07.君が望んだ世界

塔から突き出た螺旋階段を登り、再び塔の中に戻ると、その先は随分と入り組んだ構造になっていた。
面倒だが、これならば王都軍の兵士達もそう易々と追っては来れない筈だと一行は安堵する。

「でも、マティウスの足止めにはなっていないでしょうね。きっと既に先へ進んでいる筈よ」

「天空城の時とかワープしとったもんなぁ。あんなんズルいで」

「いっそ空でも飛べたらいいのにな。……そういや、飛空艇で上まで行けねぇのか?」

「生憎とこの塔は高すぎる。それに一度墜落したせいで、機体も損傷しているだろう。無理に飛ばして、また墜落でもしたらどうする」

「徒歩で登るしかないってワケね……面倒だけど、仕方ないかぁ」

そんな愚痴を零しつつ、時間をかけて何とか突破した一行は、再び塔の外側に出た。
先程までは地上の光景が遠目に見えていたが、今は陽が落ちかけて赤く染まった空と、まばらに浮かぶ雲しか見えない。

そんな中、キュキュが何かに気付いて顔を上げた。
遅れて、ルカ達もそれに気付いた。飛空艇の飛行音のようなものが、徐々に近づいてくる。

続けて、一行の目の前を赤い機体が横切った。
これまでに何度も戦った、人型の機械兵器――ではあるが、以前よりも更に武装が増えている。

「ほお! お前ら、まだ生きておったか」

「その声は……ブタバルド!」

「黙れクソ共め! この俺をおかしな名で呼ぶな!」

「権力に塗れて肥え膨れた野郎が何言ってんだよ!悔しかったらダイエット成功させてみな!」

オズバルドは憤慨し、一行の前に機体を降ろした。
その風圧でよろめいたルカを、イリアとスパーダが両脇で支える。

「いいだろう……その憎まれ口が二度と聞けぬよう、貴様らでこの新型の性能を試してくれる! マティウス戦のウォームアップだ!」

「マティウス戦……? マティウスを倒してどうするつもりなんだ!」

「知れたことよ。創世力を手に入れ、私は神になる! この世の全てを支配するのだ!」

「……くだらんな。欲に目が眩む貴様のような愚か者が居るせいで、あいつは……!」

と、怒りを露わにしながらライフルを構えたリカルドは、スコープ越しに兵器の動力源となっている筒を目で捉えた。
そしてそこに入っている人の姿を見て驚愕する。

「待て……そこに見えるのは……」

「おやおや、気付いたか? そう、確かこの新型の動力は――――ガードルとかいう名だったかな」

それを聞いた瞬間、リカルドは発砲してしまっていた。
抑えきれない怒りに突き動かされて、そのまま二度三度と弾丸を放つ。

敬愛する兄の命。海に沈んだ彼を助けようとしてくれたヴィスの気持ち。
その二つを同時に踏み躙られて、リカルドの目が怒りに燃える。

「貴様!! 生きて帰れると思うなよ!!」

リカルドは吠えるように叫んで突撃した。
空中に飛んでそれを避けた機体を、キュキュとエルマーナが追いかける。

「どんだけ根性腐っとんねん……ウチらが叩き直したる!」

「誇り、傷つける、許せない!!」

息を合わせて繰り出された蹴りが、機体を元の場所へ叩き落す。
ルカとスパーダはいつものように継ぎ目を狙おうとしたが、これまでの戦闘で学んで改良したのか、どこもかしこも装甲に覆われており、刃が通りそうな箇所は見当たらない。

「クソッ、小賢しい真似しやがって……!」

「何か他の手を考えよう。物理的な攻撃が通らないのなら……」

「魔術で何とかすればいい、だね。ボクに考えがあるから、時間を稼いでくれるかい?」

「わかった!」

ルカとスパーダは左右から挟撃し、敵の攪乱に専念する。
イリアはオズバルドが時折繰り出す銃撃を観察し、相手が撃ち終わった瞬間に、その銃口目掛けて弾丸を放った。
その弾は銃身を通って、装填されていた次弾と内部でぶつかり、爆発を起こす。

「一つ潰したわよ!」

「ナイスだイリア!」

「小娘が調子に乗りおって……!」

悪態を吐きながら、イリアを推し潰そうとする敵の動きを、アンジュが術で封じた。
機を逃さず、詠唱を完了させたコンウェイも術を発動させる。

「青き星の覇者よ、旋渦となりて災いを呑み込め! メイルシュトローム!」

敵の足元に渦潮が出現した。
機体の一部がそれに呑まれて捻れ、中の配線が千切れると共に浸水でショートを起こす。

このままではマズいと一時退却しようとしたオズバルドは、しかし当然視界を奪われてしまった。

辺り一面が闇に包まれている。
風の音も何も聞こえない。何も見えない。何が起きているのかも分からない。

「逃げられると思ったか?」

「ヒィッ!?」

姿は見えないのに、すぐ近くでリカルドの低い声が聞こえて、オズバルドは震え上がった。

頭に銃口を突きつけられているような感覚がする。心臓を握られているような錯覚に襲われる。

「死神がどうやって地上人の魂を刈っていたのか知っているか? 知らないのなら教えてやろう、その身体にな」

「ま……ま、待ってくれ、助け…………」

「助けを乞うのなら、俺ではなく、お優しい創世力様に願うべきだな。そうすれば、あいつはきっと助けてくれるだろう」

例えそれがどんな相手であっても。
彼はこの世界に生きる者の命が奪われることを良しとはしない。

「だが俺は、貴様を許すつもりは無い。そしてこの中なら、あいつの目も届かない。――――良き来世を」

オズバルドは、闇の中で鎌を振り被る死神の姿を見た。
その鎌は機体をすり抜けて、オズバルドの身体を真っ二つに切り裂く。

闇が晴れた。
ガードルが容れられている筒が機体から外れて転がり、動力を失った機体は爆発を起こしながら地表へ落下していく。

リカルドはそれを見届けてから、筒の蓋を開けてガードルを救出した。仲間達も彼らの傍に駆け寄る。

溶液に塗れたガードルは、咳き込みながら地面を這い、隅に咲いている名も無き花に手を伸ばす。

「この世界の……なんと美しいことか……見ろ、地上の花の美しさを……神として永遠に生きる命になど……なんの価値も無い……」

「兄者……」

「叶うなら……転生などせず、魂のまま……この地上に、在り続けたい……」

――――それが、ガードルの最期の言葉だった。

その切なる祈りを聞いて、コンウェイがハスタにしたのと同じように手を翳す。

「……いいでしょう。その願い、叶えます」

光となったガードルの魂は、コンウェイの掌に回収されることなく、天に舞い上がって散った。
小さな光の粒となったその魂が風に運ばれていくのを、一行は見守る。

「これで彼の魂は、彼の愛したこの地上と共に、いつまでも……」

「…………そうか」

転生もしない、という事は、もう二度と会うことは叶わないという事だ。
寂しさを感じない、と言えば嘘になるが、それでもガードルの願いを叶えてくれたコンウェイに、リカルドは感謝した。

彼が望まぬ生に未来永劫縛られるよりは、この方がずっといい。

(……そうだな。望まぬ生に縛られるくらいなら……永遠の孤独を味わうくらいなら……その方が…………)

リカルドは塔を見上げた。
頂上は、もうすぐそこまで迫っていた。
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