03.贖罪の光

周囲を海に囲まれた孤島の国アシハラ。
船でそこに降りた立った一行は見慣れない町並みに目を輝かせつつ、いつも通り情報収集の為にコイントスで二人組に分かれる。

「今度こそ一緒だね〜コンウェイくん、宜しく〜」

「キミって本当にボクのこと好きだよね。まあいいよ、ボクもキミには興味があるから」

ニコニコ顔でそんな会話をする二人を、スパーダ達は奇異の目で見る。

「マジで何なんだよあの二人……」

「不思議と全く仲が良さそうには見えんな」

「ええなぁ、ウチもヴィスにーちゃんと一緒が良かったわぁ」

「ああ? 何だよエル、オレじゃ不満だってのか?」

「そうやないけど、ヴィスにーちゃん居ったら何でも好きなもん買い放題やん。魔法でお金も出し放題やろ?」

「はっ!? それもそうね……!? そういう事なら、あたしもヴィスと一緒に行こーっと」

「ええ!? それじゃあ僕が一人になるじゃないか!」

「ほな、先にお小遣いだけ貰といたらええやん。ちゅーわけでヴィスにーちゃん、お小遣いちょーだい!」

「いいよ〜幾ら欲しいの?」

「こら、集らないの! ここに来た目的は、あくまでも記憶の場を探す為でしょう?」

「全くだ。それとヴィス、その天術はあまり軽々しく使うな。教団や王都軍の連中で無くとも、その術を見ればお前を捕まえようとする者は無限に出てくるぞ」

「ええ? でも、俺からこの術取っちゃったら何も残らないよ? ただの大きい置物になっちゃう」

「どんだけ天術に依存して生きて来たんだよお前……」

などと言い合いながら、一行はそれぞれ町の各所で聞き込みを開始した。

アシハラでは、権力者は死後に神として祀られる風習があるらしく、であればその墓となる霊廟に記憶の場もあるのではないか、というのが、集めた情報からそれぞれが導き出した答えだった。

集合の遅かったルカとイリアが何やら険悪な空気になっているのが気になりつつも、一行は島の北にある霊廟へと向かう。

地下へと伸びる階段の先は、青白い光に照らされた通路に繋がっていた。
窓一つない空間に息苦しさを覚えつつも迷路のような道を進むと、古い壁画に行き当たる。

「なんやこれ〜? デッカイ絵ぇやなぁ」

「いつの頃の物だろう? レグヌムの鍾乳洞で見た天上界の文字もある……」

「何とか読めるわ。ええと……初めは天も地も無く、原初にただ大いなる創造神のみ在りけり。彼、永劫の孤独を癒すべく、己の肉体を世界とし、神々を生む。世界と神々、長く共に在りけり。──然し、卑しき神の溢れる時来る。天は卑しき神を人と貶め、地に落とす。以後、天と地隔たる事、いと長き=v

「あのぉ、アンジュさん? もうちょっと分かりやすく頼めねぇ?」

「つまり、天上界は……いえ、この世界の全ては、始祖の巨人から始まったと書いてあるの」

「始祖の巨人? この左側の大きな人型のこと?」

イリアは壁画の左端に描かれている巨人の絵を指した。
崩れた身体から天上界が形作られていく様を見ながら、アンジュが頷く。

「そう、この世界の創造主ね。この世界の初めには何も無く、ただ巨人が一人居ただけ……そして巨人はひとりぼっちで寂しかったから、自分の体から世界と神々を生んだの。その後神々は栄えたけれど、その中から悪い神が現れたのね。だから天上界の神々は地上を作り、そういう悪い神達を隔離したのよ。天から下ろされて、力を奪われた神々は人となった。それから長い時間が経ったなあ……と書いてあるの」

「でもよ、地上の皆は、自分達が神の子孫だって気付いてないよな?」

「それは教団が秘密にしたからよ。地上の人々が全員元は神様だなんて知ったら、宗教なんて成立しないもの」

「……なんか悪どくねぇ? 宗教広める為に事実を捻じ曲げるなんてよ」

「スパーダくんの気持ちは分かるけど……地上人の心を纏める為に、教団の判断は必要だったのよ。尤も、今は無恵のお陰で天上界への信仰そのものが薄れてしまったけどね」

更に奥へと進むと、今度はまた別の壁画が現れる。
描かれているのは、禍々しい姿をした人物が何かを掲げている様子と、壊れていく世界の姿。

それが何の光景なのかを悟ったヴィスは、一人絵の前で立ち止まる。
一方、ルカ達は近くに記憶の場を見つけて、そちらへと駆けて行った。

光の渦に触れると、鍾乳洞の時と同じように、かつての光景が映し出される。
天空城で創世力の危険性を訴えて封印を申し出るイナンナと、それを宥めるアスラ。見えたのはそれだけで、皆は期待外れだと肩を落とす。

