02.前世に縁りて集う

「……ん? 何の音?」

そうして更に奥に進んだところで、不意にイリアが足を止めた。

確かに、何か駆動音のようなものが聞こえる。
どこからだと周囲を見渡していると、ソレは頭上から降って来た。

「うおっ!? さっきの部屋にあった兵器!」

「ひ……ひとりでに動いてる!?」

「見て、あいつの後ろ、さっきの筒が!」

「って事は、やっぱりイリアちゃんの言ってた通りみたいだね」

つまり、あの筒の中にも転生者が入っているのだろう。
これだけ巨大な兵器の動力源にされて、閉じ込められている者に何の悪影響もないとは考え難い。

助ける助けないはルカ達の判断に任せようとヴィスは思ったが、彼らが決断するよりも先に兵器が襲い掛かって来た。

動きを止めようとヴィスが鎖でその巨体を捕らえるも、兵器はそれを力づくで引き千切る。

「わぁ、すごい馬鹿力」

「装甲のせいで弾丸も弾かれるし……ちょっとルカ! なんとかしなさいよ!」

「な、なんとかって言われても……」

「それなら、装甲の付いていない接合部を狙えばいい。敵の攻撃のタイミングに合わせられれば……」

「なるほどな、まかせろッ!」

コンウェイのアドバイスを受けて、スパーダは敵の懐に潜り込み、振り下ろされる敵の拳を剣で弾き返した。
そのまま伸びた腕の接合部目掛けてもう一つの剣を突き刺すと、断たれた配線から黒煙が上がり、兵器の動きが鈍くなる。

「お、効いてんじゃ〜ん! 弱点さえ分かればこっちのもんよ!」

続けてイリアが体勢を崩して剝き出しになった足の関節に鉛玉を打ち込み、ルカが大剣で更に追い打ちをかける。

トドメにコンウェイの術が炸裂し、兵器はバチバチと音を立てながら沈黙。

「と、止まった……?」

「みてぇだな。でも、なーんか爆発とかしそうな雰囲気じゃねぇ?」

「だったら、早く筒の中の人助け出さないと!」

「あ、そういう事なら任せて〜」

戦闘中殆ど見ているだけだったヴィスが挙手して、一人のそのそと兵器によじ登る。

筒が収納されている場所は鉄製の蓋で閉められており、その重さに眉を顰めたヴィスはすぐ近くにある天井を見て指を鳴らした。

すると定滑車のついたロープが天井に現れて、ヴィスはそのロープの端を掴み、蓋の取っ手に括り付けると、反対側のロープを掴んで引っ張り始める。

「おお、持ち上がった。アイツ結構力あんだな」

「というか、あれは梃子の原理だね。……それよりも、ボクは今彼が使った手品のような術の方が気になるんだけど……あれも天術かい?」

「そうみたいよ。天術って言っても、どんな力かっていうのは人それぞれだから。ヴィスはああやって色々物を出せるみたい」

「ふぅん……でも、そんな力があるなら、さっきの戦闘でも色々やれたと思うんだけどな」

「戦うのが苦手だって言ってたから、そういう用途には向いてないんじゃないかな? 危機が迫ると思考力が鈍るって言うもんね」

「そう。……本当に苦手なだけならいいんだけどね」

「?」

「あっ、出てきた!」

蓋が完全に開くと筒は自動的に射出されて、中に居た人物が外へと吐き出された。
ヴィスはそれをキャッチして、ルカ達の近くに降ろす。

青い髪に白い肌を持つ小柄なその女性は、イリアの呼び掛けで目を覚ました。

「……あら? ここは……? 皆さん、どちら様ですか……?」

「僕達、ここに聖女アンジュって人が連れて来られたって聞いて、助けに来たんだ」

「……アンジュ? アンジュ・セレーナですか? それなら、貴方達が探しているのは、多分私よ」

「お〜、ちょうど見つかって良かったね」

「あたし達、あんたに聞きたいことがあるの。だから、一緒について来て」

イリアの申し出に、アンジュは表情を曇らせた。
神前で祈りを捧げる修道女のように、指を組み目を伏せ、懺悔のように語り始める。

「……助けて頂いて感謝します。でも、私は……私は、一時の感情に身を任せ、大聖堂を破壊しました。そして、沢山の人を危ない目に……私は、転生者としての自分の力が怖い。人を傷つけるくらいなら、いっそこのまま……」

「でも、このままここに居ても、今みたいに兵器の動力源にされちゃうだけだよ? 人を傷つけるかもしれないって意味では、そっちの方が危ない気がするけどなぁ」

「それは……」

「ボクも彼と同意見かな。過去の自分を悔いているのなら、生きて償いの道を選ぶ方が賢明だと思うけど?」

「そうそう、お前良いこと言うぜ! ──なあ、大聖堂をぶっ壊す前は、皆の傷を治したりしてたんだろ? あんたの力は人助けとか、善い事にだって使えるんだよ。転生者の力が全部悪いわけじゃねぇ」

アンジュは暫し潜考して、皆の意見に頷き立ち上がる。

「……そうね、これも天の巡り合わせ。分かったわ、一緒に行きましょう」

「よっしゃ、決っまり〜! あたしはイリア・アニーミよ。前世はイナンナだったの」

「オレはスパーダ・ベルフォルマ。デュランダルっていう剣が前世だったんだぜ」

「僕の前世はアスラ。今はルカ・ミルダって名前だけど……」

「アスラ……? 貴方が、センサスの猛将アスラ?」

「あ、これはまたアスラくんの知り合いパターンかな?」

ヴィスの言葉に、これまでの経験上また仇敵だと言って襲いかかられるかと皆は一瞬身構えたが、そうはならなかった。

皆より先に相手の正体に思い至ったルカは、どこか面食らった顔をする。

「君は……ラティオのオリフィエル?」

「オリフィエル……あのラティオの軍師オリフィエルか! その軍略の泉は枯れることを知らず、敵を破り、味方を救うこと幾千回……その気高き騎士道精神に満ちた戦いぶりは、敵味方問わず賞賛されてたな」

「あれ、でもオリフィエルくんって男の子じゃなかった? アンジュちゃんは女の子に見えるけど」

「そんなこと言ったら、スパーダなんて元は剣よ?」

「あー、それもそっかぁ」

「今はただの尼僧です。前世では立場を違えておりましたが……仲良くして下さいます?」

「もっちろんよぉ! 良かった〜、あたしは逆にあんたが問答無用で襲いかかって来ないかとヒヤヒヤ──」

と、皆が話している最中に、突如けたたましい警報音と共に、異常を知らせるランプが赤く明滅し始めた。
それと同時に、あちこちから無数の足音がバタバタと聞こえてくる。

「これは……逃げた方が良いんじゃないかな」

「そうね。アンジュ、走れる?」

「ええ、なんとか。でも走るのは苦手で……」

「じゃあ俺が運ぼっか?」

「運ぶって、どうやって? 抱えて走るの?」

ルカの問いに、ヴィスは再び指を鳴らした。そして現れたのは小さな荷車。
ヴィスの術の事を知らないアンジュは、一体どこから出したのかと目を丸くした。

「ホントに何でもアリだな、お前の天術」

「ほら乗って乗って〜、行くよ〜」

「い、いいのかな……? じゃあ、お言葉に甘えて……」

そうして、アンジュを乗せた荷車とそれを引くヴィスを先頭に、一行は出口を探して再び走り出した。
元来た道を戻れば早いのだが、この警報のせいで恐らく入口は固められてしまっているだろう。

「ね、さっき前世では立場を違えてた≠チて言ってたけど、オリフィエルくんって最終的にはセンサスの方に居なかった?」

「ええ。前世の私──オリフィエルは、ラティオからセンサスに寝返りましたから」

「寝返ったって言うか、降伏してくれたんだよ。その方が被害が少なくなるって考えたんだと思う。アスラはそんなオリフィエルを信頼していたし、感謝もしてた」

「オリフィエルも、天上界を統べるべくはアスラだと思ったからこそ、その後もずっと彼の傍に居たのよ。元々は敵同士だったけど、お互いに認め合っていたのね」

「そっかぁ〜、なんだかいいね、そういうの。天上界の皆がそんな風だったら、戦争も起こらなかったのかなぁ……」

「──ガラム軍の敵襲だ!」

道の先から聞こえてきた兵士の声に、ヴィスは減速して曲がり角の手前で止まった。
後ろに居る皆にも状況を伝えて、全員で聞き耳を立てる。

「たった一人で西の戦場を突破してきたらしい」

「一人で!? そんな馬鹿な……!」

「それだけ腕が立つという事だろう。総員、出撃態勢! グズグズするな!」

バタバタと今度は遠ざかっていく足音を聞いて、一行は壁際から顔を覗かせた。
遠ざかり小さくなっていく兵士達の背中が見えていたが、やがて見えなくなり、通路は無人になる。

「敵襲……? ガラム軍ってことは、僕達のことじゃないよね?」

「だろうね〜、一人って言ってたし。西の戦場からって事は、もしかしてあの陽気な人かな? 槍使いの」

「げっ! ちょっと、やめてよね! せっかく忘れてたのに!」

「アイツだったら最悪だな……でもこの状況、今のオレらにとっちゃあ好都合じゃねえ?」

「そうね。彼らが戻って来る前に、早くここを抜け出しましょう」
目次へ戻る | TOPへ戻る