02.前世に縁りて集う
「このまま行けば出口に……ッ!? 皆待て、動くな!!」そうして、長い長いマラソンを終えて漸く出口付近まで来れた一行だったが、またもその行く手を阻まれて足を止める。
先導していたリカルドが素早く銃を構えるのを見て、そのすぐ後ろに居たスパーダも双剣に按じた。
視線の先に居るのは、見覚えのない男。
「なんだぁ? てめぇ……」
「転生者共が、この混乱に乗じてコソコソ逃げ果せるつもりか? 天上界を滅ぼしだ下種共らしいわ……」
「ゲスって……ご挨拶ね! 一体何の用? あんたもアンジュが目当て?」
「一人ではなく、全員に用がある。──地上の為、今ここで、全員に死んで貰いたいのだ」
「なんですって!?」
「我が名はガードル。地上を守りし者──」
男はその口上と共に、担いでいた矛のような武器を構えた。
青白い光がそれを包み、電流のように迸る。
「こいつ……只者ではないな」
「……っていうか、この人って……」
「ヴィスさん、何か知ってるの?」
ヴィスが答える間もなく、ガードルは一行目掛けて武器を振りかぶった。
四方に散ってそれを避けた皆は、すかさず各々のやり方で応戦を始める。
ガードルの扱う術は、これまでに見て来たものとは一線を画していた。
上位互換と言っていいだろう威力を持つそれに、直撃を避けたルカの顔が青冷める。
コンウェイはそれを助けつつ、心配そうに見守っているヴィスを横目に見遣る。
「今回はルカくん達だけじゃ厳しそうだけど、それでもキミはそうして見ているだけかい?」
「別にいっつも余裕ありそうだからサボってるって訳じゃないし。俺とお喋りしてる余裕があるなら、もっと手動かしてくれない? そしたらルカくん達の負担も減るでしょ」
「キミが闘いに参加するっていう選択肢もあると思うんだけど」
「駄目だよ。俺が手を出すと公平じゃなくなる」
「公平、ね。それにしては、さっき機械兵器と戦ってた時に、鎖で相手を簀巻きにしていたように見えたけど」
「あれは俺の中ではセーフなの。直接相手を傷つけた訳でもないし、第一あれは機械だし」
そう言いながら、ヴィスは詠唱中のイリアの前方に盾を出現させた。
ガードルの放った術は、それに阻まれて霧散する。
「今のは?」
「セーフ。あ、君のことは庇わないからね」
「言われなくても、最初から期待はしてないよ。──猛き炎の脈動、全てを薙ぎ払え。ブラストストリーク!」
イリア達のものとは違う魔法陣がコンウェイの足元に展開し、彼の頭上に集った光から、地面を裂く光線が放たれる。
割れ目からはマグマのように炎が吹き出し、それが近くに居たガードルの身を焼く。
怯んだのを見た他のメンバーは、その機を逃さずに連撃を叩き込んだ。
膝をつかされたガードルは、降参したのか、何も言わずにすんなりと撤退。
「けっ、言うだけ言ってとっとと逃げやがった。一体何だったんだよ、アイツは」
「地上の為に死んで貰うと言っていたけれど……どういう事だったのかしら」
「そう言えば、戦いになる前、ヴィスさんは何か気付いてたみたいだけど……?」
「あー、うん……」
ヴィスは口籠りつつ、リカルドの方をちらりと見た。
相手はガードルの去っていった方をじっと見つめたまま固まっている。
「……知ってる人かもって思ったんだけど、やっぱり人違いだったかも」
「はぁ? 何よそれ」
「知ってるって、前世の知り合いか? それとも現世?」
「どっちだったかな〜。そんなことよりほら、出口見えたし、追手が来る前にナーオスまで行こ〜」
「あ、はぐらかした」
「都合が悪くなるといっつもそれだな」
「あれ、どうかしたの? リカルドさん」
「……いいや、何でもない。早く脱出しよう」
様子のおかしい二人に首を傾げつつも、一行はその言葉に賛同して出口へと向かう。
数時間ぶりに陽の下に出た皆は、その澄んだ空気を肺一杯に吸い込みつつ、予定していた通りナーオスのハルトマン邸へ足を運んだ。
早くも恒例行事となりかけているスパーダのお坊ちゃま§Mりが済んだところで、皆はハルトマンの用意してくれたお茶と共にテーブルを囲い、後回しになっていた自己紹介を手短に済ませる。
「では、自己紹介も終わったところで。リカルドさん、私を誰の元に連れて行こうとなさったのですか?」
「それを他人に漏らすのは守秘義務違反──と言いたいところだが、まあこの際いいだろう。北の国テノスの貴族、アルベール・グランディオーザという男の元だ。知っているか?」
「アルベールさん……? いいえ、面識どころか、名前も存じませんね」
「もしかして、お貴族様に密かに見初められたんじゃない? アンジュ美人だもんね〜」
「まさか。私、テノスには行ったこともないし、知り合いだって居ないのよ?」
「美人ってところは否定しねぇんだな……」
「私の身柄を確保したい理由は、一体何なのかしら……」
「理由は転生者だから、らしい」
「えっ」
依頼者は王都軍とは目的が違うのだろうと予見していたヴィスは、それを聞いて冷や汗を流し始めた。
「じゃ、じゃあ、あのままリカルドくんに付いて行ってたら、アンジュちゃんは危ない目に遭ってたのかな……? か、考えが浅くてごめん……」
「アルベールの思惑については俺も詳しくは分からんが……奴の使者は俺が転生者だと分かると質問してきたな。創世力を知ってるか? と」
「創世力……! ってことは、そのアルベールって奴の目的は、軍じゃなくマティウスと同じみたいね」
「ほう、他にも似たような奴が居るのか。その創世力とは何なのだ?」
「ん〜、なんとなく聞き覚えがある気はすんだけどよぉ、うまく思い出せねぇ……」
「僕も確かに知っているんだ。でも……よく思い出せない……なんだか気持ち悪いや」
「創世力かぁ……う、アイタタタ……」
「どうしたのイリア、大丈夫?」
「ん……なんか急に頭痛くなっちゃった……あ、でももう平気」
「まあ、わかんないことについて議論しても仕方ないしさ、もっと他の話を──」
と、ヴィスは良くない方向に流れている話を逸らそうとしたのだが、一人考え込んでいたアンジュが突如立ち上がって叫ぶ。
「創世力……そうよ! 創世力は天上界滅亡の原因! 大変、止めないと!」
「創世力が……天上界滅亡の原因……? そう……だったっけ……?」
「そういや、そうだったような……」
「俺は全く思い出せんな」
──そりゃあ、リカルドくんは創世力に一切関わってなかったからね。
何も言えなくなってしまったヴィスは、心中でだけそう返した。
清聴しているコンウェイは、その様を興味深げに観察する。
「マティウスのやつ、そんなロクでもない物の為にあたしの村を……ッ!」
「マティウスとアルベールが、創世力を欲しがる理由か……」
「単純に考えれば、兵器として利用する為だろうな」
「よく分からないけど、創世力をそいつらに渡しちゃ、ロクなことにならないよね?」
「やっぱり創世力は、あたしたちが手に入れるしかないのよ! マティウスにもアルベールにも渡さない!」
──その心意気は嬉しいけど、君達が手に入れたら大丈夫って保障も無いんだよ。
ヴィスはそう返したかったが、やはりその言葉が口から出ることは無かった。
「……創世力とアルベール達の目的については、これ以上詮索しても埒が明くまい。俺の知っておきたい事がもう一つある。──コンウェイ・タウとか言ったな? 貴様、転生者でもないくせに、なぜ天術が使える?」
「ボクの国では珍しい事じゃないんだけど? そもそも、ボクの技は正確には天術じゃないしね。それにルカくん達にとっては、ボクは貴方より余程信用できる人間だと思うんだけどな」
「いや、それは無いでしょ。どう考えてもリカルドくんの方が信用出来るよ」
「それはボクの事が嫌いなキミ個人の偏った意見でしょう? 一般的に考えれば、金で転ぶ傭兵よりはマシって意見になると思うけど」
「……何?」
「ちょっ、ちょっとやめなさいよ! どうしたのよ急に」
「俺は雇い主の傍に、正体のよく分からん人物を置きたくないだけだ」
「そうそう。俺も不審者の同行は反対〜」
「……さっきから援護してくれているところで悪いが、俺はお前のことも同じように思っているんだが」
「えっ」
「なら、その雇い主本人が許可します。ルカくん達が認める以上、二人にも同行して貰います」
「だってさ」
アンジュにそう言われて、リカルドは渋々それを承諾した。
一方、標的がコンウェイに移った途端、水を得た魚のように活き活きと喋っていたヴィスは、先のリカルドの一言で再び元気を無くして俯く。
「ね! この件に関してはここまで! ──で、明日からのことなんだけど、情報を集めに王都に行ってみない?」
「え、レグヌムに?」
「確かに、情報の多さだとあそこが一番かもね。そうしましょうか」
「さあ皆様、お話合いはそのくらいにして。お食事の用意が出来ましたよ」
「待ってたんだな、しかし! コーダ、じじいとじじいの料理、大好きなんだな、しかし!」
ルカは気乗りしない様子だったが、結局明日はレグヌムに向かうことで話は纏まり、皆は運ばれてきた豪勢な料理を有難く食べ始める。
消沈していたヴィスは、せめてもの腹いせにと机の下でコンウェイの足を蹴ろうとしたが、考えを読まれたのか軽く躱されて、反撃を受けただけだった。