「それで、先程からヴィスが見ているその絵は何だ?」

「ああ……うん。これもまた昔の事を記したものみたい……なんだけど……でも……」

書かれていることが腑に落ちない。
言い淀むヴィスの代わりに、アンジュが刻まれた文字を解読して読み上げる。

「魔王、創世力を高く掲げ、その力、長き眠りから呼び起こす=v

「魔王?」

「つまりそいつが、創世力を使ったって事か?」

「チトセさんが言ってた。マティウスは僕の良く知る人物だって。それが魔王……? マティウスが創世力を欲しがっているのは、天上界に続いて地上を滅ぼす為……?」

「マティウス……あいつが……!? アイタタタ……」

「あれ、イリアちゃんまた頭痛? 大丈夫?」

「ここは海の底だから、気圧が高いせいかな。少し横にでもなった方がいいんじゃない?」

「うん……。……あれ? もう平気だ。何なのかしらね、イライラするわぁ……」

とりあえず目的は果たせのだからと、皆はイリアの体調も気遣って早々に地上へと引き返す。
マティウスへの怒りを募らせるルカ達を見ながら、ヴィスは一人で唸っていた。

「どうした? お前も気圧で頭が痛いのか」

「んーん、大丈夫。……創世力を使ったのは魔王で、その転生者がマティウスさん、かぁ……」

そんな筈は無いのだが、この場合はそういう事にしておいた方が良いのだろうか。

決めかねていると、先を歩いていたルカ達が不意に足を止めた。彼らの背中越しに、チトセの姿が見える。

「こ〜の性悪女、ノコノコ現れやがったな!」

「イリア、その口調」

「現れやがりなさいましたわね! 何の用よッ!」

「アスラ様、マティウス様は貴方を必要とされています。お願いです、私とおいで下さい。共に幸せになりましょう」

「……ううん、駄目だよ。悪いけど、君とは行けない。僕は決めたんだ、僕を必要としてくれるイリアを守るって。イリアとずっと一緒に居るって」

「……ッ! どうして……どうして分かってくれないの……? 浮かばれない想いを心の底に沈め、耐えて待つなんて……私はもう嫌。生まれ変わった私は違う……アスラ様は、誰にも渡さない……! その女を殺してでも、貴方を連れて行くッ!!」

チトセは短剣を抜いた。
驚愕し狼狽えるルカに対し、イリアは素早く拳銃をホルスターから引き抜く。

「フン、ついに本性現したわね! やれるもんならやってみなさいよ!!」

「げっ、マジかよ、そこまでやるかぁ!?」

「言うとる場合とちゃうで、イリアねーちゃん助けたらんと!」

加勢する仲間達の中で、今回も観戦に徹しているヴィスは、必死に戦うチトセを見て心を痛めていた。

イリアを殺してルカを無無理矢理連れて行こうとするのは良くないが、何が彼女をそこまでさせるのか、彼女の前世の無念を、ヴィスはよく知っている。

結局戦いを制したのはルカ達で、武器を収めたルカは膝を着くチトセに優しく語りかける。

「チトセさんの故郷が海に沈むのも、今の戦争も、天上界が滅ばなければ起こらなかったかもしれない。それはみんなマティウスが……魔王が創世力を使ったせいなんでしょ?」

「そして現世ではこの地上も滅ぼそうとしてる。その為にマティウスは創世力が欲しいんでしょ!」

「……何を白々しい。なら、本当のことを教えてあげるわ」

チトセは狂気じみた笑みを浮かべて立ち上がり、徐にイリアを指した。

ヴィスはこの話の流れはまずいと思ったが、チトセの言葉を遮ることは出来なかった。


「天上界を……世界を滅ぼしたのは、イナンナ! お前だろう!!」


────皆が息を飲むのが聞こえた。


シンと静まり返った空間に、イリアの震える声が響く。

「そんな……何を言ってるのよ、あんた……」

「んなわけねーだろ! 苦し紛れにバカ言うな!」

「イナンナは裏切るわ、アスラ様。かつてそうだったように、貴方を必ず裏切るわ。その事を忘れないで……」

「何よそれ……一体、一体どういう意味よッ!?」

「フフ、フフフフ……自分の胸に聞くといいわ……」

声を荒らげるイリアに満足そうに笑って、チトセは煙と共に消えた。
皆が口々にフォローしたが、イリアは逃げるように一人先へ行ってしまう。

「あ〜……と、とにかくよ、さっさとここを出ようぜ! ルカも気にすんなよ!」

「うん……」

「全く、どういうつもりなのかしらあの子!」

「ほんま、変に引っ掻き回さんとって欲しいわぁ。空気悪なったし、町戻ったら気晴らしに観光でもしようやぁ」

「残念だが、のんびりしている時間は無い。船の出航時間が近いからな」

「メシ無しか、しかし。それはコーダも残念なんだな、しかし」

「飯なら船の上でも食える。またヴィスにでも用意して貰え」

「やって。ヴィスにーちゃん、なんか美味しいもん出してぇな〜」

「……ん? うん、また後でね」

反応の鈍いヴィスに、エルマーナとコーダは首を傾げた。
リカルドもその様子を横目に見て思案する。

「んで、次の目的地は?」

「南のガルポスは遠い。北のテノスは、こちら方面からの入港は難しい情勢らしい」

「そうなると……ガラム、ですね」

「ああ、急ぐぞ。乗り遅れると、ここで暫く足止めを食うことになる」

それは困ると、皆駆け足で元来た道を戻り始める。
先に港で待っていたイリアは依然として暗いままで、勇気を振り絞って声を掛けたルカも空振りに終わった。
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