「お疲れ様、ロイド。」
日が落ち、ダイクの家に戻って来たロイドとカーノは、机を挟み向かい合って座っていた。
カーノはコップにお茶をそそぎ、自分とロイドの前に置く。
「なんか久しぶりだな、こうしてお前と2人だけっていうのも。」
大樹が無事に発芽し、世界の統合が成し遂げられた今、皆は一度それぞれの故郷に帰っていた。
ゼロスは家に、しいなは里に、プレセアは墓参りにとリーガルの屋敷に行くと言っていた。セイジ姉弟も、一度村に戻ってみると話していた、ヘイムダールにも寄るらしい。
クラトスは何も言わず、ユアンと共にどこかへ消えてしまったが、だからと言ってもう不安に感じることもなかった。
「長かったような、短かったような…」
「色々あったよな。
でも…」
「楽しかったか?」
ロイドが頷き、カーノもこれまでの旅を思い返して微笑む。
「楽しいことばかりじゃなかったけど、俺、やっぱり旅に出てよかったって、そう思うよ。」
「そっか、俺も、最初はどうなるかと思ったけど…、今は後悔してない。」
もしもあの時、ロイドが素直に俺の言うことを聞いていたら、テセアラのことも、神子のことも、自分のことも、何も知らないままだったんだろう。
皆にも出会えないままだった、プレセアにも、リーガルにも、しいなにも、クラトスにも。
「世界も救えたしな!
やることはまだいっぱいあるけど…」
「まあそんな急がなくても、ゆっくりやって行けばいいさ。
お前もちょっとは休めよ?」
「…なんか変わったよな、兄貴。」
唐突にそう言われて、いきなりどうしたんだと笑う。
「前はなんかこう、急いでるっていうか、焦ってるっていうか…」
そんな自覚はなかったが、気が急いていたのは確かにそうかもしれない。何かに追われている感覚がずっと離れなかった。
「変わったんだよ、俺も。」
「も?」
「こっちの話。」
「? あ、そういえば、兄貴はこれからどうするんだ?」
やるべき事は果たした、ロイドのことも、もう側に居る必要もないだろう。
だから自由にしていいのだと言われ、しかしそれはそれでカーノは困ってしまった。
今まで自分の選択の基準はロイドだった。ロイドが右に行くなら右へ、左なら左へ。それが当たり前になっていたし、不自由だとも思わなかった。
考えてみれば自分の意思で先の行動を決めたことなどほとんどなかったのではないだろうか?いつも誰かの後ろを追いかけていただけだったのではないか。
その証拠に前に誰も居なくなった今、進むべき道に迷っている。
「まあ、それこそゆっくり決めればいいよな!」
難しい顔をして黙してしまった自分を気遣うように笑ったロイドに、気持ちが少し軽くなった。
「あ、そういや俺クラトスに呼ばれてたんだった。」
「そうなのか?
なら早く行ってこい。」
「兄貴は?」
ついて来ないのかという意図が含まれた問いに、カーノはここでついて行けばずっとロイドに依存したままになると思い首を振った。
「せっかく時間が出来た訳だし、アスカードに行ってくる。」
「アスカード?何で…」
何でまたそんなところに、と続く筈だった言葉は、ロイド自身が途中で気付いたけとにより発せられることはなかった。
「…わかった、じゃあまた後でな!」
1人先に行くロイドを見送るというのも新鮮だなと思いながら、カーノは同じ扉をくぐってロイドが向かったのと逆の方へ歩き出した。
アスカードは大樹が芽生えて以来、少しずつ人も増えてきていた。皆ディザイアン達が消えたことや世界の危機を免れたことで安心して出歩けるようになったのだろう。
丘に続く坂道の途中にある墓場の前に膝をつき、並べられた質素な墓前に祈りを捧げる。見れば自分の家族の墓に綺麗な生花が供えられていた。
誰だろう?親族は自分以外もう生きてはいないし、親の知人か誰かだろうか。それに妹のものにだけ花が置かれていないのも気になる。
まぁいいかと自らが買ってきた花もそれぞれに供えて、もう一度手を合わせた。
「…家族の墓か?」
背後からかかった声に、あれ?と思って振り返る。
「ロイドと話があったんじゃないのか?」
「それはもう済んだ。」
クラトスが隣に屈んで黙祷し、カーノはその姿に礼を言う。
自分の家族に祈ってくれる人が出来るとは、少し前までは思ってもいなかったのに。
「ホント、変わったなぁ…」
「何がだ?」
「色々。」
今までのように墓を見て心が酷く痛むことは無かったが、家族が生きていればクラトス達の事をたくさん話すことが出来たのにと思うと、やはり残念ではあった。
「…お前にも、話しておくべきなのだろうな。」
「ん?何だ?」
感傷に浸っているとクラトスはいきなり立ち上がって、真剣な面持ちで告げた。
「私は、デリス・カーラーンに残る。」
一瞬、何を言われたのか、受け止めることが出来なかった。
花を弄っていた手が止まる。
「…なんで、そんな…、
ミトスは倒した、大樹も目覚めた、もうあっちに居る必要はないだろ!?」
「それで全てが解決した訳ではない。
世界にはまだエクスフィアも残っている、ロイドはそれらを回収するつもりらしい。
私はそれをデリス・カーラーンから宇宙に流す。」
「そんなのアンタじゃなくても…、」
「クルシスの人間が居ては、民を不安にさせかねないだろう。」
「でもデリス・カーラーンに行くってことは…!」
デリス・カーラーンに行くにはロイドに送ってもらう必要がある、それは地上に帰る時も同じ。
そこに1人で行くということは、
「…帰ってこれないってことだろ……!」
せっかく平和になったのに、やっと一緒に居られると思ったのに。
もう二度と会えなくなるなんて、そんなのは嫌だ。
「これが私に出来る最後の償いなのだ、許してくれ。」
「なら俺も…っ」
「お前には、お前のやるべき事があるだろう。」
「ロイドのことなら、もう大丈夫だってアンタも分かるだろ?
頼むから、もう…、
もう、大事な人と離れるのは嫌なんだ……」
服にすがりつくカーノの頭を、クラトスが慈しむように撫でる。
「それは私も同じだ。
だがそれでは果たせぬこともある。私にも、お前にも、護りたいものはあるだろう?
私はお前のいるこの世界を護りたいのだ。」
頬に触れる手が温かくて、優しくて、すぐ側で微笑むクラトスの顔にどうしようもなく泣きたくなった。
それを堪えて、きつく口を結ぶ。
「離れていても、私はお前のことを想っている。」
「…忘れたりしないだろうな。」
「約束しよう。」
「勝手に死んだりしないだろうな。」
「それはこちらの台詞だ、あまり無茶はしてくれるな。
それからお前はもう少し警戒心というものを持った方がいい。」
「クラトス、」
「何だ?」
ぐいっと胸ぐらを引き寄せて、その頬に浅く口付けを落とす。
「…愛してる」
いきなりのことに目を丸くしていたクラトスは、自分でやっておいて赤面しながらそっぽを向くカーノに笑ってから、その顔を無理矢理こちらに向かせた。
「…私もだ。」
さっきの応えだとでも言うように、愛しき人の肩を抱いて唇を重ね合わせる。
例えすぐに消えてしまう温もりだとしても、ずっと覚えていられるようにと、2人は目を閉じた。
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