05.未だその心は知れず
「何よ、このシケた場所は! あ〜もう、信じられない!」抜け出すことも出来ず、やる事も特に無かったルカ達は、特に目的も持たずに里をぶらついていた。
グリゴリの何人かと言葉を交わしたりもしたが、元々の軋轢と罪人という肩書きのせいか、話が弾む事は無く、我慢の限界が来たイリアは鬱憤を爆発させる。
「イリア、大きな声だね……」
「デカくもなるっての! こんな所で幽閉よ、幽閉! こっんっなっとっこっろっでっ!」
「こっんっなっとっこっろっでっ!」
「発音練習じゃないっての! とにかく、こんな島絶対抜け出してやるんだからッ!」
「うう……コーダ、腹が減ったんだな、しかし。メシはまだか、しかし?」
「そもそも、ウチらご飯食べさせて貰えるんやろか? めっちゃ嫌われてもーてるやん」
「わざわざここに連れてきた以上は、飢え死にさせるつもりは無いと思うけれど……豪勢な食事とはいかないでしょうね」
「くっそ〜。それもこれも、リカルドの野郎が裏切りやがったせいで……!」
「……おっと。噂をすれば、だよ」
近付いてくる人影に逸早く気づいたコンウェイが言って、皆の視線が彼と同じ方を向いた。
リカルドの姿を捉えた不良貴族のスパーダは、ズンズンとそちらに歩いていく。
「てめぇ……勝負しに来たのか? 受けてやるぜ! 素手か? それとも得物アリか!?」
「スパーダくん、乱暴は駄目。幽閉だけじゃ済まなくなるでしょう。──何かご用ですか、リカルドさん?」
雇い主のアンジュに冷静に問われたリカルドは、それぞれの顔をじっと眺めてから答える。
「……お前達の様子が気になってな」
「おっちゃん、言いたないけど、様子が気になるくらいやったら、端から裏切らんといて欲しいわ」
「フッ……まったくだな」
「ねぇリカルド、僕達はどれぐらいの間、ここに居ないといけないの?」
「一応、罪人という扱いだからな。下手すれば一生だろう」
「一生!?」
「ざけんじゃねぇよ!!」
騒ぎ立てるイリアとスパーダにも動じず、リカルドは話の席を設けると言って、皆を建物の中へと誘導した。
通された部屋のテーブルには、パンやスープ等のまともな料理が用意されており、それを見たコーダは上機嫌でそれに飛びつき、ルカ達も席に座る。
「話は食事が終わってからにしよう。……後でまた来る」
そう言ってリカルドは退出してしまったので、ルカ達は大人しく目の前に並んだ食事を片付ける事にした。
食が進まない様子のルカに対し、空腹のコーダは手当り次第に口の中に詰め込む。
「これからどうなるんだろう……僕、父さんの期待に答えられないままなのかなぁ。家を継いで欲しがってたのに……」
「お前はいいじゃん、親父さんに目を掛けられてただけでもよ」
「スパーダくんのご実家は、騎士の名家なんでしょう? 親御さんの期待は高くなかったの?」
「上に何人も兄貴が居るからよ、継ぐべき地位も領地も財産もねぇんだ。ずーっと放ったらかしだぜ」
「じゃあ、スパーダは将来騎士になれないの? あんなに強いのに……」
「まあ、騎士籍を手に入れるのは難しいだろうな。でも、自分に誇りが持てるような……誰かを守る仕事には就きたかったかな」
「スパーダはそういうの似合いそうだね。イリアは?」
「あたしの村は貧しい開拓村だから、学校も無くてね。だからいずれ、村に学校を作りたいなぁって……そして、そこの校長になるの!」
「イリアが学校の校長だって? ガラじゃねぇなぁ〜」
「それ、めっちゃ勉強出来なあかんのとちゃうん? イリアねーちゃんが勉強? マジで?」
「うっさいっての! これから頑張りゃいいんでしょ、これから! ──ああでも、ルカならそこの教師に雇ってあげてもいいかもね」
「いいね、それ。……でも僕、本当はお医者さんになりたいんだ」
「わぁ、それええんちゃう? ルカにーちゃんやったら、優しいええお医者になれるわぁ」
「家業を継いで、父さんと働くのも嫌じゃないんだけどね。アンジュは?」
「私は……そうね、田舎でのんびりと教会住まいしたいな。食べ物の美味しい土地で、信者からのご喜捨で、質素に暮らしていくの。でも、お祭りの時だけは華やかに。──あ、あと温泉とか、名産のワインがあったりすると、もうそれだけで最高ね」
「アンジュって現実主義だなぁ……望めば叶いそうじゃねぇ?」
「皆夢があってええなぁ……ウチ、将来のことなんて、何も思いつかへんわ」
「別にいいのよ、エルはまだまだ子供じゃないの。これから見つければいいんだって」
「ちゃうねんちゃうねん! 今なんか言うて、皆に聞いて欲しいねん!」
そんな風に、ルカ達は将来の夢について存分に語った。
扉の外でその会話を聞いていたグリゴリの者達は、何も知らずに呑気なものだと嘲り笑う。
同じく待機しているリカルドは、自分がどうすべきなのかをずっと考えていた。
手術を行えば、ルカ達がどうなってしまうか分からない。
ガードルの口ぶりからしても、何事もなく無事に終わるとは思えない。少なくとも何かしらの後遺症は残るだろう。
そうなれば、彼らが今語っているような夢を叶えることなど、到底出来なくなる。
ガードルのやろうとしている事が、この世界にとって正しいのか、間違っているのかは定かではない。
しかし、だからと言ってその為に、無垢な少年少女の夢を、この先の未来を、人生を、犠牲にしてしまってもいいのだろうか?
食事に盛った睡眠薬が効いてきたのか、聞こえていた話し声は徐々に消えていった。
扉に耳を押し当てて、物音すら聞こなくなったのを確認してから、リカルドは兵士らと共に部屋に入る。
すっかり眠ってしまっている様子の一行を見て、グリゴリの学者は興奮した様子で下卑た笑いを漏らした。
この学者にも、他の者にも、ルカ達は良くて実験動物としか思われていないのだろう。
そんな奴らに、彼らを渡してしまっていいのか?
自分はここでそれをただ見ているだけで、本当にいいのか?
グリゴリ兵の手が彼らに伸びる。
その指先がルカ達に触れる直前────