07.君が望んだ世界

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――親愛なるリカちゃんへ。

……手紙の書き出しってこんな感じでいいんだっけ? なんか違う気もするけど、まあ内容が伝わればいいよね。

時間が無いから、あんまり書けないかもしれないけど……お願いの前に、伝えておかなくちゃいけないことがあるんだ。

この手紙を読む頃には、もうバレちゃってるかもしれないけど……俺は人間じゃない。
転生者でも、ガードルくんみたいな生き神でもない。皆が創世力って呼んでる力の塊……始祖の巨人が遺した意志に、勝手に芽生えた自我、みたいなものなんだ。説明が難しいから、実体のある幽霊、とでも思ってくれたらいいよ。

元々は、今みたいにハッキリとした自我なんて持ってなかった。ただぼんやりと皆のことを見てるだけの存在でしか無かった。
でも、ずっとそうやって見てるうちに、感情と呼べるようなものが生まれて、皆みたいに色々と考えるようになったんだ。

凄く長い時間を天上界で過ごして、楽しいと思えることもあったし、悲しいこともあった。
天上界の崩壊は、その沢山あった出来事の中で、俺にとって一番悲しくて、受け入れ難いことだったんだ。

天上界が崩壊したのは、絶望したアスラくんが力を暴走させた結果なのかもしれないし、相反する願いを同時に叶えようとした結果なのかもしれない。どっちも、ってこともあるのかもね。

でも、一番の原因は……創世力が、つまりは俺が、アスラくん達の願いを、正しく汲み取れなかったせいだと思うんだ。

自我があっても、俺はまだ心っていうものを理解出来てはいなかった。だから、あの時のアスラくんやイナンナちゃん、デュランダルくんの気持ちも、わかってあげることが出来なかった。
もしわかっていれば……あんな風に、誰も幸せにならないような結果にはならなかったんじゃないかなって。

だから……独りになってから、俺は願うようになった。
俺が創世力じゃなかったら。俺が皆と同じように、この世界に生きる一つの生命で居られたら……って。

そうしたらね、いつの間にか、人間の姿で地上に居たんだ。
始めは何が何だか分からなくて……というか、実は今もまだよく分かって無いんだけど、多分、俺は自分の願いを叶えてしまったんだと思う。

嬉しかった。でも、同時に凄く怖くなった。
始祖の巨人が創世力に盟約で制限をかけたのは、誰か一人が力を独占してしまうことの無いようにって、そういう理由だったと思うんだ。

なのに俺が俺の意思で力を使ってしまったら、それが出来るようになってしまったら――それってきっと、凄く良くないことだよね。

だから、もう自分の為には使わないって決めたんだ。元々、創世力はこの世界に生きる皆の為のもので、俺のものじゃないしね。

――話が逸れたけど、そんなわけで人間の身体を手に入れた俺は、せっかくだから当初の目的を果たすことにしたんだ。
つまりは、人の気持ちを学ぼうとしたって事なんだけど……その途中で、ルカくん達と出逢ったんだ。

俺が一番知りたかったのは、アスラくんとイナンナちゃんとデュランダルくんの気持ちだったから……その生まれ変わりのルカくん達について行けば、何か分かるかもって思った。だから、彼らと一緒に行くことに決めた。

そうして、今に至るわけだけど……結論から言うと、今もアスラくん達の願いが本当はどういうものだったのか、どうすれば良かったのか、まだ分かってないんだ。

でも、リカちゃん達と旅をして来て、一つだけ分かったことがあるよ。

リカちゃん、テノスに向かう途中の戦場で言ってたよね。「戦争は色んな人の願いがぶつかって起きる。でも皆の願いを無制限に叶えるような力があれば、今度はそれを巡って争いが起きる」って。

創世力は、正にそれだよね。
創世力が存在する限り、この世界から争いは無くならない。誰かの願いが叶えられる度に、誰かが苦しんだり悲しんだりするような事が起こる。

かつて一つだった世界が、天上と地上に分かれた時もそうだった。
地上に落とされた人達は、高い塔を作ってまで帰りたがっていた。天上界に居た俺はそれに気付けなかったけど……地上に来て、やっとそれを知ったんだ。

だから――前置きが長くなったけど、本題。
リカちゃんに、お願いがあるんだ。

創世力が存在する限り、悲しみが無くならないのなら……創世力を、この世から消して欲しい。

やること自体は簡単なんだ。普通に創世力を使う時と同じで、無くなれ〜って願うだけでいい。
俺が自分でそう願っても叶うかもしれないけど……やっぱりこれも俺が一人で勝手に決めて、勝手に叶えちゃいけないものだと思う。

だから、最終的にどうするのかは、俺以外の人に決めて欲しいんだ。
それはリカちゃんじゃなくてもいいし、この手紙を読んでリカちゃんがどうするのかも、全部君の自由だよ。俺の願いを叶えなくちゃいけない義務なんて、君には無いからね。

……「じゃあどうして俺に言うんだ」って、リカちゃん言いそうだから、先に書いておくね。

これも覚えてるかなぁ? マムートの宿でさ、俺がリカちゃんに「何か欲しいものとかない?」って聞いた時のこと。
あの時、リカちゃんは何も要求しなかったよね。自分のご機嫌は自分で取るからって。

あのね、君だけなんだよ。
前世でも、今世でも、創世力に何も求めなかったのは君だけなんだ。

ガルポスの時だってそうだよ。
リカちゃん、あの時はガードルくんの事で大変だっただろうに、俺のこと心配してくれたよね。
ガラムやテノスで俺が悪夢見た時も、飛空挺でマティウスさんと戦って逃げてきた時も……俺に願いを語るんじゃなくて、俺の願いを聞き出そうとしてくれたのは、リカちゃんが初めてだったよ。

リカちゃんのお役に立てないのも、何故か俺の方が助けられてるのも、凄く不甲斐なくて悔しかったけど……同じくらい嬉しかった。
いつだって上手く返せなかったけど、本当に嬉しかったんだよ。

だからね、リカちゃんがいいなって思ったんだ。
創世力を必要としていなくて、それでいて、俺のお願いを聞いてくれそうな優しい人。
リカちゃん以上に相応しい人って、居ないと思うから。

……本当はこんな風に、誰かにお願いするのも良くないと思う。
言うかどうかも凄く迷ったんだ。でも、リカちゃんは「悩んでいることがあるのなら話せ」って言ってくれるような気がするから。
何も言わずに居なくなるのも嫌だし……でも、勝手なことしてごめんね。

えーっと、スペースが無くなってきたから、そろそろ終わりにしなくちゃ。
この先、皆がどんな選択をして、世界がどうなるのかは分からないけど……俺は、皆が幸せになってくれることをいつも願ってるよ。

ルカくん達にも宜しく言っておいて。
あと、コンウェイくん達にはあんまり心を許し過ぎないようにね! 「用が済んだらさっさと帰れ」って伝えて! 油断しちゃダメだからね!

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