02.温情の雪は水に溶ける

結婚の件か、それとも他の何か……例えばジスカルのことを気にしているのだろうか。そういえば、拾っていたアレは結局何だったのだろう?

ユウナを除いてはまだ全員部屋にはおらず、入り口近くの部屋で思い思いに過ごしていた。
ユノもその一角をうろつきながら、ちらちらとユウナの部屋の方へと視線を送る。

「……気になるか」

「あっ、えっ、あの、その」

いきなり声をかけられて、わたわたと手を動かすユノを見て、アーロンが襟の奥でフッと笑った。
雷鳴が鳴る度に、宿にはリュックの悲鳴が響く。

「ユウナが決めることだ、そうしていても何も変わらんぞ。……とはいえ、あの様子では、自分の意思よりも他のことを優先してしまいそうだがな」

「……そう、ですね……」

「……何を考えている?」

「えっ?」

「何か他に気になることでもあるのか」

「あ……えと、その……」

何かを拾っていたということ、話しておくべきなのだろうか。
ユウナが隠しているのなら自分が勝手に話すのも悪いと思うが、もしあれがユウナのあの様子に関係しているのならば、彼女の信頼できる仲間には言っておいたほうがいい気もする。

だがそれもお節介な気も……とぐるぐると考えていると、アーロンに軽く頬をつねられた。

「!、?、?」

「何か知っていることがあるなら教えろ」

「れ、れも、あの……」

「言え」

徐々に強まっていく指の力にわかりましたと言うと、相手はすぐに手を離した。
微妙に感覚の残る頬を擦りながら、ユノは仕方なく自分が見たままのことを話す。

「……何を拾ったのかまでは、分からないんですけど……」

「成程な。隠しているということは、俺たちに見られると都合の悪いものなのだろう」

「都合の悪い……でも、その、ユウナがそんな風なこと考えるとは思えない、です」

「やましい事があるという意味ではない。その都合の悪いものに、俺たちを巻き込みたくない、ということだ」

「なるほど……」

つまりユウナが拾ったものは、少なくとも良いものではないということか。
しかしそれならば尚更問題なのではないかともう一度ユウナの部屋の方を見ると、なぜかそこにはティーダの姿が。

「?」

「どうした」

彼のポーズはどう見ても、部屋の中の音を盗み聞きしているようにしか見えなかった。
アーロンも同じものを見て、ユノの反応を理解する。

「やれやれ……気にするな、放っておけ」

「え、でも、いいんですか?」

「あいつは人の言うことは聞かん」

アーロンはさっさと見るのをやめて去っていったが、ユノはどうしても気になって眺め続ける。

途中でバランスを崩したのかティーダが部屋の中に転がり込んでしまい、その後1分ほどでユウナが出てくる。
すると今度はワッカが部屋の中へ入っていき、数秒後にティーダの「痛い痛い痛い!」という声が聞こえて、なんとなく中で何が起こっているのかが把握出来たユノは苦笑した。






リュックの気力が回復――というのは永遠に来ることはなさそうなので、頃合を見て一行は宿を出た。
相変わらず鳴り止まない雷に脅えるリュックを引っ張って、なんとか平原の終わりが見えたところで、ユウナが足を止めて振り向く。

「皆……ちょっと、いいかな」

「どうした?」

「聞いて欲しいことがあるの」

「ここで?」

「もーすぐ終点でしょ、さくさく行っちゃおーよ」

「今話したいの!」

強く言い放つユウナにどうやら只事ではないと察したリュックが口を閉じる。
アーロンが「あそこで聞こう」と手近な避雷塔を指し、皆がそれに従う。

何を切り出すのかということは誰もが薄々感づいており、ユウナはしばらく間を置いてから、予想通りの言葉を口にした。

「私、結婚する」

「やっぱり……」

「そう来たッスか……」

雷が光り隣でリュックが小さく悲鳴を漏らす。
ユノは話を聞きながら、リュックの手を握りなおした。

「な、どうしてだ? 気ぃ変わったのか?」

「スピラのために……エボンのために……そうするのが一番いいと思いました」

「説明になっていない」

「もしかして……ジスカル様のことが関係してるの?」

「あ! あのスフィア!」

スフィア? ティーダの言葉にふと例の拾い物が浮かぶ。
もしかしてあの時拾ったのは……同じことを思ったのか、アーロンがユウナに詰め寄った。

「見せろ」

「……出来ません。まずシーモア老師と話さねばなりません。本当に申し訳ないのですが、これは……個人的な問題です」

「水くせぇなぁ」

「……好きにしろ」

「すみません」

「だが今一度聞く」

アーロンが言うより先に、ユウナは問われようとしていることに対しての答えを述べる。

「旅は、やめません」

「ならば……よかろう」

「ちょっと待てよアーロン、旅さえしてれば、後はどーでもいいのかよ!」

「その通りだ。シンと戦う覚悟さえ捨てなければ……何をしようと召喚士の自由だ。それは召喚士の権利だ、覚悟と引き換えのな」

「でも、何か……」

アーロンに掴みかかったティーダは、その勢いを失って唸る。

ティーダが言いたいのはきっと、ユウナの幸せを考えないのかだとか、心配じゃないのかとか、そういうことなのだろう。

けれどそれは恐らく、皆同じ気持ちだと思う。
それでも止めないのは、彼女の意思を汲んで、なのだろうか。

「ユウナ、いっこだけ質問がある。シーモア老師と話すだけじゃダメなのか? 結婚しねえとマズイってか?」

「……分からない。でも、覚悟は必要なんだと思う」

「そ、そうか」

「ユウナ……」

リュックがユノの掌からすり抜けて、ユウナの傍に歩み寄る。
鳴り止まない雷に「うるさいッ!」と一喝して、その両肩に手を乗せた。

「覚悟ばっかりさせて……ごめんね」

「いいの……大丈夫」

大丈夫。
彼女はこれまでに何度そう言って自分を奮い立たせてきたのだろう。

召喚士の旅はそれだけでとても辛く重いのに、その上にまだ背負おうとする彼女はどれだけ強いのか。
見習うべきなんだろうなぁと、ユノは遠く感じるその背を眺める。

「ともあれ、ひとまずはマカラーニャ寺院を目指す。ユウナはシーモアと会い、好きに話し合えばいい。俺たちガードはその結論を待ち、以降の旅の計画を考える。いいな」

リュックはそれからは雷が怖いとは言わずに、他の皆と同じように黙々と歩いた。
誰も何も言わずにいたが、全員がユウナのことを案じているのはその雰囲気から感じられた。
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