04.悪者は誰か

目的を果たし、ジャングルから町へと戻ってきた一行は、出立の前に観光する事になった。

というのも、先の戦艦の一件で手に入れた小型船のお陰で、出航の時間を自由に決められるようになったからだった。

フルーツを逃したコーダ達は、その代わりとなりそうなものを血眼で探し、他のメンバーは宿のハンモックに揺られたり、海を満喫したりと、各々が思い思いの時間を過ごした。

心置きなくのんびりとした時間を過ごせたのは、皆この旅を始めてからは初めてのことだった。
英気を養った一行は、さてそろそろ次の目的地へ向かおうと港に集まる。

「は〜、楽しかったわぁ。出ていくんが惜しなるなぁ」

「この旅が終わったらまた皆で来ましょうよ。それで? 次は何処行くんだっけ?」

「後残っているのは、北のテノスね。雪国だから、こことの温度差で体調を崩さないよう気をつけないと」

「マジかよ。防寒着でも買っときゃ良かったな……」

「君はまだマシな格好じゃない。ボクは素肌を晒け出してる女性陣が心配だな」

「寒い所、行くのか? キュキュ、寒い、苦手……」

「キュキュちゃんみたいな格好だと風邪引きそうだねぇ」

「でも確かテノスは戦時下で、船で直接は入れないから、手前にあるマムートに上陸するんだよね? そのマムートにはどう行くんだっけ」

「……いや、そんな事を気にする必要は無いようだぞ」

リカルドの言葉の意味がわからず、一行がキョトンとしていると、静かだった港が矢庭に騒がしくなった。

見れば、武器を構えた無数の王都兵がこちらに迫って来ており、一行はあっという間に包囲されてしまう。

「動くな、全員連行する!」

「オレ達の居場所、バレちまってたのか!? クソッ!」

キュキュは近くに居た兵を蹴り飛ばし昏倒させ、他の皆もそれに続こうとしたが、どういう訳かコンウェイに制止される。

その意図が分からないスパーダは反発したが、リカルドはコンウェイに賛同して銃を構えた。

その銃口は王都兵ではなく、何故かルカ達に向けられている。
それを見て、皆はこの状況を作ったのがリカルドであることを理解した。

「……リカちゃんがずっと隠してたのはこれ?」

「そういう事だ。大人しくしていろ」

「リカルド、てめぇ……」

「リカルドさん、貴方は契約を遵守される方だと信じていましたけれど……」

「寝返ったのね? このサギ師! 裏切り者!」

「ええ、嘘ぉ……リカルドのおっちゃん、最低やぁ……」

「すまんな。契約よりも重い物もあるって事だ。これも世の常、諦めろ」

「理由くらい……聞かせてよ」

抵抗をやめて項垂れるルカに銃を向けたまま、リカルドは簡潔に答える。

「ガードルという男は、俺の兄だった。……前世の話だがな」

──ああ、そこに話が繋がるのか。

通りで前に会った時は両者共にあっさりと引き下がった訳だと、皆より先に彼らが兄弟である事実に気付いていたヴィスは納得する。

詳しい事情は分からないが、恐らくこの件にガードルが絡んでいるのだろう。
リカルドのあの思い詰めた表情は、兄と仲間のどちらを取るべきか悩んだいたせいか。

「これはこれは、転生者ども。中には久しい顔も居るな」

と、思案に耽っていたヴィスは、その声で今の状況を思い出した。
声の主を見て、それが誰かを知るイリアは怒りを顕にする。

「マティウス……あんたが糸を引いてるのね! リカルドに何をしたの!?」

「糸を引く、だと? お前達、自分の立場が解っていない様だな。適応法による逮捕・拘禁中に逃亡した上に、我が教団の愛する兄弟達をも傷付け、転生者の風評を著しく低下させた……これは重罪だぞ? ──よって、ここで宗教裁判を行わせて貰う」

「宗教裁判ですって……? そんな前時代的なもの、何の拘束力も無いでしょう!?」

「娘、お前ならこの名前を知っていよう。我ら教団には、枢密院のお墨付きがあるのだぞ」

枢密院、というのが何か分からないヴィスには、一体それがどういう意味を持つのかは分からなかったが、アンジュには理解出来たのか、悔しそうな顔で押し黙る。

「では判決だ……貴様らはグリゴリの里にて、生涯幽閉させて貰う。命を奪わないのは、同じ転生者としてのせめてもの情けだ」

「同じ転生者……やっぱり君は魔王なの? 創世力を手に入れて、何をしようとしているの!?」

「フフフ……またいずれ教えてやろう。──さあ、こいつらを船に乗せろ!」

マティウスの指示で、兵たちは銃を押し付ける形で皆を連行していく。
さてどうしたものかと思いながらも素直にそれに従っていたヴィスは、すれ違い様にマティウスに引き止められる。

「──待て。お前は……?」

「?」

「マティウス様、どうなさいましたか?」

桟橋の途中で立ち止まったヴィス達に気付けたのは、列の最後尾に居たリカルドだけだった。

呼び止められたヴィスにも心当たりはなく、初対面の筈のマティウスを不思議そうに見つめる。

「……予定変更だ。この男は私が預かる。グリゴリに引き渡すのは無しだ」

「はい?」

「聞こえなかったのか? この男は私が預かると言ったのだ。他の連中はそのままでいい。グリゴリには、捕らえたのは七名だけだと伝えろ」

「は、はぁ……承知致しました」

突然のことに兵は疑問符を浮かべながらも、ヴィスを置いて先に船へと向かった。
場に残ったままのリカルドを見て、マティウスは「お前も先に行け」と促す。

「そいつをどうするつもりだ?」

「お前には関係の無い事だ。知る必要も無い」

「……っ」

目的を果たす為には、今ここでマティウス達に反抗する訳にはいかない。

だが、グリゴリの里で、自分の目の届く範囲に置いておけるのならともかく。
転生者にこんな真似をする相手と。世界を破滅に導こうとしているかもしれない相手と、ヴィスを二人きりにしてしまって大丈夫なのだろうか?

リカルドはマティウスの考えを読み取ろうとしたが、覆面を被る相手の表情を窺い知る事は出来なかった。
苦悩するリカルドを見て、ヴィスはへらりと笑う。

「よく分からないけど……俺なら大丈夫だよ、リカちゃん。心配しないで、先に行ってて」

────何が大丈夫なものか。ろくに戦えもしないくせに。

リカルドはそう言いたかったが、何も言えなかった。
マティウスはヴィスの協力的な態度に意外だなと呟く。

「抵抗するものかと思ったが……聞き分けが良くて何よりだ」

「俺もマティウスさんの事は前々から気になってたからね〜。色々と聞きたいこともあるし、お話する機会が貰えて光栄だよ」

「ほう? ならば茶でも飲みながら、ゆっくりと話すとしようか」

本当にそんな穏やかなもので済むのか?
どうしても嫌な予感が拭えないリカルドに、マティウスが再度退場を促す。

それでも渋るリカルドに、ヴィスは「説得してくる」と断りを入れて、一旦マティウスの傍を離れる。

「リカちゃん、マティウスさん達と組んでるなら、あんまり反抗的な態度取っちゃダメだよ。何が目的か知らないけど、ここまでやっておいて、今更手切られちゃったらリカちゃん困るでしょ?」

「開口一番にそれか? 裏切り者の俺の心配より、お前は自分の心配をしろ。原因を作った俺に言えた事では無いが……奴と二人きりになるという事が、どれだけ危険な事か解っているのか?」

「心配性だなぁ。大丈夫だってば」

「何を根拠にそんな……楽観的過ぎる」

「リカちゃんは考え過ぎだよ。それに、ルカくん達にはともかく、俺にそこまで気持ち割かなくてもいいんだよ?」

その発言が何故か彼の癇に障ったらしく、リカルドは元々寄っていた眉間の皺をより深くした。

「……俺がお前の事をどう思おうが、それは俺の勝手だろう」

リカルドの真剣な眼差しと言葉にヴィスは目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んだ。

「君って、どこまでも優しいよね」

そして徐にリカルドの両肩に手を乗せると、少しだけ背伸びをして、そこにある頬に口付ける。

「────は!? ふざけている場合か!!」

「ふざけてると言うか、愛しさが限界を突破して、つい」

「何がつい、だ。俺は本気で心配しているんだぞ!!」

激怒するリカルドにケラケラと笑ったヴィスは、それを宥めて今一度言う。

「俺は本当に大丈夫だから、リカちゃんは先に行ってて。ね?」

「………………」

「もう一回キスした方がいい?」

「やめろ。……言っておくが、お前がどんな目に遭っても、俺が助けに行く事は出来んぞ。強がっているだけなら、今のうちに逃げろ」

「逃げたりなんかしないよ〜、俺がマティウスさんに用があるのは本当だもん。だから別にそれでどうなったって、リカちゃんが気にすることじゃないよ。ほら行った行った〜」

「なっ……待て、押すな! 話を聞け!」

ヴィスはぐいぐいとリカルドの背を押して、強制的に船に乗せた。
手を振り出航する船を見送ったヴィスは、マティウスに向き直る。

「さてと。これでもう、他の誰かに話を聞かれる心配は無いよね」

「……気遣い痛み入るな。お前は、私の正体に気付いているのか?」

「申し訳ないんだけど、全然。──だから、それを知る為に残ったんだよ」

ヴィスは笑顔を取り払って言った。
至極真面目な顔で、素顔の知れない相手を見据える。

「ルカくん達は君を魔王だと思ってるみたいだけど、そもそも、魔王なんてものは存在しない。創世力を使ったのは魔王なんかじゃないしね。だから、君がその生まれ変わりだなんて事は有り得ない」

「……ああ、そうだ。その通りだとも。確かに私は魔王などでは無い。──だが、創世力を使ったのは私だ」

「……? そんな筈は無いよ。俺は創世力を使ったのが誰なのか知ってる。その転生者は他に居るから、君じゃない」

「フフ、それはどうかな?」

マティウスは覆面を外し、その下の素顔を晒す。
それを目の当たりにしたヴィスは、我が目を疑った。
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