01.「初めまして」の再会

「じゃあ、三人とも前世のことを完全に思い出してる訳じゃないんだ?」

貨物列車の一室に押し込められたヴィスは、流れていく景色に向けていた視線をイリアとスパーダに向けた。

今現在この部屋には四人以外に人の姿はなく、皆思い思いの場所に腰を下ろして寛いでいる。

「でもお互いの事は憶えてるんでしょ?」

「まぁね。アスラとイナンナが恋人同士だったって事くらいは憶えてるわ。でも他の事はおぼろげなのよね〜」

「俺もだ。アスラがセンサスの将軍で、センサスとラティオが戦ってたって事は憶えてるんだが……確か最終的にはセンサスが勝ったんだよな?」

スパーダはそうルカに問いかけたが、相手は部屋の隅で膝を抱えて縮こまっていた。
僅かに震えているその身体と絶えず聞こえてくる泣き言に、スパーダとイリアは溜息。

「ルカのやつ、せっかく元気づけてやったのに、列車に乗ったらまたあれだ」

「あたし、あいつのアレそろそろ慣れてきちゃったから、暫くほっときましょ」

「二人は落ち着いてるねぇ、怖くないの?」

「怖くない訳じゃないけど、あいつ見てたらこっちがしっかりしなきゃーって気にもなるでしょ」

「まぁ、前世でだって戦場に居た訳だしな。それに、ビクビクしてたって状況は変わらねぇだろ」

「それはまぁそうだね。……あ、さっきの話の続きだけどさ、つまり二人とも天上界が崩壊した時の事は憶えてないってこと?」

「ぜーんぜん。さっきあのヘンテコな兵士から聞かされてビックリしたわよ」

「俺もそのへんはよく憶えてねぇなぁ。そう言われればそうだったような気もするってぐらいだな」

「そっか……通りで……」

通りでそれだけ仲が良い訳かと、ヴィスは胸中で納得した。

前世は前世だと割り切っているのかと少しばかり期待もしていたのだが、そういう訳ではないらしい。

「あんたはそのへん憶えてるの?」

「え? あー、うん、まぁ憶えてはいるんだけど、あんまり話したくはないかなぁ……誰にとっても良い思い出じゃあないから」

「それもそうか。でも、崩壊の原因くらいは知りたいわね」

「確かに、せっかく戦争が終わってこれからって時に、何が原因でそんな風になっちまったんだ?」

「そう言えば、さっきあの兵士が天上人が滅ぼしたとかなんとか言ってたわね」

「はぁ? なんで天上人が自分達の住んでる所をわざわざ滅ぼすんだよ」

「そんなのあたしが知る訳ないでしょ? いや、知ってるのかもしれないけど、憶えてないわよ」

そんなやり取りの後、二人の視線は答えを求めてヴィスの方へ。
が、答えたくないヴィスは窓に張り付いてそれらから逃げる。

「あ、ほら見て見て、向こうにテントが並んでるよ。あれが西の戦場かなあ?」

「何よ、そのわざとらしい言い方」

「話したくねーなら別にいいけどよ、自分から話振っといて、なぁ?」

「ごめんごめん。憶えてるかどうか確認したかっただけなんだ。憶えてないならそれでいいよ」

「ま、いーけど。あたしが知りたいのは創世力の在処だし」

「……それの詮索も出来ればやめて欲しいんだけどなぁ……このメンバーじゃ二の舞に……」

「ん? 何か言った?」

「──なんにも!」

そんなこんなで、四人を乗せた列車は無事に目的地へと到着した。
線路の周辺には先に車窓から見えていたテントが並んでおり、王都軍の兵士達が忙しなく走り回っている。

四人を連れて来たグリゴリ兵は王都兵の一人にその身柄を引き渡すと、さっさとどこかへ行ってしまった。
どうやら彼らの仕事に戦争への参加は含まれていないらしい。未だそれを拒んでいる様子のルカが、恨みがましそうにそれを見送る。

「よし、貴様らにはこれから王都軍の一員として戦ってもらう! 森へ進撃し、小賢しいガラム兵を殲滅してもらいたい。その前に戦況を説明しよう」

恐らくは指揮官なのであろう、懸章を付けた男が四人の前に立ってそう告げた。
ルカは質問があると言っておずおずと手を挙げる。

「あの……僕たち……まだ何の訓練も受けていない素人なんですけど……」

「問題ない! 貴様らも転生者、常人を超越した能力を持つと聞いている。訓練など不要だ!」

「だってさ、良かったね〜」

「良くないよぉ〜!」

「現在、小賢しいガラム兵は数人単位でのゲリラ戦を展開している。よって遭遇戦により各個撃破してもらいたい」

「何だよ、大したことなさそーじゃん」

「貴様は有史以来最低の愚か者だ! 情報によると、ガラム軍に投入された傭兵団に転生者が交じっているらしい。その高々と伸びた鼻っ柱のまま戦地に臨めば、明日には戦死公報に名前が載るぞ!」

「何が戦死公報よ。いいもん、こっそり逃げちゃおうっと」

「そこの女! 逃げようとしてもムダだぞ! 戦場の周囲はグリゴリ兵に監視させ、貴様らの力を奪う結界も既に設置済みだ。いいか! 敵前逃亡などクソ虫にも劣る下衆外道の所業! くれぐれも逃げようなどと思うな!」

嫌がる子供を無理矢理戦争に参加させる行為は下衆外道とは呼ばないのだろうか。
ルカとは違う理由で戦争に乗り気でないヴィスは顔を顰めた。

その他諸々の必要事項の説明を終えた男に解散を言い渡された四人は、その場を離れてから各々の感想を漏らす。

「なによあのおっさん! ムカツク!」

「おっかない人だったねぇ」

「まぁ、新兵への態度なんてあんなもんじゃねーの?」

「にしてもムカツクわ。後ろからこっそり石投げてやろうかしら」

「やめようよ〜、相手は軍人だよ? きっと呼吸するように僕らを始末したりできるんだ……」

「そんなわけねぇって」

「ルカくん! 大丈夫? ケガはない?」

スパーダの励ましも効かず恐怖に縮こまっているルカにそう声をかけたのは、研究所に残された筈のチトセだった。
突如現れた相手に男衆は驚き、イリアはむっとした表情になる。

「大丈夫だよ、まだ戦闘もしてないし」

「あんた、どうしてここに居んのよ?」

「……さあ? あなたには関係ないと思うんだけど」

「さあ? って何よ! なにあんたすっとぼけてんのよ!」

チトセとイリアの間から発せられる険悪そうなムードを感じ取り、その理由を知らないヴィスはこそこそとスパーダの隣に移動する。

「あの二人、なにかあったの?」

「いや、ありゃ多分お互い生理的に無理ってやつだろ」

「ええっと、チトセさんは教団に入信したんだよね?」

「そうなの。それで教団の奉仕活動の一環として、ここで衛生兵を務めることになったの」

「へぇ、頑張ってるんだね」

「ふふふ。でも私も到着したばかりで、まだまだこれからなの。でも……ルカくんの傍に居られるなんて嬉しい」

「だったら最初から奉仕活動だって言えばいいじゃない。なにがさあ?≠諱I あんたムカ──」

と、悪態を吐こうとしたイリアの口をスパーダが塞いで、そのままずるずると引き摺って行った。

何が何やら分かっていないヴィスはそれらとルカ達を交互に見て、スパーダ達の方を追いかける。

「何すんのよ! あんたあの女の味方なの? あたしの敵? 敵なのね?」

「だ〜ッ! 黙ってろよ! ルカの野郎、良い雰囲気だろ? そっとしとこうぜ」

「あはは、何か二人を見てるとサクヤちゃんとイナンナちゃんを思い出すなぁ。あの二人もなんだかこう、ギスギスしてたよね」

「ああ、居たわねそんな女……待って、そう言われるとそうとしか思えなくなってきたかも……」

「そういやあの子も転生者だもんな、実際あり得るんじゃねぇ?」

そんな会話を繰り広げているうちにルカ達の話も終わったようで、手を振り去っていくチトセにイリア以外の皆が笑顔を返す。

「あ〜ッ! ヤなカンジ〜! あっかんべ〜っだ!!」

「コーダもあっかんべーするのだ、しかし」

「なあルカ、あの子、お前の前世がアスラって知ってんのか?」

「ん〜、言った憶えはないけど、でも知ってたみたいだね。どうしてだろ……」

「やっぱりサクヤちゃんなんじゃない? 雰囲気もちょっと似てる気がするし」

「そんなのどうでもいいでしょ! さあ行こう! あ〜もう、けったくそ悪い!」

怒りが治まらないといった様子で、イリアはズシンズシンと地響きでも聞こえてきそうな勢いで足を踏み鳴らして戦場へと歩いて行く。

スパーダはやれやれと言いたそうに手を広げてその後に続き、少しは元気を取り戻した様子のルカと、愉しそうなヴィスもそれに倣った。
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