02.前世に縁りて集う

そうして、一行は無事にエルマーナの住まいまで戻ってきたのだが、そこにエルマーナの言う子供達の姿は無かった。

代わりに外から子供の泣き声が聞こえてきて、真っ先に飛び出したエルマーナを追って、皆もマンホールから地上へ出る。

華美な服装の男と、その用心棒らしき男達に捕らえられている二人の子供を見つけたエルマーナは、彼らを呼び止めた。

「ミケーレ! ガエタノ! 大丈夫か!?」

「おうおう、盗っ人どもの親玉が登場か。貴様の子分共は捕まえたぞ。もう観念するんだな」

「はなせー! はなせよー!」

「いい歳した大人が何やってんのよ! 子供達放しなさい! 泣いてんじゃないのよッ!」

「黙れ小娘! お前もまとめて処分しちまおうか、ああ?」

「その子達が何をしたと言うのですか?」

「そこのチビに聞いてみな! 三日に一度はうちの店に盗みに現れて……今までどれほどの被害が出たか!」

「……おっさんよぉ、参考までに聞くけど、その子らどーなるんだ?」

「知れたこと。ガルポスの農場に連れて行くんだよ。あそこは労働力が貴重でな。子供を連れて行くと、いい金になるんだ」

「ええ!? その子達を農場に売るの!? 酷い、そんなの酷過ぎるよ!」

「ふん、薄汚いコイツらが悪いんだ! さっさとくたばってくれれば、街も綺麗になるんだがな」

「……そんなアホな。ウチらかて、好きで生まれてきたんちゃう……ちゃうのに……ウチらのことこんな風にしたんは、あんたら大人やんか……」

今にも泣き出しそうになっているエルマーナの悲痛な嘆きを聞いても、商人が態度を変えることはなかった。

弁償すると訴えても取り合っては貰えず、子供達は強引に連れて行かれてしまう。

「せっかく今日まで一緒に頑張って生きてきたのに……ウチ、もう二度とあの子らに会われへんのやろか……そんなんイヤや……」

「……そんな事はさせません。私は行きます。皆はついて来るの? 来ないの!?」

有無を言わさぬアンジュの気迫に皆は頷き、全員で男達の後を追った。
豪勢な屋敷で農場送りの段取りを進めていた商人は、乗り込んできた一行を見て憤慨する。

「ええい! これ以上騒ぎを大きくして、役人共にバレるのも不味い。おい、お前達! こいつらを始末しろ!」

「お役人にバレると不味い……? そのお話、詳しくお伺いしたいですね。まさかその子供達の拘束は、貴方個人の身勝手な私的制裁……農場へ送るという話も、貴方が私欲を満たす為の人身売買……そんなお話ではありませんよね?」

「ちょお待ちぃや。そういう話やったら、ウチも遠慮せぇへんで? その子ら、力尽くでも返して貰うわ」

エルマーナの怒気で多くの護衛は走って逃げていったが、一人残った屈強な男が彼女の前に立ちはだかる。
どうやら彼も転生者らしく、互いに睨み合っていた二人はその拳を打ちつけ合う。

体格的には男の方が明らかに有利ではあったが、エルマーナはその小さな体を上手く活かして立ち回り、相手を圧倒してみせた。

見事勝利を掴んだエルマーナに、それでも退こうとしない商人は、敗北を喫した用心棒の男に殴り飛ばされる。

何が何やらとポカンとするエルマーナに、男は跪き頭を垂れた。

「その気……ヴリトラ様、ですな?」

「んん……? あんた、なんでウチのこと知っとるんや?」

「ワシゃぁ天上界での大戦中、ヴリトラ様に多大なるご恩を受けておりやす。あの戦乱の中で、何度も家族の命を助けて頂きやした。誠に、とんだご無礼を……ッ!」

「それ前世の話やろ? そんなんええって。それより、その子ら放したって貰えへん?」

「放すなんて、とんでもございやせんぜ! お話をお聞きしてりゃあ、ヴリトラ様はこの子らの親代わりだそうで。差し出がましい様ですが、ワシも力をお貸ししますぜ! この子ら、立派に育てましょうや!」

男の申し出に、エルマーナは複雑そうな顔をした。
拘束を解かれて駆け寄ってきた子供達の頭を撫でながら、成り行きを見守っているルカを横目に見る。

「……なあ、おっちゃん。この子ら、あんたに頼んでもええ?」

「はい! ワシの命に代えても、この子らは幸せにしてみせますぜ!」

「──あんな、二人ともよう聞きや。ウチにはな、生まれる前から子供がおんねん。アスラっちゅう大きい甘えたを、面倒見たらなあかんかったみたいやねん。せやから、ウチ行かなあかんねん」

「ええ!? エル、どこかに行っちゃうの!?」

「やだよ! あのおじさん顔がコワいよぅ! エル、行っちゃやだ!」

「ゴメンな……でも、このおっちゃんの顔よぉ見てみ? 案外おもろい顔しとるやろ?
これからは、このオモロ顔のおっちゃんが良ぅしてくれはる。心配せんでも、ウチの子が手ぇかからんようなったら帰ってくるさかい。絶対! 約束するで」

ぐずっていた子供達は、それを聞いて口を閉ざした。
鼻を啜り、目を擦りながらも、やがてこくりと頷く。

「……うん。行ってらっしゃい、エル」

「行ってらっしゃい……絶対、帰って来てね!」

「……ええか、いっぱい食べて、いっぱい寝て、おっちゃんの言うことよう聞いて、はよ大きいなるんやで。──ほな、おっちゃん、この子らのこと頼んだで!」

エルは努めて明るくそう言い残して、先んじて部屋を出て行った。
目まぐるしい話の流れについて行き損ねたヴィスは、エルを追いかける仲間達と残された子供達を交互に見遣る。

「俺に土下座するほど大事にしてたのに、こんなあっさり置いてっちゃっていいのかな?」

「止むを得んさ。エルマーナは転生者だ。これまでは地下で身を潜めていたお陰でバレずに済んでいたのだろうが、地上で暮らすようになればいずれ見つかる。ここに残ることを選んだとしても、一緒には暮らせん」

「そっかぁ……あ、じゃあ、せめてこれだけ」

ヴィスは指を鳴らして、泣きじゃくる子供達の前にホットドッグを差し出した。
その匂いを嗅いだ子供達のお腹がぐぅと鳴る。

「エルちゃんから君達にプレゼントだよ」

「……もらっていいの?」

「うん、どうぞ」

子供達はエルマーナと同じく、恐る恐るといった様子でそれを齧った。それから、一気に食べ進める。

頬をパンパンにした二人は、もぐもぐと口を動かしながら、声を上げて更に泣き始めた。

「えっ、えっ、あれっ? 駄目だった? 美味しくなかった?」

「……大丈夫だ。行くぞ」

用心棒の男に感謝の言葉と共に見送られて、リカルドはヴィスの手を引き部屋を出る。

──自分は、この男のことを少し誤解していたのかもしれない。

子供達の心情が分からないのか、未だ心配そうに何度も部屋を振り返っているヴィスを見て、彼の行動に内心驚いていたリカルドは、自嘲気味に笑う。

「ん? どしたのリカちゃん」

「別に、何でもないさ」

その気になれば、何だって手に入る能力。
悪どい事に使おうとすれば、幾らでも使い道のある力。

それを使ってやる事が、腹を空かせた子供に飯を食わせる事だとは。

自分ならもっと有意義に使うだろうとリカルドは思ったが、反面、やはりこの天術を得たのがこの男で良かったとも思った。
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