろくゼロスをロイドは不思議そうに見た。ロイドの目に少女の姿は見えていない。 《リフィル…エルフの血を半分しか受け継がなかった汚れた子供…》 「お…お母さま…っ」 《これだからハーフエルフは愚かだというのだ》 「村長…どうしてここに、」 《しいな…ミズホの民を不幸にする疫病神め》 「おじいちゃん…」 《どうして私を助けてくれなかったの、二人とも…》 「そんな…アリシアは死んだはず…」 「幻か…!?」 ゼロスに続いて、それぞれが皆目の前に居る者に動揺し困惑する。 ただ1人、状況が把握できていないロイドにエターナルソードが教えた。 《幻覚だ。 契約者であるおまえは守れたが、他の者はミトスの幻覚にとらわれてしまった。》 「幻覚…!?」 苦しそうに何かから逃げようとする皆をどうする事も出来ず、更には上空から天使までやって来る。 「どうすればいいんだ…!! みんな!!しっかりしてくれ…!!」 自分に幻覚が見えていないように、今の皆には現実が見えていない。敵を1人で捌くのにも限界があった。おまけに皆を護りながらなど長くもつ筈もない。 万事休すかと思われたその時、ゼロス達をとらえていた暗闇に亀裂が走った。 そこから崩れるようにして、幻が消えていく。 「この部屋にはミトスが結界を張っている。 …このエンブレムがなくては回避出来ないのだ。」 何が起こったのかもわからず混乱する皆よりも先に、ロイドは現状を打破してくれた者が誰なのかに気付いた。 「間に合ったようだな。」 「クラトス!それに…ユアン! な…何でここに、」 「…おまえ一人に私の責任まで背負わすな、と言われてな。それでようやく決心がついた。 …私も共に戦わせてくれ。」 「クラトス…!」 願ってもない申し出に、ロイドは全力で頷く。 数多の天使はユアンが全て迎撃していた。 「クラトス!ロイド!ここは私が引き受ける。 先へ行き早くミトスを!」 1人で何とか出来る数なのか不安だったが、ユアンと直にやり合ったことのないロイド達はその腕を信じることにした。ユアンとて2000年前の戦士なのだ、すぐに倒れるほど柔くはないだろう。 礼を述べて駆け出すロイド達。先頭はロイドに任せ、殿を務めるために最後尾を走るクラトスに、ゼロスが速度を落として隣に並んだ。 「俺さまのプレゼントは無駄になんなかったみてーだな。」 「ああ、助かった。」 宝珠を手渡して素直に礼を言うクラトスに、ゼロスが苦い顔をする。 「んで?来たのはロイド君の為か? 俺さまの話、忘れた訳じゃねーよなぁ?」 ゼロスが言っているのは昨晩のことだった。 ダイクが指輪を作る間、アンナの墓石に語りかけていた時に話された。 明日どうするのか、ミトスと戦えるのか、ゼロスが聞いてきたのはそんなことだった。自分は直ぐに是とは答えられなかったが、出した結果は今の自分を見れば分かってくれるだろう。 きっと彼が聞いているのはそのことではないとクラトスには理解出来た。もう1つだけ、ゼロスに問われていたことがある。 『カーノくんがあんたの一番じゃねーってんなら、明日は来なくていいぜ。俺さまが助ける。 中途半端は終わりにしようや。』 口調こそふざけてはいたものの、あの時の目は真剣そのものだった。彼がカーノをどう思っているのかが分からぬほど鈍くはない、その問いの意味も。 「来たってことは、それも“そういうこと”でいいんだろうな? 本気ならハッキリ言えよ。俺さまだって、そんな覚悟もねー奴に黙って引き下がる訳にもいかねーからな。」 ミトスの下へ向かう足は止めることはなく、一心不乱に走る皆の知らぬところで、クラトスはゼロスにだけその本心を伝えた。 それはたった一言だったが、それだけでもゼロスにはその気持ちは伝わった様だ。目を伏せ薄く笑って、クラトスの肩を叩くと速度を上げてロイドの後ろに並んだ。 彼も軽い気持ちで言っていたのではないと、クラトスには十分伝わっていた。少し申し訳なく思いながら、しかし譲るつもりはないその想いを本人に話す為にも、クラトスはロイド達と共に最後の扉の中に飛び込んだ。
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