02.前世に縁りて集う
各グループが聞き込みを開始して早数十分。早々に仕事を放棄してルカとコンウェイの尾行に勤しんでいたヴィスは、屋台を見つけて走っていってしまったコーダを追いかけているうちに、それを見失ってしまっていた。
──ああ心配だ。やっぱり、多少強引にでもついて行けばよかった。
ヴィスは落ち着きなくルカ達の姿を目で探しながら、ホットドッグの購入を促すコーダの要望に応える。
他のメンバーはもうコンウェイに対する疑心を殆ど解いてしまっている様だが、ヴィスにとっては未だ彼は警戒の対象でしかない。
何せまだその目的すらハッキリしていないのだ。
何のためにわざわざこの世界に来たのか。ルカ達に同行する理由は何なのか。
追求をのらりくらりと躱す彼の余裕の笑みを思い出して、ヴィスの額に青筋が浮かんだ。
自分に尋問の心得があれば……と物騒なことを考えつつ、コーダと一緒にホットドッグにかぶりつく。
「ん、美味しい」
「美味いんだな、しかし! もっと寄越すんだな、しかし!」
「悪いねぇ、今日はもうそれで売り切れだよ」
「だってさ〜。残念だったねコーダくん」
既に五つほど平らげていたコーダは、口の周りをケチャップ塗れにしながら項垂れた。
屋台の店主は「沢山買ってくれて有難うね」と言いながら、店じまいをして帰って行く。
ヴィスとしても、あちこち走り回られるよりは、頭上で何か食べながらじっとしていて貰った方が助かるのだが、無いものは仕方がない──と、そこまで考えて閃いた。
見た目と味が分かっていれば、再現するのはそう難しくは無い。
ヴィスはパチンと指を鳴らして、今消費したばかりのホットドッグをその手に復活させた。
「なぁなぁにーちゃん、ちょっとええ?」
大はしゃぎしながらその功績を褒め称えるコーダにそれを渡そうとすると、見知らぬ少女がそう声をかけてきた。
「今のどないしたん? 手品? もっかいやってみてくれへん?」
「このホットドッグはコーダのなんだな、しかし。横取りはずるいんだな、しかし」
「今のって、これ?」
ヴィスが再び指を鳴らしてホットドッグを出すと、コーダが素早くそれをキャッチする。
「そうそう、それそれ! どないなっとるん? 食べとるし、ハリボテやないんやろ? もっと出せるん?」
「うん。要るなら出そうか?」
「……食べても大丈夫なヤツやんな?」
「だと思うよ」
そう言いながら、ヴィスはコーダを見た。
流石にお腹がいっぱいになってきたのか、満足そうに膨れたお腹を押さえている。
「ほな味見で一個ちょーだい。あ、でもウチ、お金は持ってへんねん」
「お金なんて要らないよ? はい、どうぞ」
新たに生成された熱々のホットドッグを受け取った少女は、訝しげにそれを見つめつつ、匂いを嗅いで一口齧る。
「どう?」
「ん〜、美味しい! ちゃんとホットドッグやん! この店の味は知らんけど、匂いは同じやし、凄いなぁ〜」
お腹が空いていたのか、コーダに負けず劣らずの早さでそれを平らげた少女は、「ごちそーさん」と手を合わせてニカッと笑う。
「指パッチンでこんなもん出されたら、屋台の人ら商売上がったりやで。──そんで、どういうカラクリなん? どっかに隠し持っとるん?」
「隠し持ってないよ〜。これは俺の専売特許なんだ」
「ホンマに種も仕掛けも無いん? ほな、今からウチが言うもん出せる?」
「俺が知ってるものならね」
「う〜ん、どないしよ……あ、せやせや。毛布出してくれへん? 今使ってるんがもうボロボロやねん」
「毛布ね。デザインはどんなのがいいの?」
「え、そこまで決めれるん? 特にこだわりあらへんけど……」
「じゃあ、君が着てる服のデザインと同じにしよっか〜」
と言って、ヴィスは再び指を鳴らした。
たったそれだけで言っていた通りのものが現れて、少女はわなわなと震え出す。
「ほ……ほ、ほんまもんやぁ! にーちゃん、魔法使いなん!? めっちゃ凄いやん!」
「魔法使いとは違うけど、まあ今はそれでいいや。じゃあ、俺はそろそろ行かないと……」
「待って待って! にーちゃん、後でいくらでもお礼するから、ちょっとウチと来てぇな! その魔法で、ウチの子らにご飯食べさせてあげて欲しいねん!」
「うちの子……? 君、まだ幼く見えるけど、子供が居るの?」
「せやねん。血は繋がってへんねんけど、大事な子らやねん。な? お願い! この通りや!」
と、地面に両手をついて土下座を始める少女に、ヴィスは慌てて止めるように言う。
だが少女は頑なに頭を上げようとはせず、結局ヴィスが折れるしかなかった。
何処へ連れて行かれるのだろうと思えば、少女に案内された先は、緊急避難先としてスパーダが指定していたマンホールの下だった。
下水道の脇には生活感溢れるスペースがあり、少女はその一角にあるソファーの上に、先程ヴィスから貰った毛布を置く。
「よくこんな所にこんなスペース作ったねぇ」
「せやろ? 運び込むの大変やってんで。ちゅうても、半分は元からあってんけどな」
「あー、スパーダくんが隠れ家にしてたって言ってたし、それかな? でも、なんでこんな所に住んでるの? 家出中?」
「ちゃうちゃう。ウチ、孤児やねん。他の子らも、ここに住んでるんはそういう子ばっかり。戦争や何やで孤児院もいっぱいやから、行くとこ無いねん」
「孤児……」
その存在は知ってはいるものの、現世で相見えるのは初めてだ。
そう言えば、こんな風に身寄りのない子供を拾って育ててる者が天上界にも居たなぁと、ヴィスは遠い昔に思いを馳せる。
「……あれ? ヴィスさん?」
遠くに行っていた意識を呼び戻したのは、少女の声ではなくルカの声だった。
走って来たのか息を切らしてはいるが、とりあえずは無事だったらしい。
ヴィスは胸を撫で下ろしつつそれに応える。隣にコンウェイの姿が無ければ、尚良かったのだが。
「おかえり〜ルカくん。上で何かあったの?」
「ああ、うん。それが……その、僕の不注意で、兵士に見つかっちゃって……」
「えっ、大丈夫だった?」
「何とかね……全く、キミは慎重なのか無鉄砲なのか、よく分からないな。ああいう時は、静かに立ち去ればいいのに」
「ごめん。急に色々あったから、慌てちゃって……」
「ちょお待ちぃや、自分ら誰? 役人や無いみたいやけど……なんでこの場所知っとんよ?」
ヴィスの背後から現れた少女に、ルカ達は目を瞬かせた。
互いの存在の説明を求める視線が、真ん中に居るヴィスに降り注ぐ。
「にーちゃんの知り合い?」
「えーっと、うん。あの銀髪の子はそうだよ」
「ちょっと。そういう地味な嫌がらせはやめてくれないかな?」
「そっちこそ、ヴィスさんの知り合い?」
「そういう訳やあらへんけど、このにーちゃんには用があんねん。せやから、連れて行かんとってな」
「ちょっとルカ! 居るの!?」
続いてやって来たのはイリアとアンジュのペアだった。
何やらご立腹な様子のイリアに、ルカがビクッと身を震わせる。
「兵士が彷徨いてんじゃない! まさかあんた、実家に顔出したんじゃないでしょうね?」
「そ、それは……」
「あんたの勝手な行動で、皆が危ない目に遭うのよ? 少しは考えなさい!」
「あ〜あ〜も〜、自分うるっさいなぁ。ウチ、耳キーンってなっとるわ」
ヒートアップしていたイリアは、少女のその言葉で勢いを失くした。
「……誰よ、あんた」
「自分こそ誰やっちゅーねん。まあええわ。兵士に追われとるんやったら、暫くここで隠れとりぃ」
「え、でも、迷惑なんじゃ……」
「気にせんでもええって。どうせこのにーちゃんにも居て貰わなあかんし」
そう言って、少女はヴィスの手を掴んでソファーに座らせる。
他の面々は顔を見合せて首を傾げつつ、少女に招かれるままに椅子代わりのクッションに座った。