06.原罪が齎したもの
「――ん? ありり? なんだぁ? 体が動かないぞぉ?」そのまま彫像のように横倒しになったハスタを見て、スパーダ達はキョトンとする。
「何だよ、今度は何のマネだ?」
「いやいや、オレ様にもサッパリ、何が何だかわからんぜ? もしかして、お客様の中に超能力者が居られます? 居たら手を挙げて教えて下さーい!」
ヴィスは仲間達の術でリカルドの傷が癒えたのを確認してから、地面に倒れているハスタの前に屈んで、身動きの取れない相手を見下ろす。
「ハスタくん、今日はこのくらいにしない?」
「何言ってるんだい? パーティーはまだ始まったばかりさ、お楽しみはこれからじゃあないか!」
「えー、じゃあこの槍壊してもいい?」
「え? いやいや、それはナンセンスだろう? 槍使いから槍を奪うなんて反則だ! 異議あり! ……なーんちって、その槍はそんな簡単には壊れま――」
せーん! と言いかけたハスタの目の前で、ヴィスの手に握られていた槍は突如崩壊した。
サラサラとした砂山になってしまった槍の残骸を見て、ハスタは目をパチパチと瞬かせる。
「……こいつぁたまげた。ハスタくん、もしかして大ピンチ?」
「帰ってくれるなら後で返してあげるけど、どうする?」
金縛りを解かれたハスタはうーんと唸った後、渋々それを承諾。
「いやぁ、一杯食わされたなぁ。とんだジョーカーが居たもんだぜ。でも、次はもう同じ手にはかからんぜ? ほいじゃ、バイバイキーン!」
ヒョイヒョイと崖を登ってその向こうに消えるハスタに、呆気に取られていた一行は少しの間を置いて我に返る。
「な……何が起こったんだ? おいヴィス、どうなってんだよ?」
「いやー、退いてくれてよかったね」
「いや良かねぇよ! 逃がしてどーすんだ!」
「ヴィス、さっきのどうやった? あれも天術か?」
興味津々といった様子で聞いてくるキュキュに、ヴィスはニコニコと笑顔を向けるだけだった。
その笑顔と、先程の得体の知れない、圧倒的な力のギャップはどこか不気味で、リカルドは畏怖のようなものを感じながら尋ねる。
「……お前の天術は、物を出す力なんじゃなかったのか? そもそも、戦えないと言っていた筈だが……」
「ほんまに、吃驚したで。あんなん出来るんやったら、もっと早よ使てくれたら良かったのに」
「ごめんねー。でも、今のは本当はあんまり良くなくてね。やっちゃ駄目なことなんだよ」
「やっちゃ駄目って、どうして? 凄く便利なのに」
「……公平じゃなくなる≠ゥら、かな?」
いつかナーオス基地でヴィスとしたやり取りを思い返しながらコンウェイが言うと、ヴィスはまたも口を閉ざして笑う。
「何よそれ、どういうこと? どうして公平じゃなきゃいけないのよ?」
「えっとねー、そうしなさいって言われてるんだ〜」
「言われてる? 誰にです?」
「うーんとね、お父さん? かなあ? それより、他の皆は怪我とか大丈夫?」
「まーたはぐらかしたよ。つかよ、父親に言われたって、お前記憶喪失なんじゃねーのかよ?」
「あ。それはほら、これまでの旅のおかげでちょっとずつ記憶が戻ってきてて……」
「……なーんか怪しくない? ヴィス、あんた本当は最初っから記憶喪失なんかじゃ無いんじゃ……」
仲間達からそんな疑惑の目を向けられたヴィスは、非常に困ったといった顔でリカルドに助けを求めた。
「……まあ、今はいいだろう。ハスタが居なくなったとは言え、ここはまだ戦場だ。テノスまではまだ距離もある。日が暮れないうちに行くぞ」
皆釈然としない気持ちはありつつも、リカルドの主張は正しいとしてそれに従った。
リカルドはまたヴィスを背負うつもりで屈んだが、ヴィスはそれを断る。
「俺のせいでまたリカちゃんが怪我したら嫌だから、もういいよ。さっきはごめんね。ふざけてないで、捕まった時にちゃんと逃げてれば良かった」
それはつまり、その気になれば彼はいつでも逃げられたという事で。
丸腰のハスタを見逃した事も、さっきの術も、記憶喪失の話も、未だ不鮮明なマティウスとのやり取りも、全てがヴィスに対する疑心に繋がっていく。
「……コンウェイには話したのか?」
「え? 何が? 何を?」
「さっき、あいつだけ何か知っているようなことを言っていただろう。公平がどうとか……」
「あー、別に詳しく話したとかじゃないんだけどね。コンウェイくんと嫌味の応酬してる時に、流れでうっかり口が滑ったみたいな感じで……覚えてるとは思わなかったけど」
「そうだとしても、あいつが俺達よりお前の事情に明るい事に変わりは無いな」
「まぁ、コンウェイくんは詮索するのが好きみたいだからね〜。性格悪いよね」
「聞こえてるよ。詮索はお互い様だと思うけど?」
「わぁ地獄耳。って言うか、まだ居たの? ルカくん達と先に行ってるかと」
「そうするつもりだよ。キミ達も遅れないようにね」
そのやり取りを見聞きしていたリカルドの機嫌は、最悪を通り過ぎていた。
それを感じ取ったヴィスにどうしたのかと問われても、何も言わずに歩き出す。
その怒りの原因が、立て続けに迷惑をかけてしまったせいだと解釈したヴィスも、自責しつつ痛む足でのろのろと皆の足跡を辿った。