02.前世に縁りて集う

「それで結局、さっきのは何だったのかな」

憂いの森を抜け、コンウェイを加えた五人と一匹になった一行は、予定通り聖女アンジュの連れ去られたナーオス基地へと向かっていた。

皆同じ事が気になっていたようで、興味津々といった様子で、質問者であるヴィスと共にコンウェイを見る。

「さっきの、じゃ候補が多すぎてどれの事か分からないな」

「君が説明すべきだと思うことを話してくれればいいよ。どうせ言えないこともあるんだろうし」

「お気遣いどうも。そうだな……、さっきの森についての簡単な説明なら出来るよ。といっても、あの森に焦点を当てた話ではなく、ああいった場所について、の説明になるけれど」

「あん? どういう事だよ」

「あの森そのものに関しては、キミ達の方が詳しいと思うんだ。けれど今キミ達が聞きたがって居るのは、あの異質な雰囲気についてだろう? だから、それについて話すよ。──まず、この世にはあちこちに境界線のような場所があるんだけど、そこには歪みが発生し易いんだ」

「境界線? 俺はそんな話聞いたこと無いけど。ルカくん達は知ってる?」

「ううん、今初めて聞いたよ」

「あたしも。聞いたこと無いわ」

「ボクの話が信じられないって言うんなら、説明はここで終わりにするけど?」

「話半分に聞くからいいよ、続けて」

「ああそう……」

説明を要求しておきながらその態度はどうなのか。
ルカ達には親切にしているヴィスからぞんざいな扱いを受けるコンウェイは顔を引き攣らせた。

だが今ここで彼と諍いを起こして、ルカ達に同行を拒絶されるのは困る。
故に多少の不満には耐えるしかない。

「……まあいいけど。それで、そういった歪みに近づいた人は、そのまま姿を消すこともあるんだ。中でも子供が姿を消す場合は、神隠しと呼んでるみたいだね」

「ああ、神隠しの話ならオレも知ってるぜ。小さい頃、じぃによく聞かされたよ。昔は天が子供を呼び寄せることがあったんだってな。で、その子が良い子なら天上界に連れてって貰えるんだけど、悪い子だと死神に魂ごと食われるんだってよ」

「食われるって、ヒュプノスくん達はそんな事はしないと思うけどなあ〜」

「いや、別に実際の死神の話って訳じゃねーだろ、多分。悪さする子供を躾ける為の方便みてーなもんじゃねぇ?」

「へぇ、そんな風にも言われてるんだ。──まあとにかく、歪みの周辺はそういった事が起こり易いんだよ。危険な場所だって事だけ理解していればいいと思うよ」

「まあ、あの魔物もヤバかったもんね」

「境界線があちこちにあるって事は、さっきみたいな事が今後も起こるかもしれないの?」

「その可能性はあるね。だからほら、ボクが一緒で良かったでしょう?」

にこやかに話を締めくくったコンウェイを、ヴィスはジト目で睨んだ。
他の面々は納得出来たのか、すっかり歓迎ムードになっている。

「はぁ〜心配だなぁ〜、全部仕込みだったかもしれないのに、すっかり信用して……」

「……せめてそういう事はボクに聞こえないところで言ってくれないかな? かと言って、ルカくん達に余計な事を吹き込まれても困るけど」

「だって実際に君はあそこで待ち伏せしてたんでしょ。境界線って言うのが異世界とのって意味なら、歪みの発生自体、君がこっちの世界に来たのが原因なんじゃないの?」

「それは違うよ。ボクはきちんと正式なルート──ゲートを使ってこちらに来ているからね」

「……ゲート?」

「おっと、キミに詳細を話すと潰されてしまいそうだから、この話はここまでにしよう。……そんなに警戒しなくても、ボクはキミ達にもこの世界にも、危害を加えるつもりはないよ」

「どうかなぁ。口ではなんとでも言えるし、君は嘘を吐くのが上手なタイプだろうから」

「否定はしないけど、じゃあどうすればキミに信用して貰えるのかな」

「今すぐ元居た世界に帰って、二度とこちらには来ないって約束してくれたら、とりあえずは信用するよ」

「行く行くはそうするつもりだけど、今すぐには無理かな。こっちもそれなりに苦労してここまで来たからね。目的は果たさないと」

「その目的って言うのは?」

「内緒。キミに話して妨害でもされたら困るからね」

「あっそう。はぁ〜面倒臭いなぁ〜もう〜」

と後ろでギスギスしている二人には気づかず、前を行くルカ達は道の先にナーオス基地の姿を認めて小走りで駆け寄る。

入り口が封鎖されているという事も、見張りが置かれているという事も無かったが、警戒は怠らずにこっそりと中へと忍び込む。

基地というからには軍事施設の一つだろうとヴィスは思っていたが、ざっと見たところナーオスに来る前にルカ達と一緒に閉じ込められていた転生者研究所に似ている。

「ってことはよ、ここにも転生者が捕まってる可能性高いよな」

「まあ、例の聖女さんも転生者の可能性高いしねぇ」

「そして転生者を兵士に仕立てて戦争させてるのよね。ホント許せない……」

「早く聖女さんを探して助け出そう!」

基地内を巡回している兵士の目を搔い潜り、時に蹴散らしながら、一行は奥へと進む。
聖女の他にも転生者が居れば助け出すつもりでいたが、不思議と兵士以外の人の姿は見当たらなかった。

皆逃げたのか、或いは似ているのは様相だけで、ここは転生者研究所とは違うのだろうか。
その疑問は、一つの部屋に入ったところで解けた。

部屋の中には見たこともない兵器と、巨大な筒状の水槽のようなものが整然と並んでおり、その中に人──恐らくは転生者と思しき者達が閉じ込められている。

「これは一体……?」

「そう言えば……転生者研究所で、兵器の動力源に転生者を使うって言ってなかった?」

「ふざけんなよ! 転生者だからって、何をしてもいいってわけじゃねぇだろう!」

ヴィスは筒の一つをコンコンと叩いてみたが、中に居る人物は目を閉じたまま何の反応も示さなかった。
眠らされているだけか、はたまた既に死んでしまっているのか、外から見ただけでは分からない。

(……まあ、死体でもいいなら全員戦場に出して、その後に回収した遺体を使えばいいだけだろうから、多分まだ生きてはいるんだろうけど……)

力づくで破壊することも出来るのかもしれないが、今ここで騒ぎを起こせば兵士に見つかってしまう。
そうなれば聖女アンジュの捜索は困難になるだろう。だから、今は捨て置くしかなかった。
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