02.前世に縁りて集う

翌朝。
ハルトマン邸で一泊させて貰った一行は、出発の準備を整えて、その家の前に集まっていた。

ヴィスに代わって最年長──記憶喪失のヴィスの実年齢が分からない為、見た目での判断ではあるが──となったリカルドが、確認の為に今日の予定を復唱する。

「では、昨晩のイリア・アニーミの提案通り、王都レグヌムに向かうという事で構わんな?」

「ちょっと待って」

「うん? 何か問題でもあるのか、イリア・アニーミ」

「王都に向かうのはいいんだけど、その呼び方。なんでフルネームで呼ぶわけ? あたし、堅っ苦しいのはイヤなのよね。イリアでいいわよ」

「傭兵とは言え、軍に属していれば珍しい事では無いのだが……それに呼び方の話なら、俺もそいつに言いたいことがある」

「ん? 俺?」

「お前だ。リカルドくん≠ヘやめろ」

「なんで? ちゃん≠フ方がいい?」

「そんな訳があるか。普通に呼び捨てでいい」

「リカルドくんがそうして欲しいなら努力するけど……俺、呼び捨てにするの得意じゃないんだよね。なんか刺々しく聞こえない?」

「その感覚は分からんが、俺からすればくん≠謔閧ヘマシだな。せめてさん≠ノしろ」

「さん≠燒wど使ったことないよ。じゃあ、間を取ってリカちゃん≠ノしない?」

「どこの間を取ればそうなる? 却下だ」

「えぇ〜」

という会話の傍らで、ルカは一人神妙な顔で黙り込んでいた。
アンジュがその理由を問えば、素直にその心境を吐露する。

「ちょっと実家の……父さんと母さんの様子が気になってさ」

「まあ、そりゃそうだろうな」

「親に甘えるのはガキの特権だろう、遠慮はあるまい。何故その特権を享受しない?」

「それはほら、例の適応法ってヤツよ。あたしたち、一度軍に捕まってるからさ」

「成程。気にはなっても帰るに帰れん、という訳か。ならば仕方ないな」

「ルカくん、本当にそれで大丈夫?」

「ごめん! 平気平気! 僕、人前で弱音を吐かないって決めたのにね。せっかくアスラの力で強くなったんだから、中身の強さも伴わなきゃ! それに……イリアはまだ僕の力を必要としてくれてるんだよね? だったら、最後まで頑張るよ」

「ふうん……あんたって、割とアレね」

「え? なに?」

「割とマシかもね、って話よ! それじゃ、王都に向かいましょ!」

イリアはそう言って意気揚々と歩き出し、ルカが慌ててそれを追う。
他の面々はそんな二人を微笑まし気に見守りながら、揃ってナーオスを出立した。









レグヌム峠を越えて、王都レグヌムに到着した一行は、街の入口で円になって今後の方針を話し合う。

「で、この街で情報収集って、具体的にはどうするつもり?」

「決まってるじゃない。転生者を探すのよ」

「でも、転生者は皆適応法で捕まって、街には居ないんじゃないの?」

「隠れている人が絶対に居る筈よ」

「まあ、ルカくん達だってこうして逃げ延びてる訳だもんね〜」

「だが、どうやって隠れている転生者を燻り出すつもりだ?」

「それに、隠れている転生者が、私達に会ってくれるかしら」

「うぐぐ……そ、その解決策を含めての情報収集でしょ? とにかく行きましょうよ! ね!」

「行くって、何処へだよ?」

「何処か、よ!」

一人怒ってズンズンと街中に歩いていくイリアに、ナーオスのデジャブを感じたスパーダが呆れた顔で嘆息。

「ほ〜ら、また出たよ。イリアの行き当たりばったりが……」

「だがまあ、ここにいつまでも突っ立っている訳にはいかんな。とにかく街を散策してみよう」

そんな訳で、一行は街中を堂々と闊歩していたのだが、途中、王都軍兵士と鉢合わせかけたイリアが慌てて物陰に隠れる。

他のメンバーはともかく、以前王都で一悶着あったルカ、イリア、スパーダの三名は顔を覚えられているかもしれない、との事で。
ピンチに陥った際の避難場所を決めた上で、目立たぬよう二人一組に分かれて聞き込みを行う事になった。

スパーダのコイントスで決定した組み分けに、コーダと組むことになったヴィスは苦い顔。
別に何もコーダと一緒なのが嫌な訳では無い。彼の視線はルカとコンウェイの方を向いていた。

「……ルカくん、俺と交代しない?」

「え? どうして?」

「俺、コンウェイくんと一緒がいいなぁ〜って」

純粋なルカはその言葉を疑うことはせず、ただ「この二人はそれほど仲が良かっただろうか」と不思議がるだけだった。
一方、コンウェイはヴィスの真意を正しく理解して、意地の悪い顔で答える。

「そんなに好いて貰えて光栄だけど、もう決まった事だから。それに、ボクはこの街にはまだそれほど詳しくはないからね。出身者のルカくんに案内して貰うよ。──さ、行こう、ルカくん」

「え? あ、うん。ごめんねヴィスさん」

そう言ってさっさと二人は行ってしまったが、ヴィスは諦め悪くそれを追いかけようとして、首根っこをリカルドに掴まれる。

「おい、同じ方向に行ってどうする」

「だって、他の地区の聞き込みはリカちゃん達がやってくれるんでしょ? 俺とコーダくんは余りみたいなもんだし、ルカくん達と同じところに居てもよくない?」

「別にどこを回っても構わんが、他のグループの近くを彷徨くな。何の為にグループを分けたと思ってる」

「よくわかんねーけどよ、そんなにコンウェイと一緒が良いなら、次そうすりゃいいだろ? 今回は我慢しろよ」

そうスパーダに諭されて、ヴィスは泣く泣くコーダと一緒に歩いて行った。
悲哀に満ちた背中を、その胸中を知らぬスパーダ達が懐疑的な目で見送る。

「なんだぁ? あいつ。ちょっと前までコンウェイのこと嫌ってやがったくせによ」

「心変わりにしても早すぎよね〜。昨日だってリカルドと一緒になってコンウェイを追い出そうとしてたのにさ」

「私達の知らない所で、何かあったのかもしれないわね。仲良くなってくれたのなら何よりだわ。それより、私達も行きましょう?」

「そうね。それじゃあ、そっちも頼んだわよ」

コンウェイとヴィスの間柄になど興味は無いと言わんばかりに、アンジュとイリアのペアは担当である商店内の方へと向かう。

残されたスパーダとリカルドのペアはと言うと、

「何かって何だよ……想像したくねぇ……」

「それはともかく……あの男、本当にあの呼び方で通すつもりか……?」

各々にそんな感想を漏らしながら、工業区へと消えていった。
